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転生令嬢 18

「・・・シア!セシリア!大丈夫か?!」


水盤に凭れ掛かるようにして膝をついた状態だったセシリアは、父の呼びかけに気づいて目を開けた。

見れば、大司教も膝立ちの状態で、額に手を当て頭を振っている。


「・・・お父様。大丈夫です」


しっかりした声で応えたセシリアの様子を確認した辺境伯は、大司教に手を貸して立ち上がらせた。


「大司教様も、大事ありませんか?」


辺境伯とて突然迸った閃光に驚いただろうに、動揺する素振りも見せずにまずは二人の安否確認をする辺りが流石である。


「・・・あいすみませぬな。私も大丈夫です、辺境伯様」


大司教もそう応え、錫状を支えに自らの力で立つと辺境伯に向き直った。

辺境伯はようやく安堵の息をもらす。


「ご無事で何よりです・・・突然光が爆発したかと思えば、娘も大司教様もお倒れになっていて、肝が冷えましたよ」


どうやら、セシリアと大司教があの不思議な空間にいた時間は、現実の時間ではほんの僅かの間だったらしい。

父には大丈夫と答えたが、だいぶ身体が重く感じる。心が切り離されて別の空間にいるというのは、存外体力を消耗するようだ。大司教様は大丈夫なんだろうか・・・セシリアがそう考えていると、ルミエの思念が聞こえてきた。


(セシリア、大丈夫?)


(うん、大丈夫よ。大司教様も大丈夫みたい)


(神官はだいぶ歳をとってるから、あちらにいくはずのダメージも全部こちらで引き受けちゃったんだ)


・・・なるほど。それで私だけこんなに身体がだるいのか。


(きっとその方が良いよなと思ったんだけど、怒った?)


事後承諾なのはどうかと思うが、事前に聞かれても同じ結果だったので怒れるはずもない。


(ううん、怒らないよ。ありがとう、ルミエ)


さすがにこの相棒は、ルーナだったセシリアが何を嫌がるのかわかっている。物を壊すこと、人を傷つけること・・・それは生まれ変わっても自分が忌避するものだ。『ルーナ』はそれが行き過ぎて早死にしたようなものなので、今生では気をつけたいところではあるが。


セシリアがルミエと心で会話をしている間に、大司教が水盤からセシリアの魔石板を取り上げた。そうしてそこに刻まれた神聖文字に目を走らせ、ほぅ、と深いため息を吐いた。


「ヴェルリンド辺境伯様、セシリア嬢。此度の洗礼について、少しお話を致しましょう」


大司教はそう言って、洗礼の間の続きにある部屋へ辺境伯親子を誘った。

その際、セシリアにちらりと目を向ける。その榛色の瞳で『お任せあれ』と告げる大司教に、セシリアは微かに頷いてみせた。




案内された部屋はこぢんまりとしていたが、趣味の良い落ち着いた調度類が置かれ、柔らかな絨毯が敷かれた居心地の良さそうな部屋だった。


大司教は辺境伯とセシリアにソファを勧め、自分で手早くお茶を用意すると2人に振る舞ってくれた。


「思いもかけない洗礼になり、お疲れでしょう。どうぞお飲みになってください」


辺境伯は礼を述べると、茶器を手に取る。大きな手なのでまるでカップがおもちゃのように見える。少しぬるめのそのお茶を一息に飲み干すと、太いため息を吐いた。


「いや、無作法で申し訳ない・・・いささか、動揺していたようで・・・」


父の手を良く見れば、細かく震えていた。極度の緊張と動揺が無い混ぜになっていたのだろうことがわかって、セシリアは自分の手をそっと父の手に重ね合わせる。

辺境伯は、隣に座る娘を見やってよく似た紫の瞳を細めて苦笑を浮かべ、もう一方の手を娘の手に重ねた。


「落ち着かれましたかな?」


自らも茶を飲みながら大司教がのんびりと声をかけた。そんな大司教の様子を見て、セシリアは内心苦笑を漏らす。これから辺境伯に特大の爆弾に等しい事を告げる様には間違っても見えない。


「お気遣い頂き、申し訳ない・・・。それで、我が娘の洗礼についてのお話、ですが・・・」


辺境伯は居住まいを正して言った。


「それは俺が・・・失礼、私が、どうしても知らなければならない事ですか?」


室内が静まり返った。

大司教は驚きで目を丸くしているし、セシリアは腰が抜けそうになった。


「お、お父様・・・?」


辺境伯はちらりと娘に視線を向けたが、さらに大司教に言った。


「先程の光の爆発といい、その後の大司教様と我が娘の様子といい、恐らくは・・・というか、絶対に何か大変な事が起きたのだということはわかっております。ですが、その話を私が知ることで娘に何か良くないことが起こり得るなら、私が何も知らずにいるというのも選択肢の中にあっても良いと思いまして」


辺境伯は大きな手で頭を掻く。


「私はこの通り、貴族とは名ばかりの無作法者です。学があるわけでもない。あるいは我が妻ならば娘の為に何か考えられるかもしれませんが、私は剣を取るしか能がない。娘の洗礼の内容を知りたくないわけではありませんが、それが本当に良いことなのか私には判断がつかんのです」


そう言って身の置き所が無さそうに大きな身体を縮こませる辺境伯に、大司教は感嘆の表情を浮かべた。

転生令嬢編第18話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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