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第35話【運命の日】


 そして翌日の5月4日。デスティニーレコードに「依頼中にセリエラが死亡」そう記されている当日を迎えた。


「はぁ……」


 あの後流れでこの街で出会い、唯一のサンボイルでの知り合いとなったマーニの家で泊めてもらった俺たちは今朝もご飯を食べさせてもらった。


 そしてそれから俺は家を出ると空に向かってそうため息を吐く。

 デスティニーレコード通りに行けば今日は……本当に起きて欲しくない事が起きると言うのに、燦々と光を輝く星はそんな事お構い無しに俺の身体を光り輝かせる。


 いっその事、そもそも依頼を受けなければいいんじゃないのか?昨日の夜布団の中でそうも考えていたが、


「ねぇ?なにしてるのハヤトっ、ハヤトが外に出てる間に私とセリエラちゃんはもう依頼の準備を済ませちゃったよっ!ハヤトも早く準備してっ!」

「……ッ、あ、あぁ。」


 ほらな。世界はデスティニーレコードに記されている出来事通りに進む様できているのだ。

 まるで決められた道を無理やり歩かされる様にな。きっと、これを変えるのにはなにかが必要なのだろう。


 俺はまだ、ここまで来てもデスティニーレコードが絶対だとは思っていない。なぜなら実際に起きた時、黒文字で記されていた出来事が赤い文字に変わるから。


 きっとデスティニーレコードはこのまま進めばほぼの確率で起きるであろう出来事が記される本。

 今の俺のデスティニーレコードに対する印象はそれだった。


 だから俺はあんな未来が予告されているからこそ諦める事は出来ない。絶対、セリエラを俺が守るんだ……!!


 そうして俺は家の中に戻ると依頼の準備をした。


 ♦♦♦♦♦


「さぁ!!サンボイルでの初めての依頼だよっ!!気合い入れていこっ!」


 それから冒険者ギルド前に到着すると、中に入る前にケティが腰に手を当てて元気よくそう叫ぶ。


「あぁ」「ですね。」

「ん?も〜2人ともテンション低いなぁ。どうしたのっ」


 いや、セリエラはいつもこんな感じだと思うが。

 それに今回俺には絶対にセリエラへ危害が加わらない様にするという使命がある。そんな軽いテンションにはなれないのだ。


「まぁ良いけど。じゃあ入ろっ」


 そうしてケティは扉を引くと中へと入る。それについて行くようにして俺とセリエラも中へ入ると外観からはあまり想像出来ない程にフレイラとも変わらない、普通の冒険者ギルドという感じの内装だった。


 まぁでも、外装だけじゃなくて内装も石だったら季節によっては暑かったり寒かったりしそうだしな。(それにマーニの家も内装は普通だったし)


 とにかく、まずは依頼を選ぶ事にするか。――と、いきたいところだが、実はここがとても大切だ。あんな文章が記されている以上危険な依頼は選びたくは無い。


 出来ればスライム討伐なんかがあれば良いが。


 依頼が貼られている掲示板を見つけた俺たちはそこへ歩いて行く。

 すると、そこで後ろからひとりの男に声をかけられた。


「あの、すいません。もしかしてサンボイルの冒険者じゃない方々ですか?」

「ん?あぁ、そうだが。」

「やっぱりっ!見た事の無い顔でしたからそうだとは思いましたが、そうでしたかっ」


 そうにこりと爽やかに笑う男。服装も俺たちと同じ様なラフな感じで、年齢も恐らく近いだろう。

 そんな冒険者が俺たちになんの用だ?


「で、俺たちになにか用か?」

「はいっ、よろしければこのサンボイル周辺を知ってもらう為にも、依頼に御一緒させて頂けないかと!!」


 ほう、なるほどな。要するにこいつは俺たちがこの街の周りをあまり知らないだろうからガイドをしたい。という訳か。


 セリエラを危機から守る為に人数がひとり増えるのは好都合だしな。


「依頼もこちらで決めさせていただければ!!」

「どんな依頼だ?」

「はいっ」


 するとそこで男は腰から1枚の紙を取り出すと、俺たちに見せてくる。

 そこには「ムーア森での山菜狩り」そう書かれている。


 おぉ……!!これなら自らモンスターと対峙する必要もないじゃないか……!!


 早朝から張り切っていたケティは「えぇ〜、」そうテンションを下げているが、


「分かった。その依頼で行こう。」


 俺はその案に即OKを出す。

「2人も良いよな?」2人にそう聞くとセリエラは静かに頷き、ケティも渋々首を縦に振ってくれた。


「ありがとうございますっ!!じゃあ早速依頼を受けに受け付けへ行きましょう!!」


 そうして俺たちはこの男と共に山菜狩りの依頼を受ける事になった。



 それからサンボイルを出発した俺たち一行は、ムーア森へと向かう為に山の中へ入って行った。


「なぁ、本当にこの先にムーア森があるのか?」


 俺は後ろを振り向くと男にそう尋ねる。


「はい、そのセリフはサンボイルからムーア森への依頼を初めて受けた時に皆さんよく言われます。もう少しですので。」


 ほんとかよ。それに、なんでお前が先頭じゃなくて俺が先頭を歩いてるんだ。

 普通こういうのはガイド役のお前の役目だろうが。道がひたすらの一本道だとしてもよ。


 それに、ほんとにどんどん木々の密度も増えていって道に光も全然入らないし。


 そんな事を考えながらも、前を向いて俺はひたすらに続く道を歩く。

 すると、その瞬間、


「……ぇ、?」


 口から空気が漏れたかのような、そんなか細い声が後ろから聞こえる。

 なんだなんだ、なにかあったのか?


 俺は歩みを止めると、後ろを振り向いた。


「どうし――……ッ!?!?」


 するとそこには、いきなりの出来事で声が出なかったのか口を少し開いて身体を小刻みに震わせるケティと、男により胸部を剣で貫かれ、大量の血を零しながら地面へ倒れるセリエラの姿があった。

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