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転生令嬢 13

実の親からの音沙汰もない。モーリスはそう嘯いたが、実際はそうではなかった。ルーナを『保護』してから、父親は何度も神殿を訪れてはルーナとモーリス神殿長に面会を求めていた。

おとなしくしておればいいものを、余計なことをされても困ると考えた神殿長は、身分を隠してならず者達を雇い、ルーナの家を襲わせて火を付させた。どうやら平民にしてはいい暮らしをしていたようで、報告にきた破落戸はいい儲けになったと笑っていた。彼らの生死までは知らないが、あれからルーナを求め来る者もいないので死んだのかもしれない。それならば都合が良い。


表情を取り繕って、神殿長はさらに言い募った。


「あの娘は、その力ゆえに親からも見放された哀れな娘です。平民では無理もありません」


神殿長が娘を手に入れるために何をしたのかは知らないが、碌なことはしていまい。神殿長に秘密裏に呼び出された貴族はそう察したが、自分にはそれはどうでもよいことだ。


「なるほど、話はわかった。して、実際のところ、あの娘の力のほどはいかほどのものか」


神殿長は小声で、しかし自信ありげな様子で告げた。


「娘の魔石板からは、光の精霊の加護と大きな魔力、それに癒しの乙女と読み取れました」


「加護だと?!」


精霊の加護を得た子どもを、その怒りに触れずにこの男はどうやって手にしたというのだ。


「加護と一口に言っても様々でしてな。もちろん命の危機には反応するでしょうが、あの娘の加護は世間で言われるほど余人にとって恐ろしいものではないのですよ」


「しかし・・・」


「なに、先程の娘を見てもおわかりでしょうが、今では実に従順です。この私を師と慕ってくれてはいますが、こんな小さな神殿で生涯を過ごすよりは、どなたか心ある方にお預けした方があの娘のためかと思いましてね・・・」


ここに至って、貴族は外面を装うことを止めた。この話を自分が断れば、この男はだれか別の貴族に話を持っていくのだろう。


「わかった。あの娘は私がもらおう。いくらだ?」


神殿長も神職にあるものとしてのなけなしの威厳をかなぐり捨てて昏く笑う。


「そうですな・・・ウルディス大金貨200枚と・・・私が王都の大神殿に戻れるよう、お力添えを頂きたく」


「大金貨200枚と簡単に言ってくれるが、それは騎士団を戦争しながら5年は養えるような金額だぞ。一朝一夕には用意できん」


「それくらいはご用意頂けると見込んでお話をさせて頂きましたが?」


生臭坊主め。

そう思いはしたが、今はあの娘を手に入れる方が大事だと判断し、了承する。


「あの娘は我が家の養女として貰い受ける。神殿預かりの孤児を養女にするのだ。王宮に提出する書類はそちらで準備せよ。大金貨と引き換えで受け取ろう」


「大神殿への口利きもお忘れなく・・・」


貴族の男は面倒くさそうに手を振って答える。


「わかっておるとも。我が家もそれなりの寄進をしておる。今の次席かその辺りに話を通しておいてやろう。できるのはそこまでだぞ」


「十分でございますよ。娘の洗礼の報告はまだこちらに留めてございます。養子の手続きと並行して、こちらもお出しになられるがよろしいかと」


用意周到な神殿長に、貴族の男は鼻を鳴らした。


「ふん。娘の名は?」


「ルーナと」


「いかにも平民らしい貧相な名だな。我が家の養子にするにあたり、名を改める。・・・そうだな、ルナーリアとでも」


「おお、良い名ですな」


神殿長のわざとらしい追従にもはや返事もせずに立ち上がると、貴族の男は扉へ向かう。


「2週間後、金貨を寄進しよう」


「かしこまりまして」


そうして貴族の男は小神殿を後にした。




『寄進』の約束を取り付けた神殿長は、机に置いた自らの両手の間に額を乗せて、クツクツと低い嗤い声をもらした。


ついにやった。大神殿に返り咲く道筋を得た!


大金貨はほんの小遣い稼ぎだ。これを上手く使えば、大神殿内で自らの派閥を作ることも出来るだろう。そうして味方を増やし、高みへ昇るのだ。


上機嫌のまま、先ほどは口をつけなかった琥珀の液体をグラスへ注ぐ。口の中に広がる酒精は、これまでの辛酸を洗い流してくれるかのようだった。


明日からは、娘の養子の手続きの準備をせねばなるまい。多少は見映えも良くしてやらねば。何より娘本人にも、よくよく言い聞かせておかねばならない。


「ルーナ・・・いや、ルナーリアか。お前は私にとって間違いなく、救いの乙女であったな」


グラスの琥珀色を眺めながら、神殿長は満足げにため息をもらしたのだった。




翌日、神殿長はルーナの部屋を訪れた。本があちこちに雑多に積み置かれているごく小さな部屋だ。机と椅子、粗末なベッド、小さなサイドテーブルに水差しが置かれているだけの部屋の中で、ベッドに腰掛けたルーナはぼんやりとしているように見える。


もう家には帰れないと知ってから、この娘はずっとこの調子だ。表情もなく、言われたことを淡々とこなし、自分から喋ることもない。


ルーナがそんな状態でも神殿長には不都合はない。むしろ好都合だった。まるで人形のような娘に、神殿長は今後のことを告げたのだった。

転生令嬢編第13話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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