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第34話【締め付けられる心】


「よし、じゃあ小生がハヤトたちの魔法の腕を見てやろう!!」


 魔法の話を始めてしばらく、そこで急にマーニがそう言った。


「いや、なんでいきなりそうなるんだよ」

「そんなの小生が色々な魔法を使えるからに決まっているからだ!!」

「あー確か時間逆行(タイムリープ)だったか?」

「小生の持つ特別な魔法に名前は無いが、そう読んでおこう。そうそれだ。」


 確か時間逆行(タイムリープ)は過去に飛ぶことの出来る魔法だってさっきマーニが言ってたよな。


 すると、そこでケティが


「ねぇねぇマーニちゃんっ!じゃあ試しに私を過去に飛ばしてみてよっ」


 明るい声でそう言った。――って、!?


「お、おい何言ってんだよケティ!?」

「え?いや、試しに言ってみただけだけど。」

「それなら良いが、」


 もし仮に、今ここでケティが本当に過去へ飛んだらこの世界はどうなるんだ?ケティは目の前から消えるのか?それとも意識だけが飛ぶのか?

 俺にはイマイチ理解が出来なかった。


 ――が、そんな俺とはうらはらにマーニは両手を腰に当てて笑うと、


「別に飛ばしてやっても良いが、ケティは飛んでもその事自体に気が付かないと思うぞ?」


 ん?どういう事だ?


「どういう事ですか?普通に考えて過去に飛べば周りの状況などで過去に飛んだと理解出来るはずです。」


 俺の思った事を代弁してくれるセリエラ。

 しかし、対してマーニは首を横に振ると、


「いや、それがな。普通の人間では過去に飛ぶとその時までに経験した記憶が完全に消えるのだ。」

「完全に……消える……?」

「あぁ。だからこの小生の力は普通の人間に使っても意味が無い。」


 なんだよそれ。どうせそういう理由を作り出して「だから使えない」的な感じに言い張ってるだけだろ。


「――まぁ、その話は良いだろう。とにかく、これから小生が3人の魔法の実力を見てやるから、中庭に移動だ!!」

「……お前の家にもあるのかよ」

「ん?なんか言ったか?」

「いや、なんでもない。」


 こうして俺たちは椅子から立ち上がり、マーニに「あの扉の向こうにある」と説明された扉の方へと向かう。――――が、ケティとセリエラが中庭に出て、後は俺とマーニだと言う時に「ちょっと待て」そうマーニに止められた。


「なんだ?早く俺たちも中庭に出ようぜ。実力を見てくれるんだろ?」

「あぁ、それもそうだが。ひとつ確認を取っておきたくてな。」

「確認?」


 するとそこでマーニは先程までのわざとらしいドヤ顔では無く、真面目に、


「ハヤト、本当に小生の事を覚えていないか?」

「あぁその事。って覚えてる訳ないだろ?」


 というか、まず今日が初対面じゃないのか?――でも、こいつ初めに話しかけてきた時も俺の名前を知ってたしな。まさか本当にどこかで会った事があるのだろうか。


 すると、俺の反応に「やっぱりか」と言わんばかりにガックリと肩を落とすと、どこか寂しそうな顔で微笑するマーニ。


 そして一言、こう言った。

 

「ハヤトが覚えていてもいなくても。小生は味方だからな。」

「……?あ、あぁ。」


 ♦♦♦♦♦


 それから言っていた通りマーニに魔法の実力を見てもらい、各自アドバイスを貰ったのだが、案の定と言っては可哀想だが見た目の通りマーニ自身が魔法を全然使えず、結構すぐ部屋の中に戻る事になった。


「もーマーニちゃん?見栄を張るのは私良くないと思うよ?」

「う、うぅ……で、でも!!小生は過去へ戻る魔法をだな――」

「それも実は使えないんじゃないの〜?」

「つ、使えるぞ!!」


 魔法が使えなかったマーニを軽くからかって遊ぶケティ。

 こういうケティは普段中々見ないから普通なら「お、ケティもやるようになったな」なんて言いながら笑う場面だろう。


「……はぁ」


 だが、今の俺にはとてもそんな気分にはなれそうに無かった。というか、今日の朝からずっとこうだ。


 原因はもちろんデスティニーレコードに記されていたあの文章。


 セリエラが……死ぬ?そんなのありえない。やっぱりありえない。

 ――が、今まであれに記されてきた出来事は全てが事実へと変わっている。


「……ッ、」


 俺はどうすれば良いんだよ……


 すると、そこで隣に座っていたセリエラが心配そうに声をかけてきた。


「どうしたんですかハヤトさん。今日の朝からずっと顔色が悪いですよ?それに何かを思い詰めてる様な――」

「あ、あぁ大丈夫だ。気にしないでくれ。」


 俺は笑顔を作ってそう返すが、


「大丈夫じゃないです。本当に何かあったんですか?私で良ければなんでも聞きますし相談に乗りますから。確かに私はケティさんの様にハヤトさんの幼なじみでもなければ昔からずっと居た訳でも無いですが――」


「それでも今は同じパーティー。仲間なんですから。」

「……ッ、――ありがとうな。でも、本当に大丈夫なんだ。」


 そう優しくされたら、余計に胸が苦しくなるじゃないか……


「そう、ですか。それなら良いですけど。」

「…………なぁ、?セリエラ」

「なんですか?」


「もし、自分が依頼の途中に死ぬとしたら、どうする……?」


 って、な、何を聞いてるんだ俺は……!?

 口から漏れてしまった言葉に後悔をしながらも、俺は恐る恐るセリエラの言葉に耳を傾ける。


「なんですかそれ、私は死にませんよ。」

「……ッ、そ、そうだよな。はは、」


 しかし、その質問で得られたのは更に心を締め付ける鎖だけだった。

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