第68話【惨劇の行方】
それからサンボイルの街中に別れてしばらく経った頃――俺は誰も居ない空に話しかける。
「おいみんな、今のところはどんな感じだ?」
すると、すぐに返事が頭の中で直接響いた。
『私のところはまだそれっぽい人は居ないよ〜っ』
『ケティの近くにいるウェイリスも同様に、怪しい人は見つけていないわ。』
『私もです。』
『俺もだ!』
そう、あれからみんな言っていた通りウェイリスさんに連絡魔法をかけて貰い、離れた場所からでもこうして連絡を取り合う事が出来るのだ。
「了解、なにかあったら連絡してくれ」
『うん!』『えぇ』『はい』『おう!』
――まぁ、でも現段階じゃ通行人の数も少ないし、危なそうな冒険者も居ないしな、もしかしたら起こるのは夕方頃なのかもしれない。
しかし、そうして一旦ベンチにでも座って休憩しようかと考えていた矢先――
『お、おいッ!?危ねぇだろ!!』
いきなりレイバーの声が頭の中で響いた。
……ッ!?なにかあったのか!?しかも、レイバーと1番近くにいるのは俺だ、急いで駆け付けないと……!!
「おい!大人しくしやがれ!!」
「大丈夫かレイバー!!――って、!?」
それからすぐに俺はレイバーの元に駆け付ける。
すると、そこにはレイバーに羽交い締めにされたひとりの男の姿があった。
そして、その男の顔を見てすぐに分かる。
そう、この男は前の世界でセリエラを刺し殺した男だったのだ。
「アハハハ!!先生!!頑張ります!!先生!!」
「……ッ!!ハヤトッ!!こいつ押さえるのを手伝ってくれ!!」
「……」
俺に救援を求めるレイバーに俺は近付いて行く。
「レイバー、一瞬そいつの身体に触れないでくれるか?」
「え?でもそれだと逃げちまうが」
「大丈夫だ」
そこで、レイバーは俺の言う通り男にしていた羽交い締めを解く。
すると、すぐに男は走って逃げようとするが、
「感電」
「アガッ!?」
その男の服を掴むと俺は身体に電流を流した。
バチバチという男を発しながら地面に倒れる男。
「レイバー、先に言っておくがこれは気を失っているだけだからな。」
「お、おう。――そんな事より、魔法も使えるんだな。」
「まぁ……な。」
実際は少し前からひとりで練習を続けてやっと使える様になった物だが。
でも、とりあえずはこいつの動きを止められて良かった。
……それに、やっぱりこの世界でも「先生」という言葉を発していたよな。一体この先生ってのは誰の事なんだよ。
「とにかく、助かったぞハヤト。いきなりこの男が俺に斬りかかって来てな。見ての通りこのエリアは通行人が極端に少ない。騒ぎにはなってねぇのが救いだ。」
「いきなり斬りかかってきたのか。」
ほんとに、この男は前の世界でのセリエラと言い、今回のレイバーと言い、何をしたいのかが分からんな。
♦♦♦♦♦
そしてそれから数時間後、結局あれからもサンボイル内で殺し合いが起きる事無く夜を迎えていた。
(感電させた男はいきなり襲ってきたという事でギルドに送った。)
「でも、まさか今回もハヤトの言う通りになるなんてね。相手がレイバーだからまだ良かったのかもしれないけど、それが一般人や普通の冒険者だったらそれこそ発展して「殺し合い」になっていたはずだったわ。」
「ほんとだよな。なんでハヤトがこの事を分かったのかは知らねぇしあまり興味もねぇが――来てよかったとは思えるぜ。」
マーニの家にて夜ご飯を食べる俺たちはそう会話をする。
「そう言ってもらえて嬉しい。――ちなみにもう一度確認をしておくが、イザベルの両親は無事だったんだよな?」
「はい、大丈夫でした。」
「それなら本当に良かった。」
そこで俺は一気に肩から荷が降りる感覚がした。
イザベルの両親が無事なら、きっとイザベル自身がおかしくなる事も無いはずだ。
しかし、そのセリフをどう受け取ったのか、レイバーはニヤニヤしながらこう言ってくる。
「ん?なんだぁハヤト?そういやイザベルの事はなんだか特別扱いしてたよな?両親の元に居てやれ、とかよ?まさかイザベルの事好きなのかぁ?」
「な、何言ってるんだよ!?」
「すいませんハヤトさん。私にはレイバー様がいますので。」
「ガハハ!聞いたか?残念だったな!」
な、なんか勝手に振られたんだが。
それに、イザベルを特別扱いしていたのはここでイザベルの両親になにかがあったら後々惨劇が生まれるかもしれないという可能性があったからでなぁ――
「お、俺には他に好きな人が居るんだよ!!」
「「……え?」」
「あ」
瞬間、頬が熱くなるのを感じる。
「まさか、ウェイリスの事が好きなの?」
「ち、違うぞ!?い、今のは言葉を間違えただけだ!!」
「ガハハ!まぁまぁそれなら頑張れよハヤト!!後悔してからじゃ遅いんだからなぁ!!」
「……たく、」
っと、そこで不意にケティと目が合う俺。
「……ッ!!」
「どうしたの?ハヤトっ?なんだか頬っぺた赤いよ〜?」
「う、うるせぇ!!」
……やっぱり俺は、好きなのかもしれない。
サンボイルでの冒険者同士の殺し合いを止め、そして自分の中に秘める恋心に改めて気付いた1日だった。
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