転生令嬢 10
魔石板に触れた少女を中心に発せられた凄まじい光に神殿長も父親も思わず目を瞑り、ややあって目を開けると、水盤の手前に少女が倒れていた。
「・・・!ルーナ!!」
父親が血相を変えて少女に走り寄って抱き起こしたが、どうやら完全に意識を失っているようだ。
神殿長はフラフラとおぼつかない足取りで水盤へ、その上に浮かぶ少女の魔石板へ歩み寄る。
(今のは・・・よもやまさか・・・)
震える手で魔石板を掴み、そこに刻まれた神聖文字に目を走らせる。例え神官だろうと、その内容を正確に読み取り理解する事は叶わない。だが、それでも読み取れる事は多くある。
(・・・やはり!!!やっと!やっと私にも運が向いてきた!!)
「神殿長様っ!!娘は、娘は一体!!」
いまだ目を覚さない娘を抱き締めた父が必死に問いかけてくる。同時に、ドアの前に待機していた若い神官が慌てたように部屋に飛び込んできた。
「神殿長様!!ご無事ですか!!今の光はいったい?!」
そこで若い神官は意識のないルーナを父親が抱き締めているのに気づいて駆け寄る。
(邪魔者が・・・いいや、此奴は見習い。まだ何も知るまい)
モーリス神殿長は、魔石板を左手で抱え持つと、右手を挙げて高らかに告げる。
「その娘は、神の怒りに触れたやもしれん!」
「な?!まさかそんな!!」
神殿長の託宣を信じられないような顔で聞いた父は、娘を抱き締める腕に力を込める。その腕の中で、ルーナは少しずつ意識を取り戻してきた。
「・・・ん・・・とうさん・・・?」
神殿長はさらに告げる。
「それゆえ、娘は神殿預かりとし、これより何者とも接触を禁ずる!!ーーーーー神兵!!」
呼び鈴を鳴らし、神殿に仕える兵士数人を呼び、少女を隔離するように言いつける。
「そんな!!お待ちください神殿長様!!」
混乱し、だがそれでも娘を離すまいとしていた父親の腕を抑えて、兵士達が強引に娘を引き剥がす。
ようやくしっかり目を覚ましたルーナは訳がわからない。
(え?なに?とうさん?)
わかるのは、父から引き離されてどこかへ連れて行かれようとしていることだ。
ルーナを抱え込んだ神兵の腕から逃れようともがいても、ルーナの力ではどうにもならない。必死に父に向かって手を伸ばした。
「とうさん!!!」
「ルーナ!!!」
神兵に抑えつけられている父の横に、蒼白な顔をしている若い神官の姿がある。飴をくれた、あの神官だ。
一瞬目が合ったが、ルーナが再び助けを求める前に扉が閉まった。
どうして?どうして??帰りたい・・・
混乱の極致に達したルーナは、再び意識を手放してしまったのだった。
ルーナが目を覚ましたのは、それからしばらく経った頃だった。すでに夜中なのか窓の外は暗く、部屋の中には燭台の灯りが弱々しく灯っているだけで薄暗い。寝かされていたベッドも自分の家の自分のベッドではないと気づいて、ルーナはここが我が家ではないことを思い出す。
(ここ・・・しんでん?とうさんは?かあさんは?)
ベッドから飛び降りて扉に駆け寄る。ドアノブを回して扉を開けようとしてもガチャガチャと鳴るだけで全然開かない。鍵が外から掛けられているのだ。
「だれか!だれかいませんか!!ここをあけて!!!」
声を限りに叫んでみても、ドンドンと手が痛くなるのも構わずに扉を叩いてみても、どこからも応えは返ってこない。
ついにルーナは扉を背にして膝を抱えてうずくまった。自分の膝に顔を埋めて涙をこぼす。
「とうさん・・・かあさん・・・」
洗礼式が終わったら、みんなで家に帰って、そうしてみんなでご馳走を食べて、兄や妹と一緒に眠って・・・そうなるはずだったのに。何故こんな風に閉じ込められているのだろう。
「せんれいしき・・・」
そうだ。あの時、真っ白い場所で出会った真っ白い男の子。あの子は自分のことを、ルーナの精霊だと言っていた。
「ルミエ・・・」
声にならないくらいの小声でその名を呟くと、脳裏に声が響いた。
(なに?ルーナ)
驚いて顔を上げて辺りを見回したが、薄暗い部屋の中には誰もいない。
(ルミエ?ここにいるの?)
心の中で話しかけると、再び精霊の声がルーナだけに聞こえてきた。
(我はルーナとともにある)
(みえないわ。どこにいるの?)
(我はここにある。顕現するには時が足りぬ)
精霊の言葉はやはりわからないことだらけで、ルーナには理解できないが、見えなくても一緒にいてくれているのはわかって、一人きりではないことに少し安堵する。
(これからどうなるんだろう・・・)
その呟きには精霊の答えはなく、ルーナは再び自らの腕で抱いた膝に顔を埋めた。そのままルーナは朝が来るまでじっと扉の前に蹲っていたのだった。
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