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狂犬騎士様と、追放聖女



 時折足を止めて、シルヴィウス様がコンパスで方向を確認してくれる。

 そうしながら森の奥へと進んでいった。


「シルヴィウス様は、怒っていないときは穏やかなのですね」

「怒っていないときは、穏やか……? まぁ、言いたいことはわかるよ。副団長の言う通り、俺はよく問題を起こしていたし。異端児とか、狂犬とか。名前じゃなくて、妙なあだ名で呼ばれることのほうが多かったね」

「狂犬、ですか」

「そう。狂犬」


 私の足取りに合わせて、シルヴィウス様は進んでくれる。


「エフィ。手を」

「手を?」

「そう。ここを越えるよ。ほら、おいで」


 私たちの進む道の先の地面には、大きく亀裂が走っている。

 近づいていくと、深い崖になっているのがわかる。崖の底には、川が流れている。

 平坦な道を歩いてきたような気がしたのに、ゆるやかな登り坂になっていたのだろう。

 森の中とは、不思議だ。どちらからきたのか、どこに向かっているのか、わからなくなる。


「ここを越えるのですか……!?」


 亀裂は、とても跳躍だけでは飛び越えられそうにない。

 遠目にみれば亀裂だったけれど、それは峡谷。谷である。


 さしだされた手を取ると、シルヴィウス様は私を軽々と抱き上げた。


「しっかり掴まっていて。落ちないように」


 言われた通りぎゅっと掴まると、シルヴィウス様は助走をつけて崖のぎりぎりで飛びあがる。

 眼下に谷底を見下ろしながら、空を飛ぶようにして谷を飛び越えた。

 内臓が浮かびあがるような浮遊感に襲われて、私はシルヴィウス様にしがみつく。

 とさっと、反対側の崖に降り立ったシルヴィウス様は、楽しそうに「あはは」と笑い声をあげた。


「怖かった、エフィ?」

「おどろきました……こんなに、人間とは高く飛べるものなのですね」

「んー。俺は特別、強いからねぇ」

「狂犬というよりも、シルヴィウス様はやはり女神様の御使いです。背中に翼がはえているようでした」

「女神なんていないよ。信じられるの自分だけ。今は、俺とエフィの二人きり」

「信じてくださっているのですか、私のこと」

「そりゃあね。俺は君の騎士だからさ」


 シルヴィウス様は私をおろしてくれる。

 私は乱れた服を整えると、お辞儀をして「ありがとうございます」とお礼を言った。


 ゆっくりと歩き出したシルヴィウス様を追いながら、私はその背中に尋ねてみる。


「あ、あの、どうして……私なんかの護衛を引き受けてくださったのですか?」

「言っただろう、追放されたんだよ、俺も。聖騎士団に所属してから、揉め事を起こすたびに懲罰房に入れられてさ。俺は聖騎士団のお荷物だったわけ。俺をやめさせることができない理由が、聖騎士団にはあったしね」

「理由?」

「まぁ、長くなるし、それはいいよ。君も同じ。傾国の姫の娘で、隣国の王と王家の血筋。しかも聖女の力まである。王家は君を無視できず、君が人々を救うことで君に民の心が傾くことを恐れた」


 王家が、私を恐れることなんてあるのだろうか。

 表門で、私に向けられた国王陛下や、王太子殿下の視線を思い出す。

 嫌われては、いたのだろう。

 お会いしたこともなかったのだけれど。


「だから、追放を。女神の聖地までたどり着くことができれば御の字で、途中でのたれ死ねばそれはそれで……という感じじゃないかな。君の護衛を命じられた時、君のことは俺が守らなくちゃいけないなと思った」

「お話ししたこともないのに、どうして」

「俺は君のことを知っていたんだよ、エフィ。君が、俺を知らなくても」

「そうなのですか……ごめんなさい、シルヴィウス様。覚えていないとしたら、私は申し訳ないことを」


 シルヴィウス様は軽く首を振った。


「聖騎士団の騎士なんて、数が多いし、いちいち顔も名前も覚えないでしょう? 君は聖女で、とても目立つ。俺が一方的に君を知っていたとして、それは仕方のないことだよ」

「でも……ありがとうございます。シルヴィウス様はとても優しい人なのに、狂犬なんて、不思議です」

「エフィちゃんて、馬鹿なの? 見たでしょう。路地裏や裏門で、兵士や副隊長を斬ろうとしていた俺が本当の俺だよ」


 私はシルヴィウス様の隣に小走りで並んだ。


「私のために怒ってくださいました。誰かにああして庇っていただくのは、はじめてです。……少し、驚きましたが。でも、ありがたかったのです」


「だからね、エフィ。言ったと思うけれど、俺は俺のために剣を抜いているだけだよ。気に入らないやつを殴るのが好きなんだって」


「はい。では、そういうことにしておきます」


「まぁ、いいけどね……」


 それ以上、シルヴィウス様は何も言わなかった。

 それから、どれほど歩いただろうか。

 王都近郊の森から、樹海に入ったのだろう。

 徐々にあたりが薄暗く、空気が重くなってくる。


 お腹の奥に岩を突っ込まれたような感じだ。皮膚がひりひりして、息苦しい。

 黒い粒子が、空気の中にチラチラと散っている。

 これが、魔物による土地汚染の特徴である。


「シルヴィウス様。……土地が、魔素汚染をされています。浄化を、しますね」


 私はシルヴィウス様の腕を引っ張った。

 足を止めて、それから、シルヴィウス様は厳しい視線を周囲に向けた。



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