第79話【ループの始まり】
「なっ、なんの音だ!?」
俺がこれからデスティニーレコードやファブリスの事をみんなに話そうとしたその時、ものすごい衝撃音と共に激しくウェイリスさんの屋敷が揺れた。
なんだ……?まさかモンスターが町に――いや、それはありえない。フレイラの周辺にそれだけ凶暴なモンスターは居ないはず……
するとそこでウェイリスさんがいきなり椅子から立ち上がり、こう言った。
「ちょっと待って、、この屋敷に人が入ってきたわ。それも――大勢……ッ!?」
「ど、どういう事だよっ!?」
まさか、ここに集まっていた事をファブリスにバレたのか……!?でもどうやって――――……ッ!!
しかし、そこで俺はファブリスのあるセリフを思い出した。
『――この子たちの視界は全て私に共有されているからね。』
要するに、今日俺とマーニがケティ、セリエラ、レイバー、イザベルをウェイリスさんの屋敷へ連れて行くのを誰かに見られており、その視界を共有したファブリスが命令を出したという訳だな。
くそ……ッ!!まさか前日に襲ってくるなんて……
「ハヤト、これは……そう、なんだよな……?」
そこでマーニが俺にそう含みのある言い方をしてくる。
「あぁ、おそらく朝言ったファブリスの手下だ。すまんが、いつでも俺を過去に飛ばせる様に後ろへいてくれないか。」
「……ッ!!、分かった……!」
するとその時、勢いよく俺たちのいる部屋の扉が開けられると、大勢の冒険者たちが入ってきた。
そのそれぞれが剣や槍、杖など様々な武器で武装をしているが、全員が一致している特徴――それは目に力が宿っていないという事だった。
やっぱり……!!ファブリスを囲んでいた冒険者たちと同じ目をしてる……!!これは絶対あいつの手下だ……!!
「……ッ!?、あ、貴方たちなんなの……!?いきなりウェイリスの屋敷に入ってきて――それに屋敷全体に結界を張っていたからそう簡単に入れるなんて……」
「な、なんなんだよお前ら!?」
そして、これにはさすがに動揺し、冷や汗を流すウェイリスさんとレイバー。
しかし、ウェイリスさんはともかくレイバーやイザベル。ケティとセリエラ――それに俺までもがまさか今日に来られるとは思っていなかった為武器は持っていなかった。
「なにが……目的だ。」
俺は分かりながらも、入ってきた冒険者たちに静かにそう問う。
「先生に命令された。お前たちを殺せと。だからそれに従うだけだ。」
「……ッ!!、先生先生ってふざけあがって、」
「先生?という事はまさか……前ウェイリスを襲ってきた男とも関係があるという事……?」
しかし、そうしている間にも部屋へ入ってきた冒険者たちは俺たちとの間合いを詰めてくる。
「……ッ!?、これ以上ウェイリスたちに近づいたら……ま、魔法を使うわよッ!?」
「……」
ウェイリスさんはそんな冒険者たちに手を向けるとそう脅そうとする。が、当然操られている人間にそれが通用するはずも無く――
「ぐはッ、、!?」
そのままウェイリスさんは冒険者に腹を貫かれた。
脅していてはいたものの、相手は人間、さすがに魔法を放つ事など出来ないのだ。
「……ッ!、」
「きゃあああああああ!?!?」
「お、おいウェイリスッ!?てめぇらッ!!!」
腹から血をダラダラと流し地面に崩れ落ちるウェイリスさん。
それを見て泣き叫ぶケティ。いきなりの事で理解の追い付いていない様子のセリエラ。怒りに叫ぶレイバー。
くそ……分かっていたじゃないか……こいつらは本当に殺してくる奴らだと。分かっていたのに……俺が早くに動いていればこんな事にはならなかったのかもしれないのに……!!
でも、俺はそんな状態で1歩も前へ進む事が出来なかった。
怖かったのだ。これで俺が死ねば、何もかもが終わる。もうやり直す事が出来なくなってしまう。その底知れぬ恐怖と、「次はきっと変えてみせる」その気持ちが両足を地面にガッチリと繋ぎ止めていた。
――そして俺はそんな状況の中、後ろに隠れるマーニに向けてゆっくりと、今まで何度も言ってきたセリフを呟く。
「時間逆行だ、マーニ。」
「えっ、!?でも――」
「次は絶対、変えてみせる。だから前もって準備が出来るように1ヶ月ほど前へ飛ばしてくれ。」
「……ッ、わ、分かった。」
……正直、こんな場面で過去に逃げる様な事なんてしたくは無かった。
一度きりの人生を全力で生きたかった。こんな人生を歩みたかった訳じゃない。俺はただみんなと完璧じゃないけど悪くない、死ぬ時には笑って死ねる。そんな人生を……
――だが、これを知ってしまった以上使わない訳にはいかないのだ。
もうこれは自分の為なんかじゃない。俺はみんなを……!!みんなには幸せに生きて欲しいんだ……!!
「待ってろよ……ファブリス……ッッ!!!」
♦♦♦♦♦
「……うぅ」
「あれ?いきなり立ち止まったりしてどうしたのっ?――あ、分かったっ!今日の初依頼で全然役に立てなかったから拗ねてるんでしょ〜?」
「……ッ!!、あ、あぁ。」
そうして俺は過去へと戻った。もうあんな事には絶対しない。その思いだけを抱いて。
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