転生令嬢 15
さて、ルミエは再び私に加護を授けてくれるというが、問題はここからだった。
何せこれから洗礼の儀がある。大司教と父である辺境伯にはセシリアが光の精霊の愛し子であることが分かってしまうのだ。
(お父様は・・・まぁ、何とかなるとして。問題は神殿に知られることなのよね・・・)
前世と違い、今生のセシリアには辺境伯令嬢という身分がある。それに、さすがに大司教という立場にある神官が、あの時の神殿長のように腹黒い人物だとは考えたくなかった。もしそのような人物なら、セシリアの両親がわざわざ洗礼をその人から受けさせようと思わないはずだ。
(ねぇ、ルミエ)
(なに?)
(洗礼の時に、あのピカー!って光るの、どうにかならないかな?)
セシリアの言い様に、精霊は苦笑混じりに答える。
(あれは神からの祝福だからねぇ。あの光があるからこそ、僕ら精霊は愛し子と魂が結ばれるんだ)
(あら?じゃあ今の私とルミエはまだ無関係なの?)
(セシリアは、ルーナだった魂を持ってるから。だから君の呼び声が僕には聴こえた。それでも、生まれ変わった魂とはもう一度契約をしないとならない)
(えぇっと、愛し子になるためには毎回光らないとダメなの?)
(祝福の光の規模のことを言ってるなら、契約する精霊の力の大きさに比例する)
(つまり?)
(僕はけっこう力持ちのほうだから、光っちゃうよね)
(そっかぁぁぁ・・・)
セシリアは内心頭を抱えた。力持ちという表現はどうかと思うが、とてもわかりやすい例えだ。しかも光の属性は闇の属性と並んで希少であり、その加護を得たとなると神殿や国が自分を放っておいてくれるとは思えない。だが、前世の二の舞は避けたい。
「どうしよう・・・」
思わず小声で漏らしてしまう。
(セシリアは何に困ってるの?)
ルミエが問いかけてくる。
(僕がいるから困るの?)
不安そうな精霊の思念を聞いて、セシリアは小さく首を横に振る。
(そんなわけないじゃない。ルミエは大事な私の相棒よ。昔も今もね)
ただなぁ、と内心ため息を吐く。
(私とルミエを利用しようとする人達が、前みたいに群がって来るのは面倒なのよ)
周囲に知れたら間違いなく、今までのようには暮らせなくなる。それは前世で経験済みなのだ。
(それなら、何とかなるかも)
思いがけない精霊の言葉に、セシリアは軽く目を見開いた。
(何とかなるってどういうこと?)
まさか洗礼の時にこの神殿を壊そうとでも言うのか?
セシリアのそんな疑念を感じ取ったのであろう精霊は、そうじゃないと否定してきた。
(要するに、セシリアと僕の事をみんなには秘密に出来れば良いんでしょう?)
(そうだけど・・・)
(今日の神官はセシリアのことを知ってるから大丈夫じゃない?)
(大司教さまのこと?それは、護衛の旅に同道してたから私の事はご存じだとは思うけど・・・)
自らの巡礼の護衛を務める辺境伯の娘だからといって、セシリアの洗礼について秘密にはしないだろう。
(あの神官は、ルーナを助けられなかった、ってあの頃ルーナを思いやってた。ずっとルーナを心配してた。だから僕はあの神官のことだけは覚えてる)
(?)
(だからセシリアがルーナだってわかれば、秘密にしてくれるんじゃないかな)
ルーナのことを知っている神官?
あの頃あの小神殿では私は隔離されてたし、神殿長以外の神官なんて見かけなかったけど・・・まして、あれから80年は過ぎてるはずだし・・・
そう考えていると、ルミエは重ねて言ってきた。
(洗礼の時、神からの祝福を賜ったその瞬間にあの子とセシリアの心を繋げてあげる。その時頼んでみるといいよ)
相変わらず、精霊の言葉はわからない事だらけだ。それでも、出会って最初の頃よりはわかりやすく話してはくれてるのだけど・・・
ふと思いついて相棒に聞いてみる。
(ルミエがその人の事を知ってるなら、ルミエが頼んでみた方が良いんじゃない?)
(あの子には僕の声は聞こえないんだよ?僕の声が聞こえるのは君だけなんだから)
(それは私が、貴方の愛し子だから?)
精霊は呆れたように答えた。
(そりゃそうだよ)
(精霊の愛し子は、みんなこうやってお話してるの?)
(どうかなぁ・・・精霊同士だと会話はないし)
(そういうものなの?)
(言葉を使わないと分かり合えないのは人間だけだよ。だから僕は言葉を覚えたんだ。でも、精霊みんながその事をわかってるかはわからない。精霊同士だと別に言葉は必要ないからね)
言葉なくしてどうやってコミュニケーションを取るのだろうとは思うが、そもそも相手は精霊で、人ならざるものだ。価値観も何もかも違うと言われているが、もはやそういう問題でもない気がしてきた。
セシリアはふるりと銀の頭を振った。今はその事を考えても仕方がない。それよりは洗礼式をどう乗り切るかだ。
心を繋げるというのがどういう事なのかもよくわからないが、やってみるしかない。
小さく拳を握って、セシリアは密かに気合いを入れるのだった。
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