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逆行令嬢 20

⭐︎週末限定⭐︎朝・夕2話更新!

天井のステンドグラスを眺めながらしばしまだ見ぬ精霊を空想していたリリアナだったが、扉が開く音に気付いてそちらに目をやった。どうやらまたひとり、洗礼を待つ子どもが案内されてきたようで、先ほどとは別の神官の背中が見える。神官の前に見え隠れする白い衣装をみると、どうやら女の子のようだった。

その神官は説明を終えると、リリアナと反対側の窓のほうにいた男の子に声をかける。


「カーバイド子爵令息様、洗礼のお時間となりました」


呼ばれた男の子はこくんと頷いて神官の傍へ歩み寄り、神官とともに部屋を出て行った。


(きっとわたしのじゅんばんはもうすこしあとよね・・・ほんをよんでいようかしら)


せっかくこんなに沢山の本があるのだ。ここでしか読めない本もあるかもしれない、と少しわくわくしながらリリアナは本棚へと向かう。ずらりと並ぶ本の背表紙に書いてあるタイトルをざっと眺めていると、読んだことのない本が何冊もある。


(よみたいほんをおかりできるか、あとできいてみなくちゃ。でもこれ・・・『せいれいとせかいのなりたち』はいまよんでみたいな)


一番興味を引かれた本は、本棚の端、リリアナの背丈でぎりぎり手が届くかどうかのところにある。目いっぱい腕を伸ばし、つま先立ちになると指先に本の下のほうが引っ掛かった。


(もう、すこし・・・!)


必死に腕を伸ばしてなんとか本を引き抜けたが、その本はリリアナが片手で持つにはいささか重すぎた。


「きゃ・・・!」


貴重な本を落とすまいとしたリリアナは、バランスを崩して後ろへ倒れこみそうになる。ちょうどその時、本棚を見渡しながらひとりの少女が歩いてきて、倒れこんできたリリアナといい勢いで衝突してしまった。

思いがけない衝撃に驚いたのだろう、少女はその場にぺたんと座り込んでしまい、リリアナは慌てて少女のほうに振り返って声をかけた。


「ごめんなさい!おけがはありませんか?!」


声をかけられた少女は、どこかを痛めたのか、それとも驚き過ぎたのか、呆然としている。そんな少女の様子をみてリリアナは更に慌ててしまった。


「ほんとうにごめんなさい!どこかいたみますか?いまひとをよんできますね!」


急いで誰かひとを呼ぼうと扉のほうへ走り出しかけたリリアナに、少女はハッとした表情を浮かべて、こちらも慌ててリリアナに声をかけた。


「あの!わたしはだいじょうぶです!すみません、すこしおどろいてしまって」


そう言って頭を下げる少女に、リリアナも頭を下げる。


「ほんをとろうとして、まわりがみえてなかったわたしがわるいのです・・・ごめんなさい」


「どこもけがなんてしてないし、だいじょうぶなのでかおをあげてください!」


申し訳なさ過ぎてなかなか頭を上げにくかったが、リリアナがそっと顔をあげると、少女はにこっと笑いかけてきた。少女の笑顔を見て、リリアナはようやく安堵のため息を吐くと、改めて少女と向かい合った。

リリアナと同じく洗礼を受けにきた少女は、真っ直ぐな銀色の髪と薄い紫の瞳を持つ美少女であった。真っ白な衣装には光沢のある白い絹糸で上衣とスカートの裾に刺繡が施されていて、清楚な雰囲気の少女によく似合っている。色素の薄さも相まって、まるで雪の精のような少女だった。


「ほんとうに、ごめんなさい。もしあとでどこかいたむようなら、わがやにごれんらくいただけますか?わたしはリリアナ・アラモンドともうします」


「ほんとうにだいじょうぶなので、おきになさらないでください。わたしは・・・セシリア。セシリア・ヴェルリンドともうします」


お互いにどこか緊張しながら自己紹介をしたあと、少女ーーーセシリアがふふ、といたずらっぽく笑みを浮かべた。


「びっくりしたけど、きんちょうがどこかにとんでいってしまったわ!」


茶目っ気のあるその笑顔に、リリアナの表情も和らいだ。同年代の子と話すのも初めてだし、初めて話す子がこんなきれいな女の子なので嬉しくなってくる。


「まぁ、やっぱりあなたもきんちょうしていたの?」


「ええ・・・しらないばしょだし、しらないこばかりだし」


知らない場所ということは、領内の子ではないのだろうか?そこまで考えて、少女が名乗った家名を思い出す。ヴェルリンド家といえば、確かーーー


「もしかして、きたのヴェルリンドへんきょうはくのおうちのかたですか?」


リリアナに問われて、セシリアは驚いたように目を丸くした。


「まぁ、わがやをごぞんじなのですか?」


リリアナはもちろんです、と頷いた。

ヴェルリンド家と言えば、この国の北の守護を司り、『王家の剣』とも呼ばれる名門だ。ヴェルリンド辺境伯領は厳しい気候と土地柄ながら、そこに住む人々は皆誠実かつ勇猛であり、辺境伯は王宮騎士団の団長も勤めている。


「おとうさまがこんかいのだいしきょうさまのじゅんれいのごえいをなさっているの。それで、ついでだから、ってわたしのせんれいをここでいただくことになってしまって・・・」


セシリアの話を聞いて、今度はリリアナが目を丸くする。

大司教の巡礼の警護の任にあたる父親について、自分と同い年の少女が厳寒の最中を旅してきたというのだ。貴族の令嬢にとって、それは「ついでに」なんてノリでやることではない。


「まぁ・・・ここまで、たいへんだったのでは・・・?」


驚き過ぎてそんなありきたりな事しか言えないリリアナだったが、セシリアは肩をすくめた。


「いえにいるほうがうんとたいへんなので」


いったい辺境伯領とは、ヴェルリンド家とはどんな家なのだろうかとリリアナは呆然としながら考えたのだった。

第20話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


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