第37話【再びの朝】
「うぅ……眩しいな。――って、!!」
マーニに頼んで過去に飛ばしてもらった次の瞬間、気がつけば俺は今朝と同じ様にマーニ宅の前で空を見上げていた。
この感じ、今日の朝冒険者ギルドへ出発する前と完全に同じだ……!!本当に……本当に過去へ戻れたんだ……!!
俺は拳を握りしめると、1人小さくガッツポーズをする。
しかし、今のままでは何も変わっていない。ここから俺が未来を変えるんだ……!!
すると、その瞬間後ろでガチャリと扉が開き、声が聞こえた。
「ねぇ?なにしてるのハヤトっ、ハヤトが外に出てる間に私とセリエラちゃんはもう依頼の準備を済ませちゃったよっ!ハヤトも早く準備してっ!」
「……ッ!!」
俺はすぐに後ろを振り向く。
そこには今朝と全く同じセリフを吐き、全く同じ表情をするケティが居た。
き、来た……!!ここだ、ここで変えるんだ……!!
「い、いや。その事なんだが、今日――というか、遠征は中止だ。フレイラへ帰ろう。」
俺はこのケティの心情や、この後も本当にウキウキで冒険者ギルドへ行くという事を知っているが為に少し気が引けるが、それでもそう返す。
とりあえず今日は依頼を受けないでおこう。でも良かったかもしれないが、それだと他の第三者の介入により半ば強制的に依頼を受ける様な事になる可能性があるし、なによりもあの冒険者ギルドで話しかけてきた男。
あんな奴がいる街にずっといるのは今は特に危ない。
だからきっと今すぐ帰る。これが最善手だ。
しかし、当然そこまでの事情を知る由もないケティは、
「え?なんで?ほらっ、変な事言ってないでさ、準備してよっ!」
「もしかして暑さでおかしくなっちゃったのかな」そんな感じに俺のセリフを軽く流して全く聞こうとしない。
ク……このまま行けば――お前は同じパーティーメンバーの亡骸を抱えて泣く事になるんだぞ……!!
そんなケティを俺は見たくないし、見て欲しくない……!!
この悲しい記憶は俺だけが抱える。この1回だけてもう十分だ……!!――――って、あれ?
そういえばマーニ、過去へ戻るとそれまでの記憶は無くなるって言って無かったか?じゃあなんで今俺はこうして記憶を保持している……?
一瞬違和感を持つが――まぁ今は良い。マーニの勘違いなだけの可能性もあるし、それに持てているのは良い事だ。(持てていないと変えるべき未来も忘れてしまうからな)
だから俺は、すぐにケティに言葉を返した。
「変な事なんかじゃない、俺は真剣に言っているんだ!!」
「ど、どうしたの……?いきなり叫んで……?もしかしてほんとにおかしく――」
「おかしくなんかないッ!!!」
「……ッ!!」
「はぁ……はぁ……」
くそ……つい感情的になってしまった。が、それでも。
言い訳はあとから作れば良い。とにかく今はサンボイルから出ないと――
「どうしたんですか?今ハヤトさんが大きな声を出された気がしたのですが」
「……ッ!!セリエラ……っ、」
するとそこで、俺が声を荒らげた事に気づいたセリエラが扉から出てきた。
「あ!ねぇ聞いてよセリエラちゃんっ!ハヤトが今すぐフレイラへ帰ろうなんて言い始めてさ〜」
「そうだったんですか」
ケティと会話をするセリエラの優しい顔が、先程の最期と被る。
そうなんだよな……当たり前だけど、今は生きてるんだよな……!
ケティには本当に悪いが、絶対にフレイラへ帰ろう……!!
俺はもう一度、今度はセリエラも含んだ2人に対して投げかける。
「……ケティ、さっきは怒鳴って悪かった。2人とも聞いてくれ。俺の事はどう思ってくれても良い、だからお願いだ。今からすぐに馬車を出して、フレイラへ帰ろう。」
「……それは、なんでなの?私たちだって受け付けのお姉さんとかレイバーさんとかイザベルちゃんに見送りまでしてもらってさ、それなのに何もしないで帰っちゃうのは――なんか違う気がするよ……?」
「分かってる……そんなのリーダーとして俺が1番分かってるよ、」
でもそれでも、それでもなんだ……
こんなに無理やり仲間を言いくるめて何も知らない2人をフレイラへ帰らそうとして。
なにか他に良い方法があるのかもしれない。
でもそれが思い浮かばない自分の無力さに俺は拳を震わせ、下唇を噛み締める。
すると、そこでセリエラが言葉を放った。
「分かりました。帰りましょう、ハヤトさん。ケティさん。」
「……ッ!!分かって、くれるのか……?」
「いえ、正直ハヤトさんが何を思ってその判断を下したのか。それについては理解する事は出来ません。」
「ですが」セリエラは優しく微笑すると、
「それでも、きっとそれはなにか意味があっての判断なのでしょう。私やケティさんを思っての事なのでしょう。そんなリーダーの判断を断る事など出来ないですよ。」
そこまで聞いて俺は涙を堪える事など出来なかった。
セリエラ……お前はどうしてそこまで、、
「だから、ケティさんの楽しみにしている気持ちも分かりますが、ここはハヤトさんの判断を信じてあげましょう?」
「もぅっ、そこまで言われちゃったらハヤトを信じるしかなくなっちゃうじゃん。――分かったよハヤト。帰ろう。」
「2人とも、ほんとにありがとう。受け付けのお姉さんやレイバーたちには上手いこと言っておくからさ。」
「それは任せたよっ!!」
「あぁ……!!任せろ……!!」
そうして俺は瞳に涙を滲ませながら笑う。
こうして俺たちはサンボイルからフレイラへ帰る事になったのだった。
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