逆行令嬢 18
⭐︎週末限定⭐︎朝・夕2話更新!
新年の宴から10日後ーーー今日は洗礼式が各地の神殿で行われる大切な日だ。新年から続く祝祭の最終日に行われるこの聖なる儀式に参加する年齢のいる子どもがいる家は、平民だろうと貴族だろうと身分に関わりなく朝からその準備に追われている。
もちろんリリアナもーーー本人がというよりは乳母とメイド達だがーーー早朝から洗礼式のための準備に余念がない。
朝から全身を丹念に磨き上げられ、何度も梳られた金髪は艶々である。洗礼式のために誂えられた衣装は、純白の絹とレースがふんだんに使われており、袖口と裾に精緻な銀糸の刺繍が施されている豪奢なものだ。薄い紗を細かなレースで縁取りしているベールも職人の技が活きる逸品である。公爵家の令嬢に相応しい豪華な衣装をみたメイド達は、ほう、と感嘆の息をもらした。
「なんて素晴らしいお衣装でしょう」
「こちらのベールも素敵ですわ」
メイド達とともに、リリアナも自分がこれから纏う衣装を見てうっとりしてしまう。洗礼式にしか着られない衣装なのがなんとも勿体無く感じるが、やはり一生に一度の儀式なので特別にきれいな衣装を着られるのは嬉しい。
「さ、お嬢様。そろそろ着替えてご準備を整えましょう」
乳母の一声でメイド達が動き出し、白い衣装をリリアナに着付けていく。いつもならパニエを身に付けるのでスカート部分がふんわり広がるのだが、洗礼式の衣装は腰からストンと落ちるスカートのラインがいつもより大人っぽく見えるように感じる。足には白いローヒールを履き、髪には鏝があてられてふんわりとゆるく波打つようにセットして、リリアナの瞳と同じ深い藍色の石と真珠があしらわれたカチューシャをつける。仕上げにふんわりとベールを被れば準備完了だ。
白い衣装を纏ったリリアナは、姿見の前でくるりと回ってみる。ふわりと揺れるベールは視界をさえぎるものではなく、歩くにも支障はなさそうだ。
「みんな、ありがとう!」
「公爵様も奥様も、皆様お嬢様をお待ちですよ。そろそろ参りませんと」
乳母がリリアナの全身をくまなく確認して声をかけた。
「お嬢様、洗礼式をお迎えになられますこと、お祝い申し上げます」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「うん、いってきます」
メイド達に見送られて部屋を出ようとすると、黒い仔猫が「ミャー」と鳴いて擦り寄ってくる。衣装に触れる寸前でメイドによって抱き上げられてしまったのが不満なのかグルグルと唸っている。
「ノアールはおるすばんよ?いいこにまっててね」
リリアナが仔猫の耳の後ろをくすぐるように優しく撫でると、気持ち良さそうに喉を鳴らす。
「ノアールのこと、よろしくね」
仔猫を抱くメイドにそう声をかけて、リリアナは今度こそ部屋を後にした。
「おまたせしました」
リリアナが玄関ホールに着くと、そこには既に公爵夫妻と兄が待っていた。
「リリアナ、とってもきれいね」
母が優しく目を細めてリリアナを真っ先に褒め、父や兄も頷きながら微笑んでいる。我が子、妹の晴れ姿を目にした家族はみな幸せそうだ。
「ありがとうございます」
リリアナも笑って、スッと足を引いて軽やかにカテーシーを披露した。
「外は寒いですから、こちらをお召しになっていって下さいね」
乳母がそっと薄いグリーンのケープを着せ掛けてくれた。真新しいケープはこの日のために乳母が手ずから作ったものである。大事なお嬢様の晴れの日を迎えて、乳母も感無量であった。
「では、行くとしようか」
父である公爵が夫人をエスコートしながら門の前に停めた馬車へ向かって歩き出す。リリアナもレオンがエスコートしてくれたので父の後ろを歩いてついていく。公爵家は馬車も数台保有しているが、今日の馬車は公爵家の家紋が入った黒塗りの豪華な馬車である。馬車の中には座面にクッションが敷かれ、火の魔力がこめられた魔法石のおかげでぽかぽかと暖かい。
家族が馬車へ乗り込むと、「行ってらっしゃいませ」と執事長をはじめ使用人達が頭を下げてその出発を見送り、リリアナは窓から「行ってきます!」と手を振ったのだった。
「さて、神殿に着く前に洗礼式についておさらいしてみようか」
レオンがそう言って、隣に座るリリアナの顔を覗き込んだ。
「えぇと、しんでんについたらしんでんちょうさまにごあいさつして、わたしはひかえしつでじゅんばんをまつんですよね?」
「そうだ。私や父上達は、付き添いの家族用の控え室で待つことになる」
「なまえがよばれたら、せんれいのまにいって、まほうのせきばんにてをかざして、おいのりをしてきます」
「その時には父上が洗礼の間におられるよ。洗礼をしてくださる大司教様がお声がけしてくださるはずだから、仰ることをちゃんと聞いていれば大丈夫だ」
リリアナはそっと胸の前で手を組んだ。
「やっぱり、すこしきんちょうします・・・」
そんなリリアナに母が優しく微笑んで「大丈夫よ」と声をかける。兄も「怖いことなんか起きないぞ」と頭を撫でてくれた。そんな様子を公爵が温かい目で見守り、やがて公爵家の馬車は神殿へと到着したのだった。
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