逆行令嬢 17
⭐︎週末限定⭐︎朝・夕2話更新!
「ミー、ミー」
鳴き声に気づいた公爵夫人が不思議そうな顔をして部屋を見渡すと、部屋の隅に置かれた籠から真っ黒い仔猫が顔を出しているのに気がついた。
「まぁ。仔猫」
公爵夫人は籠をそっと持ち上げて、リリアナの隣に戻ってくる。
まだ両親に猫のことを相談していないリリアナは内心ちょっとドキドキしていた。
「あの、そのこは、うたげのまえにおにわでみつけたんです」
布団を握り締めて、リリアナは母に説明を始める。
「こんなにちいさいのに、さむいおにわでいっぴきでふるえていて」
母は微笑みながらリリアナの話を聞いてくれている。
「それで、おやねこもいないみたいなので、わたしがそのこをかいたいとおもって・・・」
恐る恐る上目遣いで見上げてくるリリアナに、公爵夫人はにっこりと微笑んだ。
「生き物を飼うということはとても大変なことなのよ?」
「はい・・・」
「リリアナは、この子が生きることの責任をきちんと負える?」
「わたし、ちゃんとがんばっておせわします!」
公爵夫人は仔猫が入っている籠をリリアナの膝の上に乗せた。
「お父様には、お母様がこの子のことをお話ししておいてあげるわ」
「! ありがとうございますおかあさま!」
籠の中の仔猫もリリアナと声を合わせるように「ミー」と鳴いて、籠から出るとリリアナの枕元に丸くなる。それを見た公爵夫人とリリアナはその愛らしさに思わず微笑む。
「この子はリリアナの傍がいいのね。名前はどうするのかしら?」
「ノアールにしようとおもっています」
「いい名前ね。それじゃあノアール、リリアナの夢の番人をしてくれるかしら?リリアナはまだ休まなくてはダメよ」
おとなしくベッドに横たわったリリアナに公爵夫人は布団を掛けてやり、いくらか顔色が良くなったリリアナは髪を撫でられながら再び目を閉じた。
ーーーーー眠ったリリアナの体を淡く金色に輝く光の膜が包み込んだが、その様子は誰の目にも映らず、リリアナ本人も気づくことはなかった。枕元にいる黒い仔猫を除いて。
一晩たっぷり眠ったリリアナは、すっかり元気を取り戻していた。念のためにお医者様の診察も受けたが体のどこにも問題はないとのことで、皆ほっとしている。だが、過保護な乳母が「せめて今日一日はお部屋で安静になさってくださいませ」と懇願してきて、心配をかけてしまったことが申し訳なかったリリアナはおとなしく部屋で休養を取ることにした。
「ノアール、おいで。ブラッシングしてあげる」
暖炉の前にラグとクッションを敷いて座り込み、この部屋の新しい住人となった仔猫を呼ぶと、「ミャー」と返事をしてリリアナの前に寝転ぶ。
「ふふふ、おとなしくしていてね?」
仔猫に話しかけながら優しくブラシをかけてやると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら気持ち良さそうにお腹を出している。猫の体をそっとひっくり返して背中もブラシをかけると、黒い毛並みが輝いてまるでビロードのような光沢である。撫でるとふわふわで気持ちいい。
「ノアールがわたしのねこだってわかるように、めじるしにくびわをつけたらいやがるかしら?」
仔猫を撫でながらメイド達に問いかけると、猫を飼ったことがあるというメイド達が答えた。
「初めて首に何かをつけると驚いて嫌がるかもしれませんが、小さいのですぐに慣れると思いますわ」
「すぐ大きくなるので、リボンか何かでも可愛いかもしれません」
そう言ったメイドがいそいそと取り出したのは色とりどりのリボンだった。リリアナの部屋の片隅には、この愛らしい仔猫のために快適な住環境が整えられつつあり、それらはリリアナの指示ではなく猫好きのメイド達の手によって揃えられている。
「まぁ!なにいろがいいかしら?」
リリアナとメイド達は、これも似合うあれも可愛い、と言い合いながらあれこれとリボンを猫にあてがって盛り上がる。結局、仔猫のリボンは日替わりで色んな色のものをつけることになり、リボンデビューのこの日は赤いリボンを仔猫の首に結んでやった。「ミャー」と首を傾げて鳴く仔猫の可愛さに一同が悶えたのは言うまでもない。
部屋で軽めの昼食を摂ったあと、メイドが用意していた猫じゃらしでノアールと戯れていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
メイドが扉を開けると、小さな花束を手にしたレオンが立っていた。
「リリ、具合はどうだ?」
猫じゃらしを手にしたまま、リリアナは兄を出迎える。
「もうすっかりげんきです!」
「そうみたいだな」
レオンは安心したように笑うと、リリアナに花束を差し出す。
「母上から、もう大丈夫だと聞いてはいたんだが、やっぱり私も自分でリリアナに会って安心したかったんだ」
リリアナは兄から花束を受け取ると、困ったように笑う。
「ほんとうにもうへいきなんです。でもマーサがしんぱいするので・・・」
「マーサだけじゃないさ。皆が心配したのだから、今日はちゃんと休むんだぞ」
「はい。でも、おにいさま。せっかくいらしてくださったのですもの、おちゃをごいっしょできませんか?」
リリアナの誘いにレオンは目を細めて嬉しそうに笑った。
「では一杯だけ頂いていこうか。それと、ノアールを私にも触らせてくれないか?」
第17話を読んで頂き感謝申し上げます!
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