第58話【圧倒的な実力】
「奥地にゴブリンたちが集まる理由はひとつだけ。――ゴブリン・ロードを決行しようとしている時だけよ。」
ウェイリスさんは真面目な声色でそう言った。
「……ッ!!」
やっぱり、起こそうとしていた……!!
「って事は、ハヤトの言ってた通りの出来事が起ころうとしてたって事……っ?」
「えぇ、これは王国への遠征をキャンセルして来た意味があったかもしれないわね。」
「ほら、言ったじゃねぇか。」
「とにかく、今は奥へ進むわよ。一匹残らず討伐する必要があるわ。」
「あぁ」「うん」「はい」
それから更に奥へと進んで行く俺たち。
すると、ある一定のところに来たところでセリエラが一度足を止めた。
「ん?どうしたんだ?セリエラ。」
「はい、おそらくゴブリンはこの先です。」
「ど、どういう事?セリエラちゃん、?」
ゴブリンはこの先って――分かるのか?
……ッ!!そうか、セリエラはエルフだから人間よりも音に敏感だ。そして今は更にウェイリスさんの五感強化魔法で聴覚も強化されている状態だからどんな些細な音でも分かる訳だ。
「ここから更に真っ直ぐ――おそらく20メートル程進むと人工的に造られた巨大な空間があるはずです。そして、そこにゴブリンたちは集まっていると思います。」
セリエラは聴覚に意識を集中させる為、目を瞑りながらそう言う。
「なるほど。ありがとうセリエラ、助かるわ。ちなみに、ゴブリンは全匹がその空間に居るの?」
「はい、部屋の入り口で待ち構えているかどうか、までは分かりませんが、部屋の外、今私たちがいる通路から音が聞こえませんのでいないですね。」
「了解よ。じゃあ貴方たちはとりあえず今まで通りウェイリスに着いてきて。そしてその部屋の入り口に着いたらウェイリスがひとりで終わらせるわ。3人は見ているだけで構わないから。」
え?俺たち何もしなくて良いのか?
「な、なんでだよ?俺たちだって戦え――」
「ダメよ。貴方たちはまだ経験が浅すぎるわ。さっきも言ったけれど、これで誰かが怪我をしたりしたら、それこそウェイリスの顔が立たないでしょう。」
「……確かに、そうかもしれないな。」
この世界の俺は力がない。――いや、実際これまでの惨劇は全て俺に力が無かったからだ。俺がもっとしっかりしていればこうはならなかったかもしれない。
でも、だからこそもう見て見ぬふりなんてしたくない。
あの日の――闇堕ちしてしまったウェイリスさんに殺されるケティとセリエラの断末魔を聞いた俺は心に誓っていた。
だから、これが下級と上級なんて関係無い。
「――でもよ、ウェイリスさん。危なくなったら言ってくれ。絶対助けにはいるからな。」
「ふっ、あんまり生意気な事言うんじゃないわよ。――でも、」
「信頼、しててあげる。」
そこでウェイリスさんはこちらを振り向くと、笑いながらそう言ってくれた。
「……ッ!!、へっ、」
♦♦♦♦♦
それから数十メートル歩くと、セリエラの言っていた通り石造りの巨大な扉が正面に見えてきた。
扉は木で出来ているが、昔に放置されたのか朽ち果てて地面に倒れている。
そして、その中からなにやら声が聞こえてきた。
「ギャギャギャ」
「ギャギャ」
「い、今のがゴブリンの声なの……?」
ケティが心配そうな顔をしながら小声でそう呟く。
この感じ、俺前から思ってたがやっぱりケティは冒険者に向いてない気がするんだよな。
ずっと小さなお店の店員とか、そういう仕事に就くと思ってたし。
「えぇ、声の感じ的に結構居そうね。」
「どうする?ウェイリスさん。」
「どうするもなにも、さっき言った通りよ。私がゴブリンに奇襲を仕掛ける。貴方たちはそこで待っていてくれたら良いわ。」
「……分かった。」
そうして俺たち3人は邪魔にならないよう、後ろへと数歩下がる。
すると、それを確認したウェイリスさんは――
「じゃあ、終わらせてくるわ。」
俺たちの方を向き、微笑すると、片手の上に光の玉を浮かび上がらせる。
あれは――閃光弾か。
でもあれは確か光魔法の中では1番初級向けの物で、効果も周りに強い光を放つだけだった気がするが。
――……ッ!!そうか……!!
しかし、そこで俺は気が付く。
俺たちは五感強化魔法によりなんの支障も無く居られるが、本来は1メートル先も見えない様な暗闇。そんな中強烈な光を急に目に浴びせられでもすれば――どうなるかは言わなくても分かるはずだ。
「目を奪いなさい。閃光弾ッ!!」
そこでウェイリスさんは自分の目に食らわない様目を閉じると、閃光弾を扉の向こうへ投げ入れた。
その瞬間、部屋の中から強烈な光が放たれ、中に居たのであろうゴブリンたちから悲鳴が発せられる。
「ギャギャギャァっ!?」
「よし、いくわよ……っ!!」
そうしてウェイリスさんは部屋の中へ一気に入って行き、「火竜の咆哮ッ!!」真っ赤な炎と熱風が部屋の外まで吹き出してくる。――って、!?
「あっちぃっ!?んだよこの火力!?」
「ちょっとハヤト!!もっと下がらないと燃えちゃうよっ!?」
「危ねぇっ!?」
あまりの高火力に、なんと石で出来た壁までもが火竜の咆哮によって焼け落ちてきていた。
「これは……先程ハヤトさんがピンチになれば助けに行くと言っていたのを見て、私ももしもの時には戦おうと思っていましたが――そんな心配するだけムダだったみたいですね。」
セリエラが後ろへ数歩下がりながら呟く。
すると、絶対にもう生き物が生きていないだろうという真っ赤な炎がボウボウと燃える部屋の中から無傷のウェイリスさんが姿を見せる。
「終わったわ。少し暑いわねここ。早く出るわよ。」
何も無かったかのようにそう言った。
「あ、そ、そうだな。」
これが……ウェイリスさんの実力なのかよ……!?
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