表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/83

転生令嬢 16

窓から差す日の光が僅かに夕陽の色を帯びてきた頃、セシリアのいる待合室に神官がやってきた。


「セシリア・ヴェルリンド辺境伯令嬢様、お待たせしました。洗礼のお時間です」


もうこの部屋に残っていたのはセシリアだけだ。奇しくも洗礼の順番が前世と同じく最後のひとりらしい。


「はい」


セシリアはゆっくりとソファから立ち上がり、神官に続いて部屋を出た。礼拝堂へ続く通路を歩きながら精霊に心で話しかける。


(洗礼が始まったらよろしくね、ルミエ)


(了解だよ、セシリア。あんまり長い時間は無理だから、話は手短にお願い)


手短に、か・・・説得に掛けられる時間はそう長くないらしい。

それでも、普通ならそんな時間を取ることすら無理なのだから、ここはチャンスを活かすべく頑張らねば。


ルミエは大司教は『ルーナ』を知っていると言っていた。大聖女として認知された時には『ルーナ』は既に『ルナーリア』という貴族の名前だったから、神殿に属する大司教が大聖女ルナーリアを知っているのなら理解できるのだが・・・。

でも、精霊たるルミエは嘘は言わない。だからセシリアは自分が『ルーナ』であったことを彼に納得してもらえばいい。


あの神殿長以外で、『ルーナ』を知っている神官・・・


考え込みながら歩くうちに、前を歩く神官が立ち止った。


「こちらが洗礼の間になります。中で大司教様がお待ちです」


「あんない、ありがとうございます」


セシリアが礼を述べると、神官は頷いて洗礼の間の扉を押し開いた。


「セシリア・ヴェルリンド辺境伯令嬢をお連れ致しました」


案内してくれた神官は一礼すると退室し、洗礼の間に入ったセシリアは一礼する。


「セシリア・ヴェルリンドです。よろしくおねがいします」


「どうぞ顔を上げてください、セシリア嬢。此度の巡礼の旅にお付き合い頂いていたそうですな。大変だったのではありませんかな?」


落ち着いた穏やかな声に促されて顔を上げると、父である辺境伯の隣に、白く豊かな髭をたくわえた小柄な老人が微笑んでいるのが見えた。

年老いた皺深い顔だが、その榛色の瞳は生き生きと輝いていて、不思議な懐かしさを感じる。


「いえ、きしだんのみなさまにおきづかいいただいて、とてもたのしいたびでした」


(この方が、大司教様・・・)


「ほっほっほ、それは重畳。ーーー随分お待たせしてしまいましたが、これより洗礼の儀を執り行わせて頂きますぞ。どうぞ、こちらへ」


大司教に促され、不思議な光を放つ水盤の側へ歩み寄る。


大司教が手に持った錫杖を床に打ち付け、シャン!と涼やかな音を立てる。

セシリアは手を組んで、祈りを捧げた。


「セシリア・ヴェルリンド。聖水にて手を清め、魔石板に触れなさい」


清らかな水をたたえる水盤に、セシリアはゆっくりと手を差し入れる。


(いよいよだわ・・・頼んだわよ、ルミエ!!)


深く息を吸い、水に濡れた指を魔石板へ伸ばしーーーその指先が触れた瞬間、真っ白な光が溢れ出て洗礼の間を満たしたのであるーーー




目も眩むような神の祝福の光が迸った瞬間、大司教トビアス・ウッドフェローは驚愕していた。


何せ本日2度目の光の洪水である。驚かないほうがおかしい。

しかし、今感じたこの光は、先刻のものよりも何故だか既視感がある。これは、忘れもしない、大聖女ルナーリアの・・・いや、あの哀れなルーナの洗礼の時に洗礼の間から漏れ出た光に良く似てはいないか。


ややあって大司教が目を開けると、そこは洗礼の間ではなく、どこまでも白い空間であった。


「ここは、一体・・・」


周りを見渡しても何もない。キョロキョロと周りを見回す大司教の後ろから、軽やかな少女の声がかけられた。


「大司教様」


振り返ると、共に洗礼の間にいた少女が立っていた。

銀の髪の少女はゆっくりと大司教に歩み寄って頭を下げる。


「急にこんな所にお呼び立てして、申し訳ありません」


「ここは・・・セシリア嬢、貴女が私をここに?」


セシリアは軽く肩をすくめた。


「正直、私もここがどこか知らないんです。私の相棒は、大司教様と私の心を繋ぐから、そこで話せ、と」


「相棒、とは」


「・・・光の精霊です」


大司教は榛色の瞳を見開いた。僅かに震える声で呟く。


「光の精霊、とは・・・よもやそんな・・・」


「・・・大司教様。私は、自分の加護と力を出来るだけ秘密にしたいのです。法の定めには逆らう事だとわかっています。でも、私はもう、誰からも利用されたくはないのです」


両手を組んで懇願するセシリアに、大司教が気にかけてきた少女の姿が幻のように重なって見える。


「・・・ルーナ、さん・・・」


ため息のように微かに囁かれたその名前に、セシリアは目を細める。ルーナをさん付けで呼ぶ年老いた神官の榛色の瞳。


セシリアの脳裏にひとりの見習い神官の姿が浮かぶ。


「・・・あの時、ポケットから飴をくれたのは、貴方だったのですか・・・?」


それは、見習い神官トビアスが、洗礼前に不安そうにしていた女の子を慰めようとした時のことだ。それを知るのは、トビアス本人とーーールーナだけだ。


大司教の目から、とめどなく涙が溢れてきた。

転生令嬢編第16話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


少しでも「おもしろい!」「続きが気になる!」と思って頂けましたら、ブックマーク登録!

また、広告下にある【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて頂けたら嬉しいです!


★の数は読者の皆様のご判断次第ですが、★の数が多ければ多いほど作者のやる気ゲージが上がります。


応援よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ