2人の令嬢〜婚約編〜 3
「神殿で、ってことは控え室での話なのか?」
洗礼前には子ども達が控え室に集められて順番を待つので、誰かと知り合うならそこしかないだろう。
そう思って妹に問いかけるレオンにリリアナは頷く。
「そうなんです!本を読もうと思って本棚のところに行ったら・・・その子も居て。すごくキレイな子なんですけど、お話ししたらとても楽しい子で」
自分の不注意でぶつかってしまったことは恥ずかしいので伏せてしまったが、セシリアの事を思い出しながら夢中で兄に話す。
「銀色の髪と紫の瞳の、雪の妖精みたいな子なんです!私と同じ歳なのに、いろんな事を知っていてびっくりしたんです」
うんうんと頷きながらリリアナの話を聞いていたレオンだったが、ふと疑問に思った。領内に銀髪を持つ家があったろうか。
そう言うと、リリアナはふるふると頭を振った。
「彼女は、領内の貴族ではないんです。北の辺境伯家の方で、セシリア・ヴェルリンドとおっしゃるの」
聞けば、大司教の巡礼の護衛の任に就いた父について、このアラモンド領までやって来たのだという。ヴェルリンド辺境伯家と言えば音に聞こえた武門であり、辺境伯は王国騎士団の団長も務められているはずだ。
「辺境伯家のご令嬢が、騎士団による護衛の旅に同道なさったのか!それは凄いな」
少なくとも普通の貴族令嬢ではあり得ない。流石はヴェルリンド家といったところか。
リリアナもこくこくと頷く。
「巡礼の護衛のついでに大司教様から洗礼を賜われるから、ってわざわざアラモンドまでいらっしゃるんですもの。私びっくりしちゃいました」
頬を上気させながら初めての友人のことを夢中で語るセシリアを見ながら、レオンは微笑んだ。
話を聞く限りは普通の貴族令嬢とは大分違うようだが、リリアナはそのご令嬢と友人になれた事が嬉しくて仕方ないらしい。お互いを愛称で呼ぶことにしたのだと嬉しそうにしているリリアナを見ているだけで癒される。
「洗礼後に、セシリア嬢は領地に戻られたのかな?」
リリアナは頷いた。
「はい、洗礼後は戻ると言ってました・・・アラモンド領からヴェルリンド領までは、馬車でどのくらいなのかしら」
「私も行ったことはないが・・・恐らく、ゆっくり行って15日くらいじゃないかな」
馬で飛ばせばもっと早いだろうが、馬車ならそれくらいだろう。
「私、セシリア嬢にお手紙を書くと約束したんです」
「それなら、書いて出すといい。ちょうど帰宅される頃に手紙が届くんじゃないか?」
はい、と頷いてリリアナは笑った。
レオンは少し考えながら言葉を紡ぐ。
「もしかしたら、3ヶ月後にセシリア嬢に会う機会があるかもしれないぞ?」
「え?!」
「リリはまだ聞いてないのか。3ヶ月後に、王太子殿下の誕生日を祝う宴があるんだ。社交デビュー前だから私達には本来関係ないんだが、王家が宴の前に王太子殿下と同じくらいの年頃の貴族の子どもと懇親会をやるんだそうだ」
「懇親会・・・?」
リリアナは今までそんな催しがあると聞いた事がなかったが、レオンが言うには初めての試みなのだという。
不思議そうに目を瞬かせる妹を見ながら、父から懇親会のことを告げられた時の事を思い出す。リリアナに言うつもりはないが、懇親会への参加をレオンに言いつけた父からはくれぐれもリリアナから目を離さないように命じられた。言われずともそのつもりだが。
「近い歳の子どもが集まる機会はそう多くないから、早いうちから親交を深めることが出来ればよいと、そういうことらしい」
王家の手紙にあった建前を告げれば、リリアナは頷いて笑った。
「もしかしたらセシリア嬢もその場に招かれるかもしれないということですのね?」
「まぁ、そういうことだな」
辺境伯家の家柄と実力を考えれば、まず間違いなく招かれるだろう。
「まぁ・・・!もし会えたら、とっても嬉しいです!是非お兄様にも紹介したいです」
ウキウキとした様子で無邪気に喜ぶリリアナの様子が微笑ましい。
「そうだな、もしお会いできたら私もセシリア嬢とお話ししてみたいよ」
はい、と頷くリリアナに笑いかける。そうして兄妹はそれぞれが3ヶ月後の懇親会に思いを馳せた。
翌日、王都の学園寮へ向けてレオンが出立する日。
朝から馬車に荷物を積み込み、準備を終えた頃に家族が見送りに門の前まで出てきた。
リリアナが真っ先に兄に駆け寄る。少し乱れた妹の髪を直してやりながら、レオンは言った。
「学園の事が聞きたかったり勉強で何か困ったら手紙で報せるんだぞ」
「はい、お兄様。どうか道中お気をつけて」
仲睦まじい兄妹の様子を微笑みながら見ていた公爵夫妻も息子に言った。
「レオン、貴方こそなにかあったら報せるのですよ?何もなくとも便りを出してね」
「はい、母上。まだ寒い季節ですので、どうぞご自愛ください」
「今期もしっかり学んでくるのだぞ」
「はい、父上。ご期待にそえるよう努力します。それでは、行って参ります」
馬車に乗り込んだ兄が窓から顔を出す。リリアナと目が合うと、その口が『がんばれよ』と動いたのがわかって、リリアナは大きく頷いて手を振った。
「いってらっしゃいませ!お兄様!」
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