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2人の令嬢〜婚約編〜 5

食事を食べ終わり、母と食後のお茶を飲みながらセシリアはふと思い出した。


自分の事でいっぱいいっぱいだったが、この洗礼の旅の収穫はルミエと自分の過去を両親に受け入れて貰えたことばかりではなかった。

私が前世を思い出すきっかけになった、金髪の公爵令嬢・・・私の初めての友達。

母にも聞いて欲しい。


「そういえば、お母様。私、アラモンドで初めての友達が出来たんです」


母は少し首を傾げた。


「まぁ、お友達?」


友人の姿を思い浮かべるセシリアの顔が笑顔になる。


「はい。リリアナ・アラモンド公爵令嬢です」


辺境伯夫人は驚いた顔をした。


「まぁ!公爵令嬢様と?・・・何かしでかしてはいない?シア」


信用が無さすぎてガックリと肩を落とすが、すぐさま反論する。


「失礼な事はしてません!」


辺境伯夫人はくすくすと笑いながら言った。


「冗談よ、シア。公爵令嬢様も、シアと同い年でいらしたのねぇ。どんな方でしたか?」


「月の光みたいな金色の髪に藍色の神秘的な瞳をした、とても可愛らしい方でした!それに、すごく勉強熱心で・・・」


懸命に語るセシリアのきらきら輝く瞳を見ながら、辺境伯夫人は微笑んで話を聞いていた。どうやらセシリアの貴族令嬢らしからぬ部分を知ってもなお、友誼を結んでくれたらしい公爵令嬢に心の中で感謝を捧げる。


「・・・それで、リリアナ嬢も学園入学を目指しているって言ってました。ぁ、もちろんそれがあるから私も目指すわけではないんですけど!」


慌てて言い訳めいた事を言う娘に笑いかけながら辺境伯夫人は言った。


「わかっていますよ。良い友人を得る事が出来たのですね、シア。大切な友に恥じないように、貴女も努力しなくてはなりませんよ」


「はい、頑張ります!」


いつもの調子を取り戻したらしい娘に、辺境伯夫人は再度微笑んだのだった。




アラモンド領の宿を出発したヴェルリンド辺境伯夫人とセシリアを乗せた馬車は、途中吹雪に見舞われはしたものの、出発から13日後に無事に辺境伯領へ到着した。


辺境伯領の領都は、それ自体が砦の役割も果たす北の国境の防備の象徴でもある。外見は華美とはほど遠く、堅牢な外門と内門、高さが15メートルはあろうかという塀の上には領軍の騎士が常に巡回し国境を注視している。門をくぐると宿や商店が立ち並ぶ商人街があり、その向こうにはさらに塀がある。当然そこにも門が2つ設けられ、そこを通ると領民が暮らす市街地が広がっている。市街地を抜けるとまた塀と門があり、そこを越えてやっと辺境伯の屋敷が見えてくるのだ。


領都の1番外側に商人達の町があるのは、領都を建造した初代辺境伯の意向である。辺境であるが故に商人はヴェルリンドに定住するものでは無く、商人であるが故に戦の風を読むのも早い。いざ戦となればこの土地に留まる人民ではないから、最も逃げやすい外側に町を配したのである。


それとは逆に領民はこの土地の者であるが故に他に逃げる場所がない。そのため、いざという時は家を捨てても辺境伯の屋敷がある壁の向こうには住民を収容するだけの広さと設備、資材が常備されている。石造りの建物は無理でも、天幕や簡易の木造小屋は建てられるし、井戸もいくつも掘られてある。もちろん食糧などの備蓄も充分である。


勇猛さで知られるヴェルリンド辺境伯家だが、辺境伯領に住まう人々もまた、豪気な気質の人々であった。領民は女性であっても短剣くらいは扱えたし、家には武具があるのが普通で手入れは日常生活の一部である。隣国や国境付近に現れる蛮族との小競り合い、辺境伯領に隣接する大森林から這い出してくる魔獣との戦いが頻発する辺境においては、ただの領民といえども立派な戦力なのだ。襲い来る外敵を追い返すくらい出来なければこの地では生きていけない。


敵に対しては一致団結する結束力こそが、ヴェルリンドの強さなのかもしれなかった。


辺境伯家の馬車が領都に入ると、気付いた領民が口々に馬車に向けて声をかけてた。


「お帰りなさいませ!」


「洗礼おめでとうございますお嬢様!」


ほぼひと月振りの帰郷を喜び、口々にお祝いの言葉が投げかけられるのが嬉しくて、セシリアは馬車の窓から顔を出して手を振って応えた。


「ただいま!!無事に帰りました!!」


辺境伯家の子ども達は代々領民との距離がとても近い。他の貴族ではなかなか考えられないが、これも初代からの教えである。

「顔も知らぬ領主やその家族が、領民に理解されるはずもない。顔を合わせて言葉を交わす。信頼はそこから築かれるものだ」


結果として、ヴェルリンド家と領民の関係は他領ではあり得ない程強固なものとなっている。


領民街を抜けて最後の門が見えたところで手を振るのをやめて馬車の中に座ったセシリアに、辺境伯夫人は楽しげに言った。


「多分今日は皆も祝いの宴を開くでしょうから、蔵にあるワインをシアの名前で振る舞いましょう」


「はい!ありがとうございます、お母様」


(旅するのも楽しかったけど、やっぱり我が家が1番だわ)


帰る場所があるからこそ楽しかったのだ、と気づいてセシリアは胸が温かくなるのを感じたのだった。

2人の令嬢〜婚約編〜第5話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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