転生令嬢 8
ルーナ・・・それは、生まれ変わる前の過去の自分の最初の名前だ。その後に貴族の養子になって名前が変わっても、この相棒だけは彼女をずっと変わらず最後まで『ルーナ』と呼んでくれていた。
(久しぶりだね、ルミエ。私が私だと、貴方にはわかるんだね?)
(そりゃそうさ。僕のルーナがまたこの世に生まれてくるのを僕はずっと待ってた。呼んでくれて嬉しいよ)
当たり前のように呼び声に応えてくれたかつての相棒に感謝の念を送れば、当然だと返ってくる。
前世での洗礼のあの日、ルーナの精霊となってくれた彼はそれから長い年月を彼女と共に居てくれた。そんな相棒の気配を感じながら、セシリアは過去の記憶を整理するように前世を思い返していた。
幼いルーナはその日、両親と共に街の小さな神殿を訪れていた。兄とまだ1歳の妹は家で家政婦と共にお留守番である。
初めて着る真っ白な衣装は両親が誂えてくれた新品で、汚さないように恐る恐る歩く様子のルーナを見た母が笑いながら言った。
「ルーナ、そんなんじゃ礼拝堂に着く頃には陽が暮れてしまうよ」
「だって、よごしたらイヤだもの!」
笑って娘を揶揄う妻とそれに抗議する娘を見た父は、無言でルーナを抱き上げた。
「・・・これならルーナも安心だろう」
最近は反抗期という季節性病を発症しているルーナだが、この時ばかりは大人しく父に抱かれていく事にした。服が汚れたら困るから仕方なくだ!と無言で主張しているが、妹が生まれてから素直に甘えるのが恥ずかしくなったようだと知っている両親は気にも止めずにいる。それがなんだか余計に恥ずかしくて全然素直になれないルーナだった。
礼拝堂の手前で父はルーナを下ろして、そこにいた若い神官に話しかけた。
「今日、ルーナ・ランセルの洗礼式はこちらで良いのだろうか」
名簿を確認した神官は、「はい、こちらです!」と元気に返事をして控室に案内してくれる。落ち着いた雰囲気の人が多い神殿にしては、ずいぶん明るい雰囲気の神官だ。歳もまだ少年と言って差し支えない程若いだろう。もしかしたらまだ見習いなのかもしれなかった。
「順番にお呼びしますので、ご家族の方はこちらでお待ちください!お嬢さんは別のお部屋にご案内します」
家族と待っているものだと思っていた私は少し不安になって両親を見たが、2人とも頷いているのでそういう決まりなのだと理解する。
「神官様の言うことをきちんと聞いていれば大丈夫よ、ルーナ。また後でね」
「父さんはあとで洗礼の時にルーナのところに行くから」
2人に促されて私は頷きを返すと、少年神官の後について歩き出した。
年若い神官に案内されたのは、さほど広くはないが綺麗な部屋だった。暖炉には火が燃えていて暖かく、椅子とテーブル、水差しとコップも用意されている。中には誰も居なかったので案内してくれた神官を見上げると、私の不安がわかったのか、私が最後の順番なのだと教えてくれた。
「そんなにお待たせせずにご案内出来ると思うので、少しこの部屋で待っていてくださいね」
そう言った神官は、ポケットから紙に包まれた飴をひと粒取り出してルーナに手渡してくれた。
「絵本もあるので、これを食べて本を見ながら待っていてください」
飴はきっと神官の個人的なものなのだろうが、彼は不安そうな子どもをこうして宥めるのも仕事なのだろう。
私は頷いて、部屋で大人しく待つことにした。
神官にもらった飴は黄金色の透明な飴玉で、とても甘かった。ほのかに蜂蜜の香りもする。舌の上で飴を転がしながら、なんとはなしに絵本の絵を眺め、窓の外に目をやる。まもなく夕暮れだ。
暖炉の前は暖かくて、部屋は静かで、いつも賑やかな我が家を思い出して少し寂しくなる。
(こんやはごちそうだって、かあさんがいってた。なにがでてくるのかなぁ・・・)
ルーナが好きな鶏肉のパイ包みとジャガイモのポタージュが出てくると嬉しい。デザートにパンプディングがあればもっと嬉しい。母は料理が得意で、家族のためにいつも美味しい料理を作ってくれるのだ。
だんだんと日が暮れてきて窓の外が薄暗くなる頃、ノックの音が聞こえて、先程ここまで案内してくれた少年神官が扉の向こうから顔を出した。
「お待たせしました。ルーナさんの洗礼のお時間になりました」
「はい!」
返事をして椅子から降り、神官の所へ歩み寄る。
「しんかんさま、あめ、おいしかったです。ありがとうございます」
お礼を言った私に少し驚いたような顔をした神官は、ニコッと笑って頷いた。
「それでは、参りましょう。洗礼の間で神殿長様がお待ちです」
「はい」
そうして、神官の後について歩きながら、私は『洗礼が終われば、もうすぐ家に帰れる』と信じて疑わなかった。そう思うと足取りも軽く、洗礼の間を目指して歩いていた。
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