表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/83

逆行令嬢 16

「さて、私からもご挨拶をさせて頂けますかな」


そう言って、4人の首長達の最後のひとり、北の首長が1歩前に出て礼をとった。


「北の地を預かります、ファイタール伯ドミニクと申します」


北の首長からの挨拶を受けて、リリアナも礼を返す。


「はじめまして、ファイタールはく。きたのちはここよりもさむさがきびしいとききます。でも、まほうせきのかこうがどこよりもじょうずだとききました」


「おお、北の地のこともご存じとは、誠にありがたいことです」


厳めしい顔に感嘆の表情を浮かべる北の首長に頷きを返し、リリアナは会話を続ける。


「きょねん、あたらしいこうしょうがみつかったとききました」


その途端、北の首長から何か禍々しい気配を感じた気がして、リリアナはびくんと体を震わせる。


「・・・えぇ、良質な紅玉などが産出出来そうな、大変優良な鉱床でございましたよ。最近わかったばかりなのに、もうご存じとは驚きました」


「そ、うなのです、ね・・・」


顔はちょっと怖いけれど、にこやかに笑ってくれているのに。親し気に話しかけてくれているのに。


北の首長から感じる気配が、さっきよりずっと濃く強くなっている気がする。首長の体を黒く禍々しい靄が取り巻いて渦を巻いているのが見えるような気がする。


必死に微笑みを浮かべ続けるリリアナだったが、体は小刻みに震え、その顔色は蒼白になりつつあった。


「まぁリリアナ・・・! 顔色が・・・大丈夫?!」


震えるリリアナに気づいた公爵夫人が声をあげ、リリアナを抱き寄せた。心配そうにリリアナの頬を両手で包んで顔を覗き込んでくる母に何とか微笑み返して大丈夫だと伝えたが、体の震えが止まらない。


「皆さま、大変申し訳ありませんが、娘は体調が優れないようですので、この場を下がらせて頂けますかしら」


リリアナを抱き寄せたまま公爵夫人が周囲に告げ、公爵も頷いた。


「初めての宴で疲れが出たのかもしれぬな。下がって休ませてやってくれ」


母に付き添われてその場を辞す前に、リリアナは何とか礼をとり、首長達に詫びを述べた。


「せっかくのごあいさつのさいちゅうに、たいへん・・・しつれいしました・・・どうぞうたげのつづきを、おたのしみになってください」


青い顔をしつつもきちんと挨拶をするリリアナに、首長達は


「なんの、お気になさらず」


「どうぞご自愛くださいますよう」


と口々に答えてくれ、リリアナは軽く膝を折って挨拶をしてから母と共に宴の場を後にしたのだった。心配そうに首長達がその背中を見送る中、北の首長の目だけがどこか鋭くリリアナを見つめていた。




顔色を悪くしたリリアナが部屋に戻ると、控えていた乳母とメイド達がリリアナの様子にそれこそ顔を青くして急いで傍まで来るとその体を支える。


「お嬢様、お顔の色が・・・!それにお体もすっかり冷えてしまわれて・・・!」


メイド達が急いでリリアナを着替えさせ、軽くしてあった化粧を落とし、ベッドに寝かせてくれた。


「何か温かいお飲み物をお持ち致します!」


「温石をもらって参ります!」


「お薬湯の手配をして参ります!」


メイド達がバタバタと慌しく部屋を飛び出していくのを見ながら、ベッドに横たわったリリアナはぐるぐると目が回っているような不快感と戦っていた。気持ち悪くて吐き気すら感じる。

ぎゅっと目を瞑っていると、部屋まで付き添ってくれた母が優しく頭を撫でてくれた。


「リリアナ、大丈夫・・・?少し眠るといいわ、お母様がここにいてあげるから」


大丈夫、大丈夫よ・・・と囁きながら母は頭をずっと撫でてくれて、少しずつリリアナの意識が眠りに飲み込まれていく。うつらうつらとしていると乳母と母の声が聞こえてきた。


「奥様・・・宴で何事かあったのでしょうか・・・?」


「リリアナは、立派に挨拶をしたのよ。食事もレオンと摂っていたようだし・・・。4首長から個別に挨拶をもらっていたときに、急に体調が悪くなったみたいなの」


「念のため、お医者様の手配をしてもよろしいでしょうか」


「ええ、お願い。わたくしはリリアナの傍にいるわ」


乳母が頷いて静かに部屋から出て行き、公爵夫人はリリアナのベッドの横に腰かけてリリアナの顔色を確認する。先ほどよりは良くなったが、まだ青白い。少し乱れた前髪を指で直してやると、リリアナがうっすらと目を開けた。


「おかあさま・・・」


「リリアナ、まだ眠っていていいのよ。それとも、なにか飲む?」


「はい・・・」


母が水差しから果実水を注いでくれたグラスを受け取って、少しずつ口に含む。爽やかな果実水のおかげで、吐き気がずいぶんおさまる気がする。


「さぁ、まだ体を休めなくてはだめよ?」


母に促されてまたベッドに横になろうとしたとき、部屋の隅から「ミー」と小さな鳴き声が聞こえた。

第16話を読んで頂き感謝申し上げます!

この後も楽しんで頂けたら幸いです。


少しでも「おもしろい!」「続きが気になる!」と思って頂けましたら、ブックマーク登録!

また、広告下にある【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて頂けたら嬉しいです!


★の数は読者の皆様のご判断次第ですが、★の数が多ければ多いほど作者のやる気ゲージが上がります。


応援よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ