第63話【模擬戦】
「なんだ?ここは。」
「いつも俺がひとりで筋トレや魔法のトレーニングをする時に使っている場所だ。」
それから俺たちは、レイバー、イザベルと共に実家のすぐ横にある空き地へ来ていた。
そう、先程知り合い仲良くなったレイバーに『模擬戦をしよう』と言われたのだ。
正直レイバーは強いから、したくはないんだが――それでもこっちが勝てば今日稼げるはずだったお金はくれ、そしてなんでもひとつ言うことを聞いてくれると条件を提示される。
なんでも言うことを聞いてくれるなら、次にサンボイルで止めたい冒険者同士の殺し合いの時手伝ってもらえるかもしれないだろ?
いや、元々手伝ってもらおうとは思っていたんだぜ?大規模な殺し合いを数人で止められるとは思えんしな。でも、正直なところどうやって協力してもらおうかと悩んでいたところだったんだ。
だから、今回の模擬戦を上手いこと利用したいって訳だな。
「よし、じゃあハヤト。早速始めるか。――イザベル、そしてケティ、セリエラも。危ないから離れていてくれ。」
「分かりました、レイバー様」
「よし、離れようセリエラちゃんっ」
「はい」
そうして俺とレイバー以外の3人が俺たちから離れる。
ちなみにだが、今回は平等にする為武器は2人とも木の剣で、先に一撃もらった方の負けだ。
「じゃあ――イザベル。開始の合図をしてくれ。」
「分かりました。」
「――始め。」
「ふんッッ……ッ!!」
「……ッ!!」
するとイザベルがそう開始の合図を口にした瞬間、いきなりレイバーは剣を構えると地面を強く蹴り、こちらへ飛んできた。
バチンッ!!!
木と木が強く衝突する甲高い音が空き地に響く。
「ほう?今の一撃を軽くとは中々やるじゃねぇか。」
グググと木の剣で押しつけてくるレイバー。
「だから言っただろ、俺はレイバーが思っているよりは――強いッ!!」
そうして木の剣に力を込めると俺はレイバーを後ろに弾き返す。
(やっぱり、いきなり突っ込んできたな。)
正直、模擬戦が始まる少し前から薄々そんな気がしていたのだ。
だってずっと、「先輩の威厳を見せてやる」やら「俺は強い」とガハハと笑いながら言っていたからな。
それなら、一瞬で決めに来ると思ってたんだ。
「ガハハ、良いじゃねぇか。それなら――どこまで耐えられるか試してやるッッ!!」
レイバーは再び剣を構え直すと、こちらへ正面から突撃してきた。
そう、そしてこの積極的な攻めの姿勢に口調。
きっとレイバーは俺のことを才能はあるが経験が浅い冒険者だと思っているだろう。
――確かに俺はまだ経験が豊富な訳じゃねぇ。
だが、思っている2倍は経験している……!!
だから、ここはそれを利用して勝利を掴んでやる……!!
♦♦♦♦♦
それから俺は何度も何度もレイバーの猛攻を防いでいた。
「頑張ってハヤトっ!!やられっぱなしだよっ!!」
「ほら、ケティにも言われてるじゃねぇか。どうしたッ!!」
「……ッ!!」
ガハハと笑いながら何度も木の剣を振るってくるレイバー。
一見横から見れば、俺が一方的に攻められている様に見えるだろう。
だが、俺はずっと攻撃を受け流しており、ほとんど体力を消費していないのだ。
対してレイバーは――
「ふんっ!!」
流石は長く冒険者をやっているだけある、体力自体は俺とほとんど変わらない様に見えた。
だが、攻撃を何度も受けた俺には分かる。
最初に比べて明らかに攻撃自体の質が下がってきているのだ。
それも当然、全く反撃されずにこうして防御だけを続けられたらイライラもしてくる。攻撃だって雑になってくるよな。
「いい加減に――しやがれッッ!!」
すると、そこでレイバーは今までの攻撃の仕方とは違う、木の剣を振りかぶり突撃という手段に出た。
これは今までよりも力が乗る攻撃方法で、それをレイバー程の冒険者がすれば俺がまともに受ける事は難しいだろう。
要するに、レイバーはこの攻撃で模擬戦を終わらせに来ているのだ。
「……ッ!!」
――だが、この攻撃こそがずっと待ち望んでいたチャンスだと俺はすぐに察する。
一見、後ろに下がるべき攻撃だが、今までのスキの無い攻撃に比べてこれにはスキがあるのだ。
それに、これだけ受けられて腹が立っているのか、先程よりも攻撃自体の質が下がっている。このふたつが重なるのを俺は待っていた……!!
だからその瞬間、俺は全身に魔力を巡らせ――
「身体強化ッッッ!!!」
「「……ッ!?」」
俺は自身を魔力で強化する魔法、身体強化を発動した。
そのいきなりの攻めの姿勢にケティやセリエラはもちろん、レイバー、イザベルまでもが顔に驚きの表情を出す。
――が、もうその時点で遅い……ッ!!
「クッ……!!ブース――」
レイバーも俺と同じように身体強化を使おうとする。が、そうなる前に俺は一気に前へ踏み込むと、
バチンッ!!
「痛ッ!?」
レイバーのがら空きになった腹部に横一線を入れた。
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