第45話【向けられる刃】
翌日の5月10日。
俺は昨日の夜に見たデスティニーレコードに記された文章、5月10日:イザベルをレイバーが殺害。
これにより朝からずっと姿を消したイザベルとレイバーの事ばかり気にしてしまい、中々依頼にも集中が出来ていなかった。
「――では、これにてこの依頼は完了致しました。お疲れ様でした。」
「お疲れ様〜っ!」「お疲れ様でした。」
「では、報酬のゴールドをお渡し致しますね。――――って、ハヤト様?」
「……ん?あ、あぁすまんっ!報酬のゴールドだよな!渡してくれ!」
そして今日の依頼を終えた今も、こうしてイザベルとレイバーの事ばかり考えてしまっていた。
--それから冒険者ギルドを出て、ギルド前にて--
「ねぇハヤト。今日の朝からずっとうわの空みたいだけど、大丈夫?」
「確かに、今日のハヤトさんはいつもより積極的にモンスターへ攻撃をしていませんでしたしね。まさか、昨日の事をまだ考えていたりするのですか?」
「……ッ!!!」
「図星、と言った様な表情ですが。」
「い、いや、全然そんな事ないぜ?だって昨日レイバーが言ってたじゃねぇか『後は自分で頑張る』ってよ。」
「そうですか?ちゃんと心からそう思っているのなら良いですが、本当にハヤトさん。心配になる気持ちも分かりますが、もう手伝わなくて大丈夫。そう言われているんですし、考える必要も無いですからね。」
分かってる、フレイラの言う通りだと思う。
ただ、あんな文章を見てしまった以上……
それでもその事を2人に言う事だけはしたくない。
「あぁ、ありがとうな。」俺は2人にそう言うと、解散したのだった。
しかし、それから数時間後。
昼ご飯を食べ終わり、自主練も終えた俺はなにがあるという訳でも無くフレイラをフラフラと歩いていた。
(やっぱり、気になるし心配だ、)
今の時間は真っ昼間。
普通の街では最も賑わう時間帯である。
だが、このフレイラは人口が極端に少ない為か、外にはあまり人の姿が無い。
これ、長年ずっとフレイラに住んでいるからこそ慣れてきた風景だがよくよく考えたら結構おかしいんだよな。
――――っと、まぁ良いか。
とにかく、武器屋にでも行っていい装備が無いかを確認してみる事にするかね。
よくよく思えばこの時、俺は少しでもレイバーとイザベルの事を忘れたかったんだと思う。
そして、きっとデスティニーレコードに記されたあんな悲惨な未来では無く、いつもの様に元気な2人を見る事が出来る。そう信じたかった。
俺は一度セリエラが殺されるという惨劇を変えることが出来た。絶対に今回だって、良い方向に変わるはずだ……!!
そうして俺は武器屋へ向かう。
しかし、そこで俺はその武器屋を正面から見てひとつの建物を挟んで右側にある冒険者ギルドの正面に立つひとりの人間に目線が止まった。
「……ん?……ッ!?」
正直俺は視力が悪い訳でも無ければ、かといって特別言い訳でも無いからあそこまで離れているとハッキリと目視は出来ないが、それでもすぐに分かった。
水色ショートの髪型にレイバーと同じく鎧を全身に纏い、腰に剣を携えた女性。
どう見ても昨日みんなで血眼になりながら探したイザベルなのだ。
って、!?で、でもいきなりなんで……!?昨日はあんなに探したってのに、本当にどこに居たんだよ!?
「お、おい!!」
「……」
俺は直ぐに全速力でイザベルの元へ駆け寄って行くと、ぜぇぜぇと荒く息を吐きながらそう話しかける。
しかし、イザベルはこちらを振り返るが何も言わなかった。
それに、以前のあの鋭い視線は無く、何を考えているのかが分からない生気が抜けた感じだ。
「い、イザベル……?昨日みんなで探してたんだぞ……?それこそレイバーとかよ。」
「……お父さん、お母さんが、」
「ん?なんだって?」
「お父さん、お母さんが、」
「……ッ!!」
そこでその力の入っていないセリフを聞いて俺は思い出した。
そうだ、イザベルはずっとサンボイルに住んでいて、でも今回の一般人を巻き込むまでにも発展した冒険者同士の殺し合いに巻き込まれた可能性がある。
「そ、その事はなんと言えば良いか分からないが……そ、そうだ!ま、まだちゃんと確認を取れている訳じゃないし、希望はあるはずだ!」
マーニの様にどこか他の街に逃げているかもしれないしな。
しかし、対してイザベルはそんな俺の言葉を聞いている気配は全く無く、
「もう、おしまいです。ハヤトさん。私は先生の言う事を聞くだけなのです。」
「……先生?」
おいその先生って、聞いた事があるぞ。というか、忘れる訳が無い。
セリエラを後ろから刺し殺したあの男だって、同じ様に「先生」そう発言していたからな。
まさか……この先生ってのは同じ人物を指すのだろうか……?
しかし、なんとそこでイザベルはそんな俺の思考を一刀両断するかのように相変わらず無表情のまま、片手で腰に携えている剣を引き抜くと、こちらへそれを向け、こう言い放った。
「では、死んでもらいます。さようなら、ハヤトさん。」
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