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転生令嬢 5

ガタゴトと進む馬車に揺られながら、セシリアは膝の上に置いた宝物の短剣と小柄を撫でながら窓の外の風景を眺める。案の定母はそれらを馬車にまで持ち込んだことに眉を顰めたが、セシリアの気持ちを汲んでくれたのか何も言わずにいてくれた。小柄に騎士団の紋章が入っていることに気づいた辺境伯夫人は、娘に問いかけた。


「その小柄はどうしたのです?」


「わたしのせんれいのいわいのおくりものに、ってきしだんがおくってくださったのです」


怪訝そうな顔をしている母にさらに追加で説明をする。


「ふくきしだんちょうさまは、ほんとうならおはなやほうせきを、とおおもいになられてたそうですが、たびのとちゅうなのでこんなものですいません、と・・・でも、わたしはとてもうれしかったの」


表情を緩めた夫人は、目を細めて笑った。


「わざわざお祝いの宴も開いて頂いたと聞いていますよ。貴女の父は、武芸はともかくこういうことには全く気が回りませんもの・・・よくぞあの方が副騎士団長でいてくださったものです」


「はい。ふくきしだんちょうさまには、たくさんおきづかいいただきました」


辺境伯であり騎士団長である父に対する評価は母子で変わらないようである。


「旅の間のことは侍女から色々・・・えぇ本当に色々聞き及んでいますが・・・」


ギクッと表情を固まらせた娘を見やって、夫人は困ったように笑う。


「・・・此度の旅は、シアにとって有意義なものになったようですね」


夫人とて、セシリアが淑女教育を窮屈に感じているのは承知している。それでも娘の淑女教育に力を入れるのは、女子である以上は必要なものだと思うからだ。ましてや、娘は見目麗しく生まれてきた。成長すれば本人が望む望まないに関わらず、貴婦人方の嫉妬や妬みも買うだろうし、それらは剣で斬れるものではない。女の戦いで必要なのは知性と教養と作法なのだと、かつて社交界の華と言われた自分は知っている。淑女教育は貴族女性が生きていくための手段なのだ。


そんな母の思いを知ってかどうかはともかく、セシリアは決して愚かではないから、好き嫌いは別にして淑女教育にもちゃんと取り組んでいる。


「はい、おかあさま。えがたいけいけんで、たいせつなおもいでになりました」


セシリアはにこりと笑って、付け加えた。


「たびをゆるしてくださって、ありがとうございました、おかあさま」


夫人もふふ、と笑い、扇を開くと口元を隠した。


「良いのですよ。それよりシア、宿に着いてからは忙しくなりますよ。辺境伯令嬢として相応しい準備を整えなくては」


どうやら母に応えることこそが最大の感謝の示し方であるようだと理解して、その準備のあれこれに少し辟易したものの、セシリアははいと返事をして微笑んだのだった。





公爵領にある大きな宿を取ってあったらしい辺境伯夫人一行は、宿に到着するや否やセシリアの身支度に奔走した。まずは本人を浴槽に放り込み、待ち受けていた侍女が2人がかりでセシリアを磨き上げる。

セシリアはもはや無の境地で目をつぶって身を任せた。

髪を洗い、身体を洗い、顔と髪にパックをしている間に爪を整えて磨かれる。旅の間に手が荒れ爪が欠けていて侍女を大いに嘆かせたが、こればかりは仕方がないだろう。

髪を乾かし、ハーフアップに緩く結い上げて白い小花の飾りを付ける。洗礼式用の白い衣装は少し襟の高いデザインで、胸の部分ととスカートの裾に白い絹糸で刺繍が入っている上品なドレスだった。ドレスと同じ光沢のある生地が使われたローヒールを履き、レースのベールを頭に被った。


辺境伯夫人と侍女達は、それぞれ別の角度からセシリアを観察し、その出来栄えに満足して頷いた。


ここまで2時間ほどされるがままにしていたセシリアはようやく終わったことにホッと息を漏らした。


(やっとおわった・・・)


セシリアとてキレイなドレスが嫌いなわけではないが、もう少し準備が簡単なものでいいのにと常々思っている。貴族令嬢としては褒められた感覚ではないが。

侍女達にしてみれば、これだけの素材を前に手を抜くほうが難しい、むしろもっと仕事をさせてくれと思っているので、両者の意見の間には海より深い隔たりがある。


「少し休んだら、神殿に向かいましょう。セシリアは何か軽く食べて行ったほうがよろしいですよ」


そう言えば朝食を食べずにここまで来たのだった。どうりでお腹が空いている。


応接室に向かうと、そこにはブランチが用意されていた。ふわふわのパンケーキ、ポタージュ、新鮮な葉野菜のサラダ、ベーコンとポテトのキッシュや小さなオムレツもある。どれも旅の間には口に出来なかった料理で、空腹も相まっていくらでも食べられそうである。

母と共に席について食前の祈りを捧げて食事を始めた。


「騎士団では、どういうものを食べていたのです?」


ふいに母が問いかけてきた。


「えぇと、あさはバイキングけいしきで、パンとひがわりのおかず、やさいのすづけ、スープがでてきました。おひるはいどうがあるので、しきゅうされるやきしめたパンとほしにくですませることがおおかったです。よるはおにくがメインでした」


何せ騎士団なので、基本的に体力勝負のため肉が多くなるのは仕方ない。今回はセシリアがいるおかげで野菜も多いと騎士達は言っていたが、普段の遠征では違うのだろう。


セシリアの話を聞いて、辺境伯夫人はため息をついた。

転生令嬢編第5話を読んで頂き感謝申し上げます!

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