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第26話 少女と未来

 噎せ返るような自然の匂いを身体に馴染ませるように、未来(みらい)は大きく深呼吸した。


「これが、世界」


 土も、草も、花も、空も雲も太陽も。


 全部、シェルターの中で見たことがあるはずのものだった。


「カミサマは、これを見せたかったんだね」


 今でも、未来はカミサマと共に過ごしたセカイを偽物だとは思っていない。

 しかし、やはり外の世界とは異なるものだったようだと改めて実感する。


 もっとも、妙に視界が霞んでいるせいでしっかりとその景色を確認することは出来なかったが。


「おぅ、相棒」


 後ろから、トモダチが追い付いてきた。


「あんなので良かったのか?」


「何のこと?」


 トモダチに背を向けたまま答える。


「カミサマとのお別れ。もっと、色々言いたいことあったんじゃないのか?」


「んー、どうだろ?」


 ポタリと、液体が地面に降り落ちた。


「あんま、湿っぽいのは好きじゃないしー」


 地面には、既にいくつもの染みが出来ている。


 空は快晴。


「そもそもさー」


 トモダチが未来の肩に留まる。


 しかし、未来の顔を見ようとはしなかった。


「泣かないって、約束したしねー」


 未来は、まだその名を持たなかった頃にカミサマとそう約束した。


 そしてそれ以来、一度も泣いたことがない。


「だから、涙ながらにお別れってわけにもいかないし」


 声が震えているのは、新しい世界への期待からで。

 鼻がグズグズいっているのは、慣れない空気がむず痒いから。


 地面が濡れているのは、きっとお天気雨だ。

 未来の目が濡れているのも、同じ理由。


「それに」


 痛い事があっても辛い事があっても泣かない、未来は強い少女なのだった。


 そう、カミサマに望まれたのだから。


 そう、カミサマに育てられたのだから。


「そにれさ」


 だから、未来は泣いてなどいないのだった。


「お別れじゃ、ないもの」


 事実、未来はその顔に笑みを形作っている。


 力が湧いてきた。


 泣きたい時こそ、笑うのだ。

 そう言ってくれた声を思い出すから。


「確かに、人間一人が一生で身に付けられる知識には限界がある」


 グシグシ、と袖で目と鼻を拭う。


 振袖の綺麗な花柄に、大きく染みが出来た。


「でも、昔の人たちはカミサマを創った。色んな得意分野を持つ人達が、沢山集まって」


 もう、視界は霞んでいない。


「この世界にも、沢山人はいる。人類は、きっと生き残ってる」


 真っ直ぐ前を見据える。


「色んな得意を持った人の、色んな力を借りれば……カミサマも、直せる」


 己の行先を、見据える。


「直してみせる」


 強い意思を、目に秘める。


「私なら、出来る」


 強い決意を、言葉に込める。


「でしょ?」


 強い視線を、隣に向ける。


「おぅ」


 友から、同じく強い視線が返ってくる。


「勿論だ、なにせオレもいるんだからな」


 一人でないことが、心強かった。


「よーし、カミサマ復活! そのためにも、まずは人類復活!」


 大きく両手を上げてから、未来は踏み出す。


「やったりますかー!」


「おぅ、やったれやったれ!」


 何の当てもないが、自信だけはあった。

 絶対に出来ると、確信していた。


 根拠はある。


 なぜならば。


「私は、カミサマの娘なんだもんね!」




   ◆   ◆   ◆




 後に。

 『人類の未来』などという大仰な、しかし名付け親の意図を余すことなく反映した……そんな二つ名で呼ばれることになる彼女が。


 カミサマから『未来』という名を授かった少女が、明るい未来に向けて。


 小さくて大きな一歩目を、踏み出した。

本作、これにて完結です。

最後まで読んでいただきました皆様、誠にありがとうございました。


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