逆行令嬢 15
兄妹が食事を終えて和やかに会話を交わしていると、見計らったように領内の貴族たちが二人のもとに挨拶にやってきた。
実際、タイミングを計るために観察されていたのだろうと思うとリリアナは少し恥ずかしい気がした。
「公爵家令息レオン様にご挨拶申し上げます」
「私めからもご挨拶申し上げます。私、子爵家のサイオンと申しますのでどうぞお見知りおきを」
次々にやってくる貴族達はほとんどの者がレオン目当てのようで、リリアナには目もくれない。社交界デビュー前なので当然といえば当然なのだが、同じデビュー前でもやはり公爵家の後継であるレオンとなんとか先んじて繋がりを持っておこうという意図がまるわかりである。ひっきりなしに話しかけられている兄に比べると、ほとんど声を掛けられたりはしないものの、リリアナも淑女としての微笑みを絶やさないように密かに気合を入れていた。
可愛い妹をあからさまに軽視されているのが腹立たしいレオンだったが、なんとか表情を取り繕って貴族達への対応をしていると、話の途切れた絶妙なタイミングで執事長が怒れるレオンに声を掛けた。
「ご歓談中、失礼致します。公爵様がレオン様とリリアナ様をお呼びでございます」
「そうか、今行く。それでは皆、引き続き宴を楽しんでくれ」
リリアナは軽く膝を折って礼をすると、レオンのエスコートでその場を後にした。
レオンは顔に笑顔を貼り付けたまま、口ではぶつぶつと文句を言っている。
「まったく、あそこまであからさまに媚を売られると気分が悪い。しかも自分のところの令嬢をしきりに売り込まれても・・・」
そんな兄の様子に、必死だった下級貴族達の様子を思い出してリリアナはなんとなく彼らが気の毒に思えてしまう。
「おや、そんなお話までされていたのですか」
レオンのぼやきを耳にして、執事長が面白そうな顔をする。
「いずれは社交界で会うこともあるだろうに、今すぐにでも会わせようとする勢いが怖いくらいだったよ。セバスが来てくれて助かった」
「離れたところからお二方のご様子を伺っておりましたが、坊ちゃまの様子がどんどん険悪になっていっておりましたから。間に合ってようございました」
茶目っ気たっぷりに言う執事長に苦笑して、「そんなにわかりやすかったか?」と言うと、「伊達に長年坊ちゃまのお世話をしているわけではありませんので」と澄ました顔で答えられた。
「お嬢様も、初めての宴ですのにご立派に対応されておりましたね」
執事長にねぎらわれて、リリアナは肩をすくめる。
「わたしはただニコニコわらっていただけよ。おにいさまのほうがごりっぱだったわ」
すると兄が、「そんなことはないぞ」と言ってきた。
「ずっと笑顔でいるのも大変なものだ。実際、私なんか今もう頬が痛くなってきた」
自分の頬を撫でながら冗談めかして言う兄に合わせて執事長が
「それはそれは。坊ちゃま、まだまだ鍛え方が足りませんな」
と真顔で言うので、兄妹は顔を見合わせて笑ってしまうのであった。
「おお、来たか。ふたりともこちらへ」
執事長に先導されて両親のもとにやってきた兄妹に公爵が声をかけた。
その場には東西南北の首長達が揃っており、これからリリアナを紹介しようということであろう。
リリアナは兄の腕から自分の手をそっと離すと、軽やかに礼をとった。
「おとうさまがおよびときき、さんじょういたしました」
リリアナの可憐な姿に、首長達がほう、と目を細める。
公爵はそんなリリアナの右手をそっと取ると、首長達に向き直った。
「先ほど皆の前で紹介したが、貴君らには改めて私から紹介しよう。娘のリリアナだ」
その言葉を受けて、まず南の首長が一歩前に出て礼をとった。
「お初にお目にかかります、リリアナ様。私は公爵領の南を預かりますサウズリンド伯トマスと申します」
「はじめまして、サウズリンドさま。みなみのちほうからおくられてくるくだものをいつもおいしくいただいています」
それを聞いて南の首長は破顔した。
「なんと、我が家からの贈り物だとお嬢様の御年でもおわかりでしたか!」
「リリアナは、領内のことをとても熱心に勉強しているんだ」
横からレオンが補足すると、南の首長はますます楽しそうに笑いながら、
「これは結構!贈る楽しみもいや増すというものです。公爵様にとっても自慢のご令嬢ですな。この度は洗礼式を迎えられるとのこと、心よりお慶び申し上げます」
そうして、東、西の首長達も順に前に出て礼をとり、同じように挨拶を交わす。
リリアナは今までの勉強の成果を遺憾なく発揮し、東の首長には「ことしもよいおりものができるとよいですね」、西の首長には「ことしもこむぎがほうさくであることをおいのりいたします」と言葉をかけ、公爵令嬢として領内についてきちんと学んでいることを示すことができ、まだ幼いご令嬢の成長を間近にみた首長達に親近感を抱かせたのだった。
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