転生令嬢 19
申し訳なさそうに身を小さくしている父を隣で見つめながら、セシリアは呆れと感動がない交ぜになったため息を漏らした。
流石は我が父。『あの人は本能に従って生きているのよ。でも大切なことはけっして見失わないの』と母が褒めて(?)いたが、全くもってその通りだ。
セシリアが光の精霊の加護を得ていること、莫大な魔力量を持つこと、そして光の魔力ーーー主に癒しの力に長けていることをどうやって話そうかと思っていたが、ここで「話さない」という選択肢を増やされてしまった。
だが・・・知っていることはもちろん危険だが、知らないゆえの危険も有り得る。まして、貴族籍を持ち、頑強な軍事力を有する辺境伯という身分を考えると、万が一露見した場合には反逆罪を疑われかねない。その時「知らなかった」と言っても誰も信用しないだろう。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
悩むセシリアの脳裏に相棒の声が響いた。
(何を悩んでるの、セシリア)
(お父様が予想外の事を言うから、どうしたらいいのかわかんなくなっちゃって)
(秘密にするのか、しないのか、ってこと?)
(うん、まあ、そうね・・・)
単純だが、要するにそういうことだ。
相棒はさらに問いかけてくる。
(セシリアは、お父さんが好きなんだよね)
(もちろんよ。お母様も、お兄様も、家族みんなを愛してるわ)
(家族も、セシリアを愛してる?)
(・・・だと、思うわ。だからお父様は選択肢をくださった。私のためにって)
(僕もセシリアのことが大好きだよ)
(うん)
好き嫌いの話ではなかったはずだが、念押しするように訊いてくる相棒にセシリアは律儀に答える。
精霊は、心底わからないという風に言ってきた。
(僕はセシリアが好きだから、困ったことがあるなら助けたい。なんでも話してほしい。---セシリアも、セシリアのお父さんも、そうじゃないの?人間同士だと、違うの?)
単純明快な相棒の言葉に、靄が晴れる思いがした。
セシリアは、向かいの椅子に座る大司教へ視線を向けた。
大司教は考え込んでいるセシリアの様子を見守っていたようだったが、決意が固まった紫の瞳を見て取ると、にこりと笑って頷き、改めて感嘆した様子で辺境伯に語りかけた。
「流石は、辺境伯様です。そこまでの事を察しておられながら、お嬢様のための選択肢を残そうなどと・・・なかなかできることではございません」
「いえ、そんなことは・・・」
大きな身体で恐縮した様子を見せる辺境伯に、大司教は言う。
「ご謙遜なさいますな。この老いぼれも、これまで長いこと沢山の子どもたちの洗礼に立ち会って参りましたが、我が子のためにここまで心を砕ける方はそう多くございませんでした」
大司教はふぅ、とひとつ息を吐く。
「・・・辺境伯がそういうお方であるからこそ、ご令嬢のことは把握なさるべきかと存じます。ご令嬢のためにも」
大司教の言葉を聞いて、辺境伯は隣に座る娘を見た。
セシリアは、自分によく似た父の紫の瞳を見つめてこくんと頷く。
大司教はセシリアの魔石板を机に置くと、それを指し示しながら言った。
「先程の光の洪水は、ご令嬢の洗礼を祝福する神のもたらす光です。そして、ご令嬢は・・・光の精霊の加護を頂いております。それに加えて魔石板には、莫大な魔力をお持ちであること、また光魔法への適正と記されていることが読み取れます」
「光の、精霊・・・?」
辺境伯はぽかんと口を開けたまま絶句している。そのまま固まってしまったが、しばらくして大きく息を吐いた。
「そいつは・・・なんというか、大変だな・・・?」
他に何か言い方は無かったのか、父よ。
思わず半眼になったセシリアを見て、辺境伯は慌てて両手を振る。
「いや、わかっているとも!!それがどんな事態なのか!!」
ものすごく疑わしいが、さすがに理解していると思いたい。
白い眼を向ける娘の視線から逃れるようにコホンとわざとらしい咳をした辺境伯は大司教に向き直った。
「お話は理解しました、大司教様。ーーーついては、さしあたって今後どうすべきか、というお話をせねばなりません。ご相談申し上げても?」
「もちろんです、辺境伯様。お嬢様と辺境伯様のご意志を尊重したいと私は思っております」
辺境伯は頷いて、娘に問いかける。
「シア、お前はどうしたい。その力と加護を以て王家に殴り込みをかけるんでも、神殿と組んで悪の枢軸を叩くんでも、俺はお前がやりたいようにやればいいと思ってるぞ」
「お父様・・・」
セシリアは思わず額に手を当てる。流石ヴェルリンド家の当主と言うべきか。何故殴り合いが前提なのか・・・。
だが、発想が殴り合いなだけで、根本にあるのは『セシリアの自由にして良い』ということだ。
「私は、まだ何がしたいとか、そういうことを考えたことはありません。ーーーでも、この加護と力を誰かに利用されるのは嫌です」
それは自分の中の揺るぎない願いだ。
セシリアの言葉を聞いた辺境伯は「そうか」と言って笑顔を見せた。
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