転生令嬢 11
モーリス神殿長は、神兵達に娘を部屋に運ばせた後、しつこく騒ぐ娘の父親と母親を神殿から追い出した。
「ことと場合によっては、娘の事は私だけで判断出来るものではない。よって、大神殿に判断を仰ぐ。騒ぎ立てれば其方らのためにも娘のためにもならぬと心得よ」
半ば脅しつけるように告げると、父親は歯を食いしばった苦渋の表情を浮かべ、母親は絶望からか真っ青な顔色になっていた。
実際、あの娘はもはやあのふたりの娘であるという事以上に重要な存在となった。もはや親の元に置いておける存在ではないのだ。
そしてーーーーー
「あの娘こそ、私を輝かしい未来へ導くものだ・・・」
娘の魔石板には、光の精霊、偉大な力、癒やしの乙女と記されているのが読み取れた。どれひとつ取ってもあまりに魅力的な力だ。
洗礼の瞬間のあの光の爆発・・・あれは世界のあちこちでごく稀に記録されているものだ。その光は神からの大いなる祝福とされ、それを得た者は皆偉大な功績を残している。時に賢者と呼ばれ時に救国の乙女と呼ばれる者たちである。
そんな祝福を得た者をみすみす逃すわけにはいかないのだ。親が無学な平民で助かった。
問題はあの時扉の前に控えていてあの光を目撃した見習い神官だが…仮にも神殿長の自分の方が遥かに上の立場だ。余計な事を言わぬよう手を回しておけばとりあえず良いだろう。
あとはあの娘を決して我が意に背かぬようにじっくり『教育』してやれば良い。光の精霊の加護を持つ乙女だが、要は自らの意思で私に従っておれば精霊の怒りを買うこともあるまい。危害を加えたり命を取るわけではないのだ。
モーリスは神官としての知識を使って、精霊の加護を逆手に取るような形で娘を隔離したのだ。
「神の怒りに触れたかもしれぬ娘」を「神殿に保護する」のは身命に関わることではない。
賭けに近い行動だったが、精霊の怒りが降りかかることはなく、娘は我が手に落ちてきた。
娘を使って、これからどうやって我が身を高みへ導くか・・・娘を『教育』しながらじっくり考えてやろう。神殿長は昏い笑みを浮かべた。
ルーナが神殿の一室に閉じ込められてから5日が過ぎた。その間、きちんと食事も運ばれてきたし、身体を清拭するための湯や飲み物も与えられたが、そう言ったものを運んでくるのは屈強そうな兵士だけで、神官はこの部屋には近寄ってこなかった。兵士達に話しかけても答えてはもらえず、さりとて逃げられるものでもない。鍵の掛かった扉の向こうには常に見張りがいるらしいとわかったからだ。ルーナには届かない位置に覗き穴もあり、時々様子を確認されている。
普通なら精神を病んでしまうかもしれないような孤独な環境に置かれていたルーナは、その間自分のそばにいてくれている自分の精霊と会話をすることで心の均衡を保っていた。
ベッドに腰掛けて目を瞑り、精霊に話しかける。
(ルミエ、いる?)
(ここにいる)
(わたし、ここをでたい。いえにかえりたいよ)
(我のルーナは、この場所が嫌なのか)
(とうさんとかあさんにあえないもの・・・)
ふむ、と考える気配がして、
(ではここの全てを壊すか?)
ととんでもないことを言い出す。
ルーナは驚いて思わず「なんで?!」と大声を出してしまった。突然大きな声を出したルーナを覗き穴から誰かが確認したようだが、ベッドに座って下を向いているとやがて覗き穴の蓋が閉まった。
再びルーナは心の中で精霊に話しかける。
(きゅうにそんなこといわないで!びっくりしちゃったじゃない!)
(ルーナはここから出たいと言った。邪魔なのはこの建物とあの者達。ならば壊せば良い)
とんだ三段論法を当たり前に主張する自らの精霊にルーナは頭を抱えた。極端過ぎる。
(ものをこわしたりひとをきずつけちゃいけないんだよ、ルミエ)
(何故だ)
(かなしむひとがいるの)
(・・・)
どうやらわからないらしい精霊に、ルーナはため息を吐いた。
(ルミエがそんなことをしたら、わたしもかなしくなるよ)
(それは駄目だ)
(なら、こわしちゃダメ)
(承った)
どうやら神殿破壊は免れたようである。恐ろしい事態にならなくて良かったとルーナがひとり胸を撫で下ろしていると、ガチャガチャと鍵が開けられる音がして、1人の神官が部屋に入ってきた。紫の腰帯を付けたこの男は、ルーナの洗礼に立ち会っていた神殿長だと気付いて、ルーナは身を固くする。
顔はにこやかな笑みを浮かべているが、何だかとても嫌な気配がする。
警戒するルーナを安心させようと、神殿長は口を開いた。
「急にこのような部屋に保護する事になってすまなかったね?」
「ほご?」
「ああ、その通り!そなたがどういう力を得たのか、神殿で詳しく調べる必要があるのだよ」
「いえにかえしてください・・・」
「そなたの親はそなたを神殿に預けることに納得しておる。それがそなたの為ゆえな。この私に、そなたをくれぐれもよろしく頼むと、そう言っていたぞ」
とうさんが?かあさんが?
「そなたの帰る場所はもはやこの私のいる神殿しかないのだよ」
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