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転生令嬢 2

天幕に戻り、鍛錬でかいた汗を拭って着替えたセシリアは、巡礼の移動の為に天幕内の物を片付けて荷造りをする。旅に出てからは毎日の事だし、そもそもヴェルリンド家では自分の事は自分でやるのが基本だ。


身支度を整えてから食事用の天幕に行くと、そこにはすでに父や騎士達がいて、皆食事を摂っているところだった。


「おはようございます」


セシリアが挨拶をすると、皆が挨拶を返してくれる。巡礼に同行した当初は「辺境伯家のお嬢様が一緒に?!」「団長、いくらなんでもこんな華奢なお嬢様ひとりでこの男ばかりの旅に同行は…」と驚きと困惑に満ちていた騎士団員も、数日すると「さすがあのヴェルリンド家のお嬢様」とセシリアの評価を改めていた。

誰よりも早く起きて馬廻りの小者達と馬の世話をし、自分達と同じ食事を食べ、移動の合間などには鍛錬に勤しみ、明るく朗らかなセシリアは今では騎士団の癒やし的な存在である。

「だから問題無いと言ったろう」と辺境伯が自慢げに言ったが、普通は貴族のお嬢様はこんなことはやらないのである。


旅の朝食は、今回は基本的にバイキング形式だ。自分で食べたいものを食べたいだけ食べられるのでセシリアは家でもコレをたまにでもやって欲しいと思っている。多分、背中に怒れる獅子の幻を背負った母が笑顔で却下してしまうだろうが。


そんなことを考えながら、パンと挽肉入りのパイ、根野菜の酢漬け、具の殆どない透き通ったスープを自分の器に盛り付ける。


「お嬢様、良かったらこちらへどうぞ」


若い騎士が席を空けてくれたので、礼を言ってそこに座る。朝から身体を動かしたのでお腹がぺこぺこだ。

バターの香りがするパンも、刻まれた野菜と肉汁たっぷりのパイも大変美味しい。酢漬けを口にするとパイの脂っぽさが一瞬ですっきりするし、歯応えもいいのでお気に入りだ。黄金色の透明なスープも素朴な味わいで、身体がポカポカと温まる。


今回護衛している大司教は、神殿の者達が身の回りの世話の為に同行しているので騎士団の者と食事を共にしたりはしないし、移動自体も馬車なのでセシリアはまだ大司教のご尊顔を拝したことはない。あまり信心深くない性格のセシリアだが、ある意味雲の上の存在である大司教に洗礼を頂けるのはありがたいことだなぁと考えている。何せあの母がセシリアの同行を認めるくらいなのだ。まさかセシリアがこの旅で騎士達に混じって鍛錬しているなんて思ってないだろうが、きっと帰ったら侍女が報告してしまうのでその後は地獄の淑女教育が待ち受けているだろう。


(それなら、このたびのあいだはたのしまなくちゃね!)


ごくりと口の中のものを飲み込んで、セシリアは決意を新たにしたのだった。




巡礼の旅は概ね順調で、天候にも恵まれたので穏やかな旅となった。この国にも盗賊や夜盗の類はいるが、王国の騎士団相手に仕掛けるような無謀な連中ではないのだろう。いよいよ明日はアラモンド公爵領の領都に到着する。その神殿で洗礼を受けたら楽しかった旅も終わりだと思うとセシリアはとても残念だった。


すると、天幕の外から「お嬢様、夕食の準備が出来ましたよ」と騎士が声をかけてくれた。


「はーい!いままいります!」


残念な気持ちを振り払って元気に返事をしたセシリアが食事のための天幕に行くと、天幕の中には父を始めとした主だった騎士達が揃っていた。多分、見回りの任に就いている騎士達以外全員だ。

驚いてぱちぱちと瞬きをしているセシリアに、副騎士団長が言った。


「いよいよ明日はお嬢様の洗礼です。短い間でしたが、共に旅をした我等から、今宵はお祝いの宴を贈らせて頂きます」


思わず父を見ると、父は肩をすくめてみせた。


「俺は何も言ってないぞ。こいつらがシアのためのお祝いくらいしてやりたいんだとさ」


家の外では(というより母が居ないときには)柄が悪くなる父はそう言って笑う。


「総員、お嬢様に礼!!!!!!」


副騎士団長の号令に騎士達がザッと動く。左の拳を胸に当て、背筋を伸ばし、足を軽く開いて皆が同じ角度で頭を下げた。


『洗礼式を迎えられるお嬢様に、お祝い申し上げます!!!!!』


「みなさん・・・ありがとう、ございます・・・」


嬉しくて涙が浮かびかけたが、今は涙を流す場面ではないはずだと自らの涙腺を叱り飛ばす。


「とても、とてもうれしいです!!」


そんなセシリアに礼を解いた騎士達も笑いかける。その後は賑やかな食事会となった。旅の間のいつよりも豪華な食事が振る舞われ、食後にはケーキまで出てきた。聞けば、辺境伯家からついて来た侍女が手伝ってくれたのだという。


「こちらは、我等騎士団から、お嬢様への贈り物です」


宴もたけなわとなった頃、そう言った副騎士団長から手渡されたのは、騎士団の紋章の入った小柄だった。


「すいません、本当なら花束や宝石をお贈りすべきなんでしょうが…」


決まり悪げに頭を掻く副騎士団長に、「いいえ、そんなこと!」と叫んでしまった。


「ありがとうございます、たいせつにします」


そう言って小柄を胸に抱くセシリアに、皆が温かい視線を送る。

そうしてあたたかな宴の時は過ぎていったのだった。

転生令嬢編第2話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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