第23話【ナビレスからの沈黙の帰還】
「端的に、告げ、る……はぁ、はぁ……俺たち、討伐組は……全滅、した……」
突然襲来してきたゴブリンたちによって崩壊させられたナビレスの街から唯一倒壊していない冒険者ギルドへ入って来た全身から血を流す冒険者は喉を詰まらせながらそう言うと、そのまま地面に倒れた。
って、全、滅……?
待て、そんな事が有り得るのか……?相手はゴブリンだぞ……?飛龍じゃないんだぞ……?
だが、そんな事より……!!
「だっ、大丈夫か!?おい誰か包帯を持ってきてくれ!!」
俺は倒れた血だらけの冒険者の元へ駆け寄るとそう叫ぶ。
しかし、それをその冒険者本人が制止させた。
「やめて、くれ、俺はもうどうせ助からない、、無駄になる、だけだ……」
「……ッ、、」
「……何があったの。」
すると、そこでウェイリスさんがそう尋ねる。
「ゴブリン共、、だけじゃない、、仲間も、おかしく、ぐふっ!?、、はぁ、はぁ……」
「おい!?無理して喋るな!!」
「は、はは……なんで、世界はこう、狂ってるんだろう、、な……ぁ、」
それに対して血を吐きながら答える冒険者に俺はそう声をかけてやれるだけで何もしてやる事は出来なかった。
そして、その言葉を最後に血だらけの冒険者は動かなくなる。
「……ッ、」
「……ハヤト、何も出来なかったなんて自分を責めるんじゃないわよ。ここに居る人たち全員も。」
「でも……っ、それでも――」
「ごめんなさい、ウェイリスがいち早く異変に気づけていれば良かったの。最近王国へ遠征に行った時ナビレスの前を通過したけど特に何も感じなかった。上級冒険者としてこれは有るまじき失態よ、」
「だからあなたたち3人は今から馬車に乗ってフレイラへ戻って。」
「……は?う、ウェイリスさんは……?」
「ウェイリスは残る。まだやるべき事が残ってるみたいだもの。」
な、なんでそうなるんだよ……!?それなら俺たちだって――
「じゃあ俺たちにもやらせてくれよ!!この数日間の特訓で強くなったんだ……今なら役に立てるはず、そうだろ!?」
「だね、そうだよっ!私たちだって頑張りたい……!!こんな状態の街をほっておくなんて出来ないっ!!」
「ですね、同感です。」
それぞれウェイリスさんに意思表示をする俺たち。
しかし、
「ダメよ。帰りなさい。」
「……ッ!?なんでだよ!!帰るなら帰るでウェイリスさんも一緒に来てくれよ!!なんで自分1人残ろうとするんだっ!?」
「……ダメ、一緒には帰れないわ。」
「それこそ、、それこそ自分を責めちゃダメと言いながら1番責めてるのはウェイリスさんじゃないのか!!」
「……ッ!?そんなの、、当たり前でしょッ!!!」
「「……ッ、」」
冷たい沈黙の横たわるギルド内に響き渡るウェイリスさんの声。そこで俺はウェイリスさんの目尻に涙が溜まっている事に気がついた。
「ウェイリスが……ウェイリスがもし数日、数時間前にここへ居れば未来は変わっていたかもしれないのに……ッ」
「……いいから帰りなさい。あの馬車にはウェイリスが契約魔法をかけてあるから乗れば自動的にフレイラまで運んでくれるわ。だから行くのよ。」
淡々と告げるウェイリスさん。
色々な心情を考えた時、俺たち3人がそれに対して反発するのはもう私情を持ち込む行為でしか無いとそこで悟る。
「……分かった。」
「……ッ、ハヤト、」
こうして俺たちはナビレスからフレイラへ戻った。燃え盛るナビレスからウェイリスさんを残して。
♦♦♦♦♦
それから数日後。未だにウェイリスさんが帰ってくる訳でも無ければナビレスからの連絡も無い日々の中で、ウェイリスさんの屋敷から個々家に帰った俺たちはワーウルフ討伐などの依頼をこなす。
するとそこで間髪入れずに再びデスティニーレコードに新しい文章が刻まれた。
4月29日:オーガ討伐にてレイバー率いる冒険者と知り合う
4月30日:オーガ討伐の功績により中級下位へ昇格
これらの文章は同じ日に記された訳では無く、上の文章が4月27日、下の文章が4月28日に記された。
それで今は下の文章に気がついてすぐの、4月28日の早朝だ。
まず、オーガ討伐の依頼を受けること自体がよく分からんが(確か中級冒険者以上じゃないと受理出来なかった気がする)「レイバー率いる冒険者と知り合う」と書いてある辺りきっと俺たちだけの討伐じゃなくて他の(おそらく)中級冒険者と一緒にするんだろうな。
こういうのを合同依頼や合同討伐って言ったりするな。
オーガから上のモンスターが現れ、その時上級冒険者が不在だった場合などに数で押し切る為にその様な手段をとったりするのだ。
まぁもっとも、こんな小さな町で合同討伐なんてほとんど聞かないが。
それにその下の文章を見る限りじゃその討伐は上手く行って俺たちは中級下位に昇格出来るっぽいな。(通常昇格する時は昇格試験を受けなければならないが、たまにこの様に功績を認められて昇格する事もあったりする。)
まぁ、上がって損は無いしな。嬉しいかな。
しかし、そこまで心にくるものは無い。なんせ俺の心には今「嬉しい」よりも「誰かが傷つく未来じゃなくて良かった」が大きかったからだ。
この時もしかすると俺はもう未来を変えるという事自体を諦めだしていたのかもしれない。
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