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転生令嬢 24

湯浴みを終えて、髪を軽く拭って用意されていた夜着に着替えて部屋に戻ると、侍女が果実水を差し出してくれた。


ありがたく受け取ってドレッサーの前に座ると、風魔法で髪を乾かしてくれる。そうして香油を軽く塗り込んだ髪を丁寧に梳る侍女に身を任せてぼんやりしていると、侍女から声をかけられた。


「お食事はどうなさいますか?時間も遅いので、軽めのものをご用意しておりますが」


セシリアはにこりと笑って答えた。


「ありがとう、食べるわ。お腹空いちゃった」


「では、食堂へどうぞ」


侍女はセシリアにガウンを着せると食堂へと案内した。

宿とはいっても、最上階の階層を丸ごと借り切っているのだ。我が家のよう、とまでは言えなくても、他人の目がないのは気楽で良い。


セシリアが食堂に行くと、父と母が窓際に置かれたソファに並んで腰掛け、ワインを飲んでいるところだった。久しぶりに会う父に付き合っての事だろうが、母が食事の時以外でワインを飲むのは珍しい。


「おはよう、シア。体調はどう?」


優しく微笑みながら問いかける母に、セシリアもにこりと笑って答えた。


「一眠りしたら疲れも取れたみたいです」


セシリアに用意されていたのは、ふんわりした白パン、蒸した鶏と野菜、よく煮込まれた具沢山のシチューだった。


「俺達は先に食べちまったからな、シアはゆっくり食べるといい」


「はい」


セシリアは食前の祈りを捧げると、ゆっくりと食事を始めた。パンはほのかに甘くて柔らかいし、胡麻と胡桃のソースがかかった蒸し鶏も美味しい。シチューも蕩けるような味わいだった。


セシリアが食事をする間、辺境伯夫妻は辺境伯が留守にしていた間のことを穏やかな様子で話していた。まるっきり、いつも通りの様子だ。


(お父様、お母様に何もお話になってないのかしら・・・)


もしかしたらセシリアが起きてくるまで待っていたのかもしれない。そうであるならーーーさて、どこから話をしよう?


食事を終えると、食後のお茶を侍女が淹れてくれた。そうして食器を片付けて静かに退出していく。


(・・・あれ?)


いつもなら誰かしら使用人が控えているのに、気がつけば食堂にいるのは辺境伯親子3人のみだ。

思わず父母の方を見ると、母の穏やかなーーーそれでいて大変恐ろしい笑顔があった。もちろん獅子の幻付きだ。


「それでは、シア?色々と、わたくしにも話して頂けるかしら?」


父はといえば最早何かを悟り切った顔をしている。これは恐らくきっと絶対、父が立ち会った洗礼の内容については洗いざらい吐かされた後だ。


若干引き攣った笑顔で、セシリアは尋ねる。


「ええっと・・・色々、とは・・・?」


まぁ、と言って少し目を丸くする母は、さらに恐ろしい気配を濃くした。


「シアは、母には何も話せないとでも言うのかしら?先ほど貴女のお父様から洗礼のお話は聞いたわ。けれど、わたくしは貴女からきちんと聞かせて頂きたいの」


これは逆らってはいけないやつだ。

セシリアはひとつ息を吐くと、母の顔を見る。辺境伯夫人は、セシリアの紫の瞳をじっと見つめていた。


「・・・お話、します。今日の洗礼式ではーーー」


そうしてセシリアは語った。光の精霊の加護を得たこと、魔力量がかなり多いということ、火属性の魔法の適正があったことーーー。大司教からの有難い申し出があって、加護については秘密にしてもらえたこと。


あの場で取り決めた通りの内容を一通り語り終えて、改めて母の顔を見る。

母は、とても悲しそうな瞳でセシリアを見ていた。




「お母様・・・?」


先ほど話した内容でも、かなり大事の部類に入ってしまうものだったから、やはり心配をかけてしまったのだろうか。でも、もうその話は父から聞いていたはずなのに。


「シア。話すべきことは、それだけですか?」


「えぇと、それだけ、とは・・・」


辺境伯夫人は深いため息を吐くと、ソファから立ち上がってセシリアの前に立った。そうして、セシリアを思い切り抱き締めた。


「セシリア。この馬鹿娘」


抱き締めてくる母の身体から響く声は少し震えていた。


「貴女は、貴女の母であるわたくしをみくびり過ぎています。この母が、貴女から何を聞いたとて、変わるとでもお思いですか」


声はさらに続く。


「わたくしは、貴女がどんな存在であれ、貴女の母なのですよ?精霊の愛し子だから、魔力量が膨大だから、それがなんだというのです。シアはわたくし達の可愛い娘。シアはシアです」


「お母様・・・」


気付いてる?私が何かを言えずにいることを。


「怯えることは何もありませんよ、シア。何があろうとわたくし達は貴女を愛しています。貴女がわたくし達を愛してくれているより、もっと深く。だから、大丈夫。全て受容れるのが親というものなの。信じて、セシリア」


娘を抱き締める妻の傍に、辺境伯も歩み寄った。そうしてその大きな身体で、2人まとめて抱き締める。


「俺達を頼れ。信じろ、シア。必ず守ってやる」


両親に抱き締められたセシリアの目から、大粒の涙が溢れた。

転生令嬢編第24話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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