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逆行令嬢 5

「お帰りなさいませ、あなた」


執事長に外套を手渡していた公爵は、出迎えた妻に微笑みかけて腕を広げる。


「今戻った」


抱擁と頬へのキスを交わす両親を見上げ、レオンとリリアナも挨拶をする。


「お帰りなさいませ、父上」

「おかえりなさいませ」


きちんと礼をとりながら挨拶をする我が子達を見て、公爵は嬉し気に目を細めた。


「ただいま、レオン、リリアナ」


公爵一家はそのまま居間に移動する。居間にはメイド達によってお茶の準備が整えられてあり、妻のセリーヌをソファへエスコートした公爵はその隣に腰掛ける。

父の真似をして兄も妹をエスコートして座らせてあげているのが微笑ましい。


「セリーヌ、留守中の様子を聞かせてくれ」


夫に請われて、公爵夫人は品よく微笑んで小首をかしげた。


「そうですわね・・・レオンが屋敷に帰ってきましたが、毎日学園の課題をこなし、騎士団長の手ほどきを受けて剣の鍛錬も頑張っておりますわ。リリアナもキングストン夫人のご指導を受けながら励んでおります。あともう少しで基礎教育は終えられると報告を受けておりますわ」


「ほう」


公爵は子ども達に目を向けた。一生懸命にすまし顔をしている息子と、褒めてほしそうに目を輝かせる娘を見て破顔する。


「レオンは学園の前期試験も優秀な成績だったと報告を受けている」


「学園では学ぶべきことも多く、毎日充実しております」


「そうか。多くを学び、鍛え、また得難き友を得る機会を見失うことなく過ごすと良い」


「はい、父上」


父に努力を認めてもらえたレオンは嬉しそうに頷いた。


「リリアナは、もう基礎教育を終えそうなのか」


「はい。こうようごは、よんでかけるようになりました。せいほうごは、よむのはできます。きぞくのしゃくいやマナーもべんきょうしています」


「淑女教育も順調に進んでいるのだな、我が家のレディは」


「はい!カテーシーがきれいになったとキングストンふじんがほめてくださいました!」


「そうか」


家族はそのまま、色んなことを話す。主に子ども達ができるようになった様々なことを話し、公爵はそれらに感心しながら相づちを打つ。

ひと段落したところで、公爵は妻に問いかけた。


「セリーヌ、新年の宴の準備はどうなっている?」


「つつがなく差配しておりますわ。先ほどあなたがお持ちになった荷も、教会へ移送するよう手配してあります」


「そうか、ありがとう。・・・そうだ、新年を迎えたあとだが」


公爵はリリアナに目を向けた。


「リリアナも6歳になる。洗礼式に行かねばな」


この国では、6歳になる子供は皆、その年の新年に教会で洗礼を受ける。各教会には魔力量や属性、適正を測るための透明な魔石版があり、それに触れた子どもの能力を計り、神物に祈ることで祝福を得る一連の行事を洗礼式と呼ぶのだ。

人は皆誰しも大なり小なりの魔力を有しているが、その保有量は魔力が安定する6歳頃までに決まり、以降生涯減ることはあっても総量が増えることはない。

洗礼式は才能のある子どもを見落としたりしないため、また悪意を持つ者から才能ある子どもを守るためにも必要な儀礼であった。


「せんれいしきにいったら、まほうのべんきょうもできるのでしょう?おとうさま!」


「そうだな。身の内に宿る力を正しく使えるように、よく学ばねばな」


学ぶことが嫌いではない・・・というより、学ぶことが好きなリリアナは嬉しそうだ。


「幸運なことに、新年には大司教様が我が領に巡礼においでになるようだ」


「まぁ。それではリリアナの洗礼式は、大司教様に・・・?」


「あぁ。洗礼式を大司教様に行って頂けることになった。我が領の子ども達の一生に一度の洗礼を大司教様に執り行って頂けるとは幸せなことだな」


「本当に。なんて善き報せでしょう」


両親の話を聞いているリリアナは、誇らしい気持ちでいっぱいになった。


「わたし、せんれいしきをりっぱにつとめてきます」


やる気に満ち満ちた様子のリリアナの頭を、隣に座るレオンが撫でる。


「そうだな。リリの晴れ姿を見るのが私も楽しみだ」




年の暮れが近づいてきて、公爵邸でも新年の宴の準備が本格化し、次第に慌ただしい雰囲気となってきていた。公爵は領主としての仕事に追われているし、公爵夫人も屋敷内の差配のみならず領内の婦人会との会合に出かけているし、執事長を筆頭に屋敷の使用人達も新年の挨拶に来るであろう領内の貴族達のため、屋敷の客室や応接室の準備に奔走している。


自室の扉の向こう側の忙しそうな気配を感じつつ、リリアナは読んでいた本を閉じた。


(ひま・・・)


家庭教師を務めてくれているキングストン夫人も休暇に入っているし、自習の課題は出されているが今日の分はとっくに終わってしまった。皆が忙しく立ち働いているのに、小さい自分には手伝えることがなにもない。


「お茶でもお持ちいたしましょうか?」


部屋付きのメイドが声をかけてくれるのを聞いて、リリアナはハッと閃いた。


「ねぇ、いまおにいさまはおへやにいらっしゃる?」


時計を確認したメイドは、「はい、おられると思います。まもなく自習の休憩時間だと思いますわ」と教えてくれる。


「じゃあ、おにいさまといっしょにおちゃをのみたいわ!じゅんびしてくれる?」


「かしこまりました」


(おにいさまのきゅうけいのおてつだいならわたしにもできるわ!)


こうしてリリアナは兄の部屋へ向かったのだった。



第5話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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