逆行令嬢 11
「ため息などつかれて。お疲れですか?」
リリアナの髪を梳かしながら乳母が尋ねる。
「ううん、おふろはとってもきもちよかったわ」
なにかの荷物になったような気がするとは口にできなかったのでリリアナはもうひとつの本心を告げる。メイド達の気合の入り様にちょっとびっくりしただけだ。
会話の間にも乳母が何度も丹念に梳ったリリアナの金髪は、普段より3割り増しで輝いて見える。
そこへ、ノックの音と「失礼致します」という声が聞こえた。
扉のほうを見ると、衣装係がお披露目のための新しい衣装を持ってきたのだった。
トルソーに着せ掛けられたドレスは薄紫色で、胸元を白いレースが飾り、スカートはオーガンジーが幾重にも重なっていてふんわりと可憐な印象を与えてくれる。同色のパンプスは踵が低く、かつリボンで足首を飾りながら脱げにくいようにデザインされていて、幼いリリアナでも大丈夫そうだ。
「こちらのドレスは公爵夫人からの新年の贈り物ですよ、お嬢様」
「とってもきれいだわ・・・」
頬を赤らめて目を輝かせたリリアナは、うっとりと呟く。
「そして、こちらは公爵閣下からの贈り物です」
乳母が差し出してきたのは、リリアナの瞳の色にそっくりな深い藍色をした宝石と真珠が使われたアクセサリーだ。大ぶりな深い青色の石はネックレスに使われていて、小さな真珠がレース編みのようにその周囲を飾っているネックレスに、同じ色だが小ぶりな石はイヤリングになっている。
「本日のお披露目に着けていきましょうね」
初めて本物の宝石を使った宝飾品を与えられたリリアナは、嬉しくて言葉も出ない。
無言でこくこくと頷いた。
「あとは、こちらがレオン坊ちゃまからの贈り物ですよ」
兄からの贈り物は、繊細なレースをふんだんに使ったオペラグローブだった。
添えられていたメッセージカードには、「私の小さなレディへ 新年おめでとう」と書かれている。
「マーサ、わたしのおくりものも、おとうさまたちにとどいたかしら?」
「えぇえぇ、もちろんでございますよ」
ちなみにリリアナが用意したのはハンカチだ。父、母、兄それぞれに合わせたモチーフと名前を心を込めて刺繍してある。ちょっと不恰好になったがラッピングも自分で頑張ったのだ。包装のリボンと長いこと格闘していたことを知っている乳母とメイド達はその様子を当時温かな気持ちで見守っていたものだ。
「そうだわ」
リリアナはぴょこんと椅子から降りると、ベッドサイドの棚から袋を持ってきた。
「これはマーサに。これはあなたたちに」
袋の中にはさらに小分けされた包みが入っていて、リボンが結ばれている。
それらをひとつずつ乳母とメイド達に手渡す。
「わたしがつくったにおいぶくろなの」
「まぁ、わたくしどものために・・・?」
「うん、きょういないひとにはあえたときにわたすようにするわ」
部屋付きのメイド達全員の分の匂い袋を用意するのはなかなか大変だったが(なにせみんなに内緒で作っていたので)、乳母やメイド達が嬉しそうに、宝物を見るような目をしながら大切そうに匂い袋を持っているのを見ると、頑張ってよかったなと思う。
「ありがとうございます、お嬢様。大切に使わせて頂きますね」
皆から口々に礼を言われて、リリアナは嬉しそうに頷いた。
同じ頃、レオンの自室でも新年の贈り物が披露されていた。
父からは美しい宝飾の付いた飾り刀。母からはアクアマリンとラピスラズリでデザインされたカフスボタン。
「こちらはお嬢様からです」
リリアナからの贈り物は、本人が包装したのであろうとわかる少し歪んだリボンが結ばれていて、悪戦苦闘する様子が目に浮かぶようだ。包みを開けると、ふんわりとリリアナの香りがする。なかにはハンカチが3枚入っていた。盾と剣が刺繍されたもの、クローバーと十字が刺繍されたもの、青いバラが刺繍されたものがあり、それぞれにフルネームも刺繍されている。
刺繍自体はまだまだ未熟でも、ハンカチにこめられたリリアナの心が伝わってくるようで、レオンは頬を緩めた。
(リリからもらった初めての刺繍だ。大事にしよう)
そう思ったレオンだが、せっかくの贈り物を大事に仕舞いこんでいるだけなのももったいない。ひとつ思いついてメイドに言いつけた。
「このハンカチを、今夜の新年の宴で着る衣装のポケットチーフに使いたい。準備してくれるか」
兄弟仲のよさを感じさせる言葉に、メイドは微笑んでかしこまりました、と返事をして下がっていった。
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