表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/18

シルヴィウス様の出自



 食事の用意ができると、蔓のベッドで眠っていたイグノアさんが起き出して、ふわふわとこちらに向かってくる。

 

「イグノアさんも、食べるのですか?」

『食べるとは?』

「食べるとは、口に入れることですけれど……シルヴィウス様、イグノアさんはご飯を食べないのですか?」

「魔剣だからねぇ」


 私はいまいち、魔剣が何なのか、イグノアさんとは何なのかが分かっていない。

 けれど、会話を交わせる生き物ではあるのだから、ご飯は食べたほうがいい。


 犬もウサギも小鳥も、ご飯は食べるものね。


 私は、私の分を半分にして、イグノアさんの前にさしだした。


「イグノアさんの分もありますよ。はい、どうぞ。シルヴィウス様も、よろしければ召し上がってくださいね」

「もちろんよろしいから、いただくよ」

「ふふ……」

「イグノアも、せっかくだから食べてみたらいい。口に入れて飲み込めばいいだけだ」

『ふぅん』


 お鍋も食器類も、コップも、イグノアさんが出してくれる。

 野営とは思えないぐらいに、私の神殿のお部屋よりもずっと、華やかで豪華なお食事だった。


 私は女神様に祈りを捧げる。シルヴィウス様は特にご挨拶もせずに、キングサーモンサンドを手にしてばくっと食べた。


 シルヴィウス様は美しい容姿をしているけれど、食べ方はかなり男らしい。

 ぼたぼたとタルタルソースがたれても気にせずに、指についたソースをぺろりと舐めとった。


「おいしい」

「ありがとうございます……!」


 料理を褒められたこともなかったから、なんだか胸がいっぱいになる。

 イグノアさんもシルヴィウス様の様子を眺めたあとに、ばくっとキングサーモンサンドを口の中にいれる。


『なるほど。これが、食べる』

「はい、食べる、です」

『美味しい。エフィミア。これは、美味しい』

「褒めてくださって、ありがとうございます」


 私よりも先に食事を終えたシルヴィウス様が、葡萄酒を飲みながらじっと私を眺めた。

 夜の闇に支配された森には、風の音と、遠くに動物の声が響いている。


「ねぇ、エフィ。聞かないの、色々」

「色々……」

「そう。俺のこと、気にならない?」

「シルヴィウス様のことはもちろん、気になります。気になりますけれど……聞いてもいいのですか?」

「いいよ。なんでも答えてあげる。ただし、俺のことはシスって呼んで」


 そういえば、イグノアさんはシルヴィウス様を『シス』と呼んでいた。

 ルヴィと呼ぶよりは、しっくりくる気もする。


「シス様?」

「うん」

「……嫌なことは、答えないでくださいね?」

「そうだね」

「で、では。シス様は……ご家族はいらっしゃるのですか?」

「っ、あはは……!」


 一番気になっていたことを尋ねると、シルヴィウス様は大きな声で笑い出した。

 私の質問はそんなにおかしかったかしら。

 でも、大切なことだわ。

 だって、王都に家族がいるのだとしたら、きっとシルヴィウス様のことを心配しているもの。


「イグノアのことを聞かれると思ったのに、俺の家族が気になる? 二十三歳独身だと言った筈だけれど、恋人の有無を聞いている? 大丈夫、いないよ。エフィは心配をしなくてもいい」

「そうなのですね。恋人はいらっしゃらない……それでしたら、よかったです」

「ふふ、そう。よかったね」

「はい。ご両親などはどうでしょうか。あまり帰りが遅いと、心配をされるのでは」

「エフィ。君は、人の話を聞いている?」


 シルヴィウス様は私の額をつついた。

 私は額を押さえる。でも、そんなには痛くなかった。


「追放されたんだと言っただろうに。心配してくれるような家族がいたら、追放されるような行動をとったりしない」

「……つまり、シス様も私と同じ?」

「少し違うね。別に隠すことでもないから言うけれど、俺はアルベド・エルヴィルの腹違いの弟だよ。いわゆる、婚外子だね」

「神官長様の……? 婚外子……」


 一瞬理解に苦しんで、私は目をしばたかせた。

 アルベド・エルヴィル様は、私に巡礼の旅を命じた神官長様である。


「そう。前神官長ディールムントが娼婦にうませた子が、俺」

「しょう、ふ……」

「男に体を売る女のことだね」

「……そ、そのような言い方をしてはいけません」

「ではどのように言ったらいいのですか、聖女様」

「大変ご苦労をなさっている女性たち……です」

「なんでもいいけど。ほら、王都に歓楽街があるだろう? そういった女性たちがたくさんいる、歓楽街ソドム」

「ええ、はい……」

「そこの、高級娼館アシッドメアリーの娼婦クラリッサが、俺の母。もう亡くなったけれどね」


 にこにこ笑いながら、シルヴィウス様は言った。

 私はアルベド様の顔を思い出す。

 シルヴィウス様とはあまり似ていないような気もする。前神官長ディールムント様のお顔は、私は知らない。

 シルヴィウス様の綺麗な面差しは、お母様に似たのかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ