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逆行令嬢 22

⭐︎週末限定⭐︎朝・夕2話更新!

「はい・・・いま、まいります」


呼ばれたリリアナは神官に返事を返し、セシリアを振り返るとぎゅっとその手を握った。


「おはなしできてたのしかったわ、シア」


「わたしのほうこそ」


初めての友達との別れが名残惜しくてなかなか手と視線を離せない様子のリリアナにセシリアは笑いかけた。


「わたし、おうちにかえったらきっとリリにおてがみをかくわ」


「! わたしも!わたしもシアにおてがみをかくわ!」


「たのしみにまってるね」


迎えに来た神官をあまり待たせることはできない。名残惜しさを振り切って、リリアナは友人に別れを告げる。


「じゃあ・・・またね、シア」


「うん、またね、リリ。・・・あ、ほんはわたしがもどしておくね」


読みたかったはずの本の存在をすっかり忘れていたリリアナは少し慌ててしまったが、ありがたく友人の好意に甘えることにした。


「ごめんね、ありがとう!」


セシリアに笑いかけて手を振ると、リリアナは神官のところへ歩み寄った。


「おまたせしました、しんかんさま」


少女たちのやりとりを黙って見守ってくれていた神官は、短く「いいえ」と答えると、「では、参りましょう」とリリアナを促した。

扉を出る前にもう一度だけセシリアのほうを振り返ると、銀の髪の友人は笑って手を振ってくれた。リリアナも微笑んで小さく手を振り返し、神官について部屋を後にしたのだった。




先導する神官の後ろをついて歩くリリアナは、カツン、カツンという自分たちの足音しか聞こえない静寂の中、礼拝堂へと続く回廊を進んでいた。ガラス張りの天井から冬の陽射しが差し込んで明るいが、少し肌寒い。その分、洗礼に向けて再び気持ちが引き締まっていくような気がした。

しばらく歩くと重厚な扉が見えてきて、リリアナのほうへ振り返った神官が立ち止まって礼をとった。


「こちらのお部屋にて大司教様がお待ちでございます」


リリアナも軽く膝を折って礼をとる。


「あんないありがとうございました」


礼儀正しい幼い少女に微笑んだ神官は、ノックをすると恭しく扉を開いた。


「リリアナ・アラモンド公爵令嬢様をお連れ致しました」


大司教が待つ洗礼の間は、意外にもこぢんまりした部屋であった。部屋の中央に七色の光を放つ不思議な水盤があり、その真ん中に淡い光を放つ板のようなものが浮かんでいる。おそらくそれがこれからリリアナが触れる魔法石の板なのだろう。水盤の向こうに、おそらく大司教と思われる白い豊かな髭をたくわえた小柄な老人と、少し離れたその隣に父である公爵の姿があった。


「リリアナ・アラモンドがまいりました。ほんじつはよろしくおねがいいたします」


きれいなカテーシーを見せたリリアナに、大司教が優しく笑いかけた。


「ホッホッホ、そう緊張されずとも大丈夫ですぞ。どうぞこちらへおいでくだされ」


はい、と答えてリリアナは水盤の前までゆっくりと歩み寄った。間近で見る光る水盤は清らかな水で満たされており、水盤の底から七色の光が沸き上がっているように見える。光は見るたびに色を変え、水の中でキラキラと輝く様子はとても神秘的で美しかった。


「さて、お嬢様にはこの水盤から溢れる光が見えますかな?」


「はい、だいしきょうさま。なないろのひかりがわきでてきてとてもきれいです」


「ほうほう、そうですか」


リリアナの言葉を聞いた白い髭の大司教は楽しそうに笑う。すぐ近くに立つ父がぴくりと眉を動かしたように見えたが気のせいだろうか。


ひとしきり笑った大司教は居住まいを正すと、手に持った錫杖で床を打った。シャン!と涼やかな音が響く。


「では、これよりリリアナ・アラモンドの洗礼の儀を執り行う」


大司教の宣誓の言葉を聞いて、リリアナはスッと背筋を伸ばした。


「遥か天上の大いなる光、神の御座にまします我らが神よ、神の眷属たる精霊たちよ。ここに立つ我らが幼子の、その前途を見守り給え」


リリアナは自然と手を組んで、神への祈りを捧げた。


(どうか、みながしあわせになれますように。わたしも、そのためになにかのおやくにたてますように)


一心に祈るリリアナの耳に大司教の声が届いた。


「では、リリアナ・アラモンド。水盤の聖水で手を清め、魔石板に手を乗せなさい」


「はい」


祈りを解いたリリアナは、光る水にそっと右手を入れる。冷たいとばかり思っていたが、温かく柔らかく感じる不思議な感覚だった。そうして、濡れた右手を石板に乗せた途端ーーーーー


目を開けていられないほどの強烈な光が水盤から溢れ、洗礼の間を満たしたのだった。




閃光に驚き、瞑ってしまった目を開くと、驚いた顔をしている大司教と公爵の姿が見えた。一拍の後、我に返った公爵が慌ててリリアナに駆け寄ってくる。


「リリアナ!大丈夫か?!」


「は、はい・・・」


魔石板から手を放して答えたが、頭が少しくらくらする。それに・・・なにか体の奥のほうで、熱くて冷たい何かが渦巻いているような気がする。


公爵がリリアナの肩を支えて抱き寄せていると、大司教が水盤から魔石板を取り上げた。


「これはこれは・・・」


大司教は興味深そうに魔石板を眺め、公爵と令嬢に目を向けてにっこりと笑った。


「これにて洗礼の儀式は無事に終わりました。ついては、少しお話を致しましょうかな」

第22話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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