第70話【デスティニーレコードを知らなければ】
「ファブリス様の命令だからだ!!それ以外にはなにもない!!」
ウェイリスさんを何故襲ったのかとレイバーに聞かれると、両手両足を縄で縛られて地面に倒れる男はこちらを睨みながら声を荒らげ、そう言った。
ファブリス様?どこかで聞いた事のある様な気もするが……誰だそれは。
「誰だよ、俺は今お前がなんでウェイリスを襲ったのかと聞いているんだぞ。」
「だから!!俺はこの女を殺すよう命令されたんだ!!……ファブリス様は、先生は素晴らしいお方だ……!!」
「……ッ!?先生、今そう言ったか……?」
「ん?どうしたハヤト?」
「いっいや!なんでもない!」
……咄嗟に反応してしまったが、この男は今確かに「先生」と言ったよな?という事は今まで経験してきた惨劇に何かしらで関係していた先生という人物はファブリスという名前だということか……?
その後、俺たちは様々な形で男に質問をしたが「先生の命令」「ファブリス様の命令」そうとしか言うことは無く、そのままその日は家に帰った。
ウェイリスさん曰く、あの男はとりあえず冒険者ギルドに引き渡すとの事だ。
――とにかく、先生イコールファブリスという人物だと分かった事は大きな進歩だ。これから色々考えないとな。
そしてその日は眠りにつくのだった。
♦♦♦♦♦
そして翌日、起きた後いつも通り椅子に座ってパンを食べていると、
「おはようハヤト。」
「おう、おはよう。」
俺の部屋から寝癖の付いたマーニが出てきた。
そう、実はサンボイルからフレイラに戻って来た時、なにかがあった時にすぐ過去に飛ばせる様にとマーニには着いてきてもらっていたのだが、家に泊まらせているのだ。
前の世界じゃマーニがフレイラに来ていた時、宿に泊まっていたが、それだとその分お金もかかるしな。
(あ、ちなみにだが同じベットでは寝ているがやましいことは何も無いからな?)
「マーニも何か食べるか?」
「ならハヤトと同じパンをくれ。」
そうして俺はまだ食べていないパンをひとつ取るとマーニに渡す。
すると、そこでふとマーニがこう言ってきた。
「あ、そういえばハヤト。今日はそのデスティニーレコードは確認したか?」
「ん?まだだが。」
「これからは朝に見る習慣を付けた方が良いんじゃないのか?たしか2日後までに起こる出来事が記されるんだろ?」
「確かに、それもそうだな。」
俺はパンを全て飲み込み終わると椅子から立ち上がり、デスティニーレコードを置いている寝室へ向かう。
そしてデスティニーレコードを手に取り、それを開く――
「って!?!?」
その瞬間、俺はページを開いたままあまりの衝撃で固まってしまった。
「どうした?なにか書いてあったのか?」
マーニがこちらへ歩いてくる。
「こ、これを見てくれ、」
「ん?――っと、マジか。」
そこにはこう書かれていたのだ。
5月13日:死
ちょっと待て、今日は5月11日だから――2日後
だよな?なんで、なんでだ?
しかし、対してマーニは驚く事も無く「だが、大体予想はしていた」そう呟く。
「なんで、予想出来ていたんだ……?」
「いや、町の冒険者たちの1部が少しおかしい気がしてな。」
「おかしい……?」
「あぁ、なんと言えば良いか――上手く表現は出来ないが、自分の意志で動いていない様な、全て命令に従っている感じがしていたんだよな。」
「……ッ!!」
……確かに、最近俺も微かに違和感を感じていたのだ。
マーニの言うように今までよりも冒険者ギルド自体の雰囲気が変わったぐするとは思っていたが……
そして更に、昨日の出来事が今のマーニのセリフと重なる。
『ファブリス様の命令だからだ!!それ以外にはなにもない!!』
という事は、みんながそのファブリスという人間に……?いや、それは違うか。
でも、それでも今回デスティニーレコードに記された俺が死ぬという未来に全く関わっていないというのは有り得ないだろう。
「どうする?今から過去へ飛び対策をしておくべきか?」
「いや、まだ過去には飛ぶべきじゃない。まずはその日まで行き、誰に殺されるのか、その未来をどうすれば変えられるのかを確かめるんだ。」
真剣な表情で、マーニはそう言う。
「それ、前の世界でも同じ様な事をお前に言われたよ。」
「そうなのか?まぁでも、それが1番良いだろ。」
「まぁ、まずは確かめないとな。」
「そうだ。」
「言っておくが、その瞬間が来るまで絶対小生以外の人間にはこの話はするなよ?もし万が一それで先に対策をされても困るからな。」
「分かった。」
その後、いつも通り俺はケティ、セリエラと共に依頼をこなし、1日が終了した。
♦♦♦♦♦
そして翌日、その日もいつも通りの生活を朝から始め、依頼も終わった夕方。俺は冒険者ギルド横にあるベンチにひとり座っていた。
「ふぅ、明日か。」
一体俺にどんな事が起こるのだろうか。
――どんな形であれ、死ぬ寸前にマーニに過去へ飛ばしてもらうだけだ。そしてそのデータを元にどの様にして惨劇を回避するか考えれば良い。――と、
「……ッ!、」
しかし、そこで俺は自分のそんな考えに恐怖にも似た感情を抱いた。
デスティニーレコードを手に入れていなければ、過去に戻るという術を知らなければ、俺はきっと今よりも命を大切に思っていただろう。
『もし死にそうになっても過去に戻れば良い』『仲間が死ねば過去に戻って助ければ良い』と。そんな考えで全ての惨劇が終わった時、俺は一体幸せに生きられるのだろうか?
「……」
俺は人間から自分がかけ離れて行く様な感覚に襲われた。
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