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第36話【運命に逆らう男】


「……ッ!?!?きゃあああああああッ!?!?」


 バタリ。胸部を刺され血を大量に出しながら地面に倒れたセリエラを見て、いきなりの出来事過ぎて反応出来ていなかったのであろうケティが一拍遅れて悲鳴を上げる。――って、!?


「お、おいッッ!?!?」


 何故!?何故男はいきなりセリエラを後ろから剣で突き刺したんだッ!?


「なに、!?なにやってんだお前ッ!?」


 俺はすぐに背中から剣を抜くと、男に襲いかかろうとする。

 が、対して男はニヤリと光の無い瞳を歪ませて笑うと、


「出来ましたよ、()()!!」


 そう意味不明な叫びを上げ、そのまま俺を追い越しそのまま道の先へ走って行く。


 クッ、!?絶対に逃がさん、殺して、やる……!!

 俺はすぐ身体の方向を変え、男を追いかけようとするが、そこで後ろからケティが叫んだ。


「ハヤト!!今はセリエラちゃんが先でしょ!!!」

「……ッ!!」


 そうだ、あいつの事なんて今はどうでもいいだろう、セリエラを……セリエラを……!!


 俺たちは背中に剣が突き刺さったままのセリエラに駆け寄ると、必死に声をかける。


「おい!!セリエラ!!」

「セリエラちゃんっ!!」


 クソ、これって剣を抜いたらかえって出血量が増えるよな……いや、だが抜かないと上手く包帯が巻けない……どうすりゃいいんだよ……!?


 だが、出血量的に見ても恐らくタイムリミットは短い。今すぐ出来ることをしないと……!!


 俺は腰に付けているポーチを開くと、予め持ってきていた治癒ポーションや包帯を取り出し、すぐ応急処置をしようとする。が、そこでそんな焦る俺とケティをセリエラが止めてきた。


「ハヤト、さん。それを使う必要は、ありません。」

「なッ、!?今は喋るな!!大丈夫、絶対助けてやる!!」


 セリエラは口から血を流しながらもいつもの様に微笑する。しかし、目の力はか細く、今にも消えてしまいそうな小さな光のようだ。


「無理、ですよ。分かります、恐らく臓器が完全に貫かれましたから……これは治癒ポーションでも治すことは出来ません。だから――」

「それでも……それでも……!!俺はお前を助け――……ッ!?」


 するとそこで無理やりにでも治癒ポーションを傷口にかけ、包帯を巻こうとする俺をセリエラはゆっくりと身体を起こし、なんと優しく両手で包み込んだ。


 そして、優しく、ゆっくりと言葉を力無く放つ。


「大丈夫、ハヤトさんと、ケティさんなら、絶対、大丈夫、です。私が居なくても、2人なら、最高の、冒険者に、なれる、はずです。」


「私の生まれ育った集落に何も返せなかったのは悔しいですが」口から微弱な空気と生暖かい血を出しながらセリエラは涙を流す。


「セリエラ……?何言ってんだよ……俺たちまだまだこれから――」

「ごめん、なさい。私も、もっと、このパーティーで、冒険をしたかった」


 そうして遂にセリエラの身体から力が無くなり、そのまま後ろへまるで力の無い人形が倒れるかのように崩れ落ちた。


「そんな、、セリエラちゃんっ、こんなのって、無いよ……」

「……ク、」


 なんで、なんでなんだよ……俺が何をしたって言うんだよ……


 セリエラの血で真っ赤に染まった自分の身体を見ながら、この世界がいかに残酷であるか、そして自分がどれだけ無力なんだと痛感する。


 ただ俺は、父の様に冒険者になって、みんなの笑顔を守り、最高じゃなくても悪くない。そんな冒険者ライフを送りたかっただけなのに……なぁ神様……?この世界に俺の味方はいないのかよ……


 なんで俺たちだけ……

 セリエラの身体を抱きしめ叫び泣くケティを見ているとそんな気持ちがどんどんと膨れ上がってくる。


 ――が、そこであるひとりの少女のセリフが頭の中に浮かんだ。


『やっと来たかハヤトよ。小生はずっと待っていたぞ。』


 はぁ……なんで今マーニ。お前が出てくるんだよ。


『小生は周りの人間は使えない特別な魔法を使う事が出来るぞ。』


 そんな事言ってたな、確か俺とケティが信じない中セリエラだけは興味深そうに「時間逆行(タイムリープ)」なんて名前を付けたりして…………ん?


『――それがもし存在したとするなら、後悔していた事、こうしていれば良かったと思っていた事をやり直せるんですから。』


 マーニに続いてセリエラのセリフが頭に突き刺さる。

 そして、最後に


『小生はハヤトの味方だからな。』


 心細い気もするが心強い気もする。そんなマーニのセリフが響いた。


 ――そうだ、そうだよ。まだ、諦める訳にはいかない。

 俺たちは幸せな冒険者ライフを送るんだ――こんなところで止まれるかよ……ッ!!


「って、ちょ、ちょっとハヤト!?」


 気がつけば俺は立ち上がり、サンボイルの方向へ走っていた。セリエラの亡骸とケティを残したまま。


 ♦♦♦♦♦


「マーニッッッ!!!」


 そしてそれからすぐサンボイルに戻った俺はマーニの家へ飛び込むように入った。


「うおっ!?なんだなんだいきなり――って、!?どうしたんだハヤト!?血だらけじゃないか!?」


 いきなりの出来事過ぎてマーニは酷く混乱する。


「何があったんだ!?」

「セリエラが――セリエラが殺された。」

「なっ!?それは――本当か……?」

「あぁ。そして、俺が今ここへ来た意味。マーニなら分かるはずだ。」

「……ッ!!」


 するとそのセリフを吐いた瞬間、マーニは一瞬ハッとするが、すぐに真剣な表情になり、


「過去へ、戻りたいんだな?」

「あぁ、頼む。」

「……分かった。だが、正直小生にもこれがどのような結果になるかは分からん。それでもか?」

「あぁ。」


 俺たちは3人でひとつのパーティーだ。ひとり欠けるなんて――ありえん……ッ


 すると、俺の覚悟を感じ取ったのかマーニは俺にゆっくりと近づいてくると片手を肩に当てる。


 その瞬間、俺の身体が青い魔力に覆われ、周りの視界が白いモヤの様になってきた。


 来た……ッ!!本当に使えたのか、マーニ……ッ!!


「とにかく過去へ飛ばす。絶対に今回のような惨劇を回避するんだ……!!ハヤト、未来は、きっと変えられる!!」

「……ッ!!当たり前だ……!!」


 そうして俺は初めて過去へ飛んだ。

 ここからが、俺の冒険者ライフにおける本当の始まりである。

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