第56話【ゴブリンの蔓延る洞窟へ】
それから来た道を戻る様に歩き続ける事数十分。(馬車はナビレスに停めている)
やっと、冒険者ギルドで受け付けのお姉さんが言っていた洞窟へと続く道を見つけた。
確かに、右側の木々を無理やりこじ開けた様な砂利道が深い森の先へと続いている。
「この道だな。」
「そうっぽいね」「ですね」
俺は直ぐにその道へ歩いて行こうとする。――が、そこで後ろからウェイリスさんに止められた。
「ちょっと待って。ここからはモンスターが生息している可能性が高くなるわ。それに貴方たちはまだ下級冒険者、危ないからウェイリスの後ろを着いてきなさい。」
そうして俺を追い越し、先頭に立つウェイリスさん。
なるほど、上級冒険者として俺たち下級冒険者(俺に関しては前の世界の実力がそのままあるから本来は違うが)に気を使ってくれている訳か。
「優しいよな、ウェイリスさんって。」
俺はそんなウェイリスさんに笑いながらそう言う。
「や、やさ!?――ウェイリスは全然そんなんじゃないわよ。ただ、あ、貴方たちが怪我でもすれば同行していたウェイリスの実力が疑われる事になるじゃない?だからよ。」
頬を赤らめながら顔を横に逸らし、言い訳じみた事を言うウェイリスさん。
なるほど、これがツンデレってやつなんだな。初めて見たぞ。
――でもまぁ、今ので確信になった。
やっぱり前の世界で俺たちを殺そうとしたウェイリスさんは普通じゃない。
だってよ、今みたいに照れ隠しをしながらも、王国への遠征をキャンセルさせてまでゴブリン討伐に付き合わせてる俺たち(お願いしたのは俺だけ)をしっかりと守ってくれようとしてるんだぜ?
そんな人が簡単に俺たちへ「死んでもらうわ」なんて言うはずねぇだろ。
「……ッ!!」
絶対に、未来を変える……!!
そして、それから森の深くへ続く砂利道を歩き始めて数分。俺は前々から気づいてはいたが気になっていた事をウェイリスさんに質問する事にした。
「なぁウェイリスさん、そういえばなんだが。」
「ん?どうしたの?」
「なんでウェイリスさんって、他の冒険者とは違って何も持っていないんだ?」
そう、みんなも薄々気になってはいたかもしれないが、上級冒険者であり実力もフレイラナンバー1のウェイリスさん。冒険者らしい装備をひとつもしていないのだ。
服装は相変わらず黒を基調とした貴族の様な服だし、両手にもなにも持っていない。
魔法は杖が無くても使える――というか、杖自体はその人の魔力を効率良く簡単に魔法へ変換出来る道具という事は知ってはいるが、それでも魔法を使う冒険者にとって杖は必須アイテムだと思うし、う〜ん、
しかし、そんな俺の考えをウェイリスさんはたった一言で一刀両断にした。
「なんでって。邪魔だし重いからよ。」
「……へ?」
「聞こえなかったかしら?邪魔だし重いから。」
……いや、ちゃんと聞こえてはいるが、
邪魔だし、重いから?――そんな理由でなにも持ってないってのか?本当に?
すると、そのウェイリスさんの回答に驚いたのかこれにはケティやセリエラも首を突っ込んでくる。
「私も魔法を使うから杖を持ってるけど、邪魔なんて思った事無いよ?確かに重いとは思うけどさ……?」
「これが戦いを極めた上級冒険者の考え、という物なのでしょうか……私にはまだ到底理解に及びません。」
「ウェイリスさん、こればかりはケティとセリエラに同意だ。いくら上級冒険者って言っても、本当に大丈夫なのか?」
しかし、ウェイリスさんは先頭を歩きながら、
「安心なさい。それに、冒険者を始めた当初からウェイリスはずっとこのスタイルなの。聞いた事無い?杖を使わずに魔法を放ち続けていればいずれ杖と同等レベルでコントロールが出来るようになると。」
いや、特には聞いたことが無いが……まぁでも、
「確かに、それで杖と同等に素手で魔法を扱える様になるならそっちの方が得――か。」
「そういう事ね。でも、特に魔法を扱うケティ。貴方は杖をちゃんと使いなさいよ。」
「えっ?そうするつもりだけど、どうして?」
「……それまでの道のりは、とても楽じゃないからよ。」
そこで俺はそう言うウェイリスさんの手のひらに何度も火傷を負った痕がある事に気が付いた。
……ッ!、やっぱり、才能だけって事じゃないんだな。
分かってたはずなのに、それでもこのウェイリスさんが死ぬ気で努力をしているところというのは中々想像がしにくい。
――と、そこでウェイリスさんが歩みを止める。
「ほら、話している間に着いたわよ。」
ウェイリスさんは視線の向こうを指さし、そう言う。
その方向を見てみるとそこにはツタや苔に覆われた洞窟があった。
その風貌や、周りの草や木々の生い茂り具合いを見てみれば、ここに長らく人間が手を付けていないという事が容易に分かる。
……やっぱりだ。やっぱり誰もこんな洞窟、目に止めてもいなかったから、あんな悲劇が起きたんだ……
「じゃあ、入りましょうか。」
「あぁ」「う、うん、」「行きましょう。」
こうして俺たちはジメジメとする洞窟へと入って行った。
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