第72話【妙】
祭りの準備が着々と進められ、至る所に他の街から来たのであろう人たちの屋台も出来始めて来た頃――俺たち4人は馴染みのある冒険者とギルド前の広場で出会った。
「――お、ハヤトたちじゃねぇか。」
「あら、ほんとね。奇遇じゃない。」
「おぉ、レイバーにイザベルにウェイリスさんじゃないか。やっぱり祭りって事もあって依頼は受けないんだな。」
俺はギルド前で出会ったレイバー、イザベル、ウェイリスさんの3人と話す。
その中で誰も武器を持っておらず、レイバー、イザベルに至ってはいつも身にまとっている鎧を着ていないところから今日は依頼を受ける予定は無いという事がすぐに分かった。
「当たり前だろ、今日はフレイラにとって大切な日なんだ。それに、たまにはこうして休日を楽しみたいしな。そう思うだろ?イザベル。」
「はい、私はレイバー様とこうしてお休みの日も一緒に居ることが出来、とても幸せです。」
「俺もだぞ、イザベル。」
「はいはい2人ともいちゃつかないの。たく……参っちゃうわよね。」
「はは、ウェイリスさんは気になる相手とか居ないのか?」
「逆にハヤトはウェイリスにそういう人が居ると思ってるの?」ウェイリスさんはため息混じりにそう返してくる。
「いや、正直居ないと思うが、」
「正解。まぁ、好きになる男の最低条件はまずウェイリスよりも強い事ね。」
「うん、それは多分簡単に見つからないと思うぞ。」
って言うか、これだけ強いウェイリスさんでもやっぱり女の子として『強い男子に守られたい』という気持ちはあるんだな。
「っと、そういえばだが、前ウェイリスさんを襲ったあの男、どうなったんだ?」
そこで俺は以前、いきなりウェイリスさんを襲い、それがファブリス様の命令だという謎の男がその後どうなったのかが気になり、聞いてみる事にした。
確かあの時は「後で冒険者ギルドに引き渡す」と言っていたがどうなったんだろう。
「あぁ、あの男ね。実はあの日、貴方たちが帰った後にギルドへ引き渡したんだけど、それから特には進展はしていないわ。なんでも、『ファブリス様の命令だ』という言葉しか言わないらしいわよ。」
「あー、前ウェイリスさんの屋敷でなんとか情報を聞き出そうとしていた時と同じ風になっているという事か」
「そうみたいね」
まあでも、あれだけ色々な方法で話を聞き出そうとしてもファブリスという人物が確実に絡んでいるという事以外全くダメだったんだ、いくら相手がギルドの人間に変わろうとも簡単に吐く訳ないよな。
「あれからはそういう事は無いか?」
「えぇ、それは大丈夫だけれど。――強いて言うなら、最近少し町の様子が変だなとは思うわ」
「……ッ!!」
そこで俺は自分とマーニがつい最近に話していた事と同じ事を言うウェイリスさんに驚く。
「……それはどんな風にだ?」
「う〜ん、なんて言ったら良いか分からないけれど、みんなが誰かに操られているみたいな?」
「……なるほどな」
やっぱり、感じる違和感も似たような物なのか。
――でも、逆に言えばウェイリスさんにならフワッと言えるかもしれない。
「まぁでも、それならもしも何かがあった時の為にいつでも動ける様な意識をしていても良いんじゃないか?」
「お、ウェイリスも自分の中ではそれ、思ってたのよ。ハヤトもだいぶ冒険者っぽくなってきたじゃない。」
「そうか?」
「えぇ」
「まあでも、安心なさい。ウェイリスが居るのだからこの町の安全は確定されている様な物よ。」ピンクの綺麗なツインテールを風にたなびかせて、ウェイリスさんは言う。
するとそこでイザベルとイチャイチャしていたレイバーが我に返ったかの様に――
「あ、ウェイリス。そういや俺たちここらに設営される屋台の手伝いする予定じゃなかったか?」
「あ、そうだったわ。じゃあ行きましょうか。」
「じゃあなお前ら!」
「失礼します。」
「まぁ、今日くらいは楽しみなさい。」
そうして3人組は設営許可証を発行する為に人で溢れかえった冒険者ギルドへと入っていった。
♦♦♦♦♦
それから数時間後、祭りも終盤を迎え空が暗くなり始めてきた頃。
「おいケティ、あんまり走るなよ。危ないぞ。」
「大丈夫だよっ!――あ!次はあれ食べたい!」
「……たく、」
ケティは両手に食べ物を持ちながら道を走り回り、それを見て笑うセリエラやマーニ。
俺も自分が死ぬとデスティニーレコードに記されている以上油断は出来ないが、祭りを楽しむことが出来ていた。
――それにしても、妙だな。
しかし、ふたつ気になっている事があった。まず1つ目。これは聞いている限り分かると思うがまだ襲われていないのだ。
今日何度も言っているが、本来なら俺は今日襲われ、死亡するはず。
でも、その予兆すら見えないというのはおかしいと思う。
それに、誰が襲ってくるんだ……?
今まで起きた惨劇と今回の事が同じ系統であるならば、確実に「先生」――ファブリスという人物は関わっていると思うが、それでも本人が直接襲ってくるタイプでは無いと思うしな。
そして2つ目。これは実は言っていなかっただけで朝からなのだが、何故か町を歩く冒険者たちが依頼に行くという訳でも無いのに剣や杖を持っているという事だ。
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