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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

穏やかで明るい日常を

作者: 宿木ミル

「あっ、やみちゃん! やっほっ」

「こ、こんにちは」

「ねぇねぇ、やみちゃんって、想像以上にグルメなの?」


 街のハンバーガー屋さん。お昼時のお店にはそれなりの列ができていました。

 そんな有名なお店に入った時、ばったりクラスメイトのひかりさんに遭遇した私。

 これはなかなか気まずいです。


「あっ、そ、そんなことはないですよ……?」


 目を逸らしながら話してみても、隣に並んでいるひかりさんの注目からは逃れられません。

 なかなか困ってしまいます。私は人見知りなもので、こういう時どんな反応をすればいいか悩んでしまいますので……


「ねぇねぇ、やみちゃん、おすすめバーガーとかある?」

「おすすめ……」


 ひかりさんの言葉を聞いて考えます。相手から話が展開されてくれるのならば、私でもどうにか話せそうです。

 いつも食べているものを紹介するべきか、それとも季節限定を勧めるか。どうしよう……


「わ、私は期間限定に弱いかも、です」

「あぁ、わかるかも。季節限定のコスメとかあると、あたしも買っちゃうし」

「そ、そうなのですか?」

「うん、女子力上げる為に頑張ってるんだー」

「すごい……」


 私はそうしたことに詳しくないので、ひかりさんがさらっと話しているのを見ると驚いてしまいます。

 指先まで、綺麗に手入れされている彼女の姿は私から見ると眩しく感じます。


「んでもって、どういう限定が今は強いの?」

「えっ、あっ、その……」


 言い淀みながら店内に置かれている広告を見つめます。

 それぞれみっつのハンバーガーがありますので、ひとつずつ説明していきたいところです。


「か、辛いものと、ポテト系と、コロッケ系があります!」


 ……そう頭では考えているものの、言葉にはなかなか出てきません。

 しっかりとした説明をしようとしても、言葉が先走ってしまいました。


「普段のとはどう違うのかな」

「え、えっと、その味のテイスト……みたいなものが違うかと。限定のメニューのハンバーガーは冒険しているのが多いっていう感じなのか、個性的なものが多くってその、普段食べられないようなものが多い、みたいな……」

「ちょっとレアな味ってことね!」

「レア……は、はいっ、レアなんですっ!」


 明るく頷く彼女の姿を見ていると、うまく伝えられているか逆に不安になってしまいます。

 いい感じに纏めてくれるひかりさんは話すのがとても上手です。


「やみちゃんは、どれを食べたの?」

「えっ、えっと……辛いのと、コロッケ系です」

「結構通ってるねー、常連さん?」

「……制覇したくなっちゃうんです」

「新しいバーガー食べるの?」

「そ、その、次に食べられる時が来るかわからないので……」

「なるほど、やっぱりグルメかも」

「あうぅ」


 その言葉が少し恥ずかしくって、顔を背けてしまいます。

 食べることが趣味、というのは間違っていません。それに、ハンバーガーのようなちょっとカロリー高めなものが好きだったりもします。

 ぱくっと食べる時に落ち着くので、ついついハンバーガー屋さんに足を運んで食べてしまうのです。

 列はまだまだ遠く、喋る時間は余裕があるみたいです。

 ひかりさんはまだまだ私に話しかけてきます。


「辛いのってどんな感じだったの?」

「え、えと、ピリ辛な風味のソースが特徴的なものでした。ソースに辛みがあるのもあって、バーガーの全体の風味が独特なものに変化していて、それでいて唐辛子のような刺激的な辛さではなく、ぴりりっと来るようなものがよくって……この限定期間の間に三回はいだたいてます……」

「おぉ、めっちゃ好きなんだ」

「その、刺激的なの、好きなので……」

「へぇ、なんだかびっくり」

「あ、あはは……」


 性格には、ブラックペッパーの風味とかそういうのがある料理が好き、という部分が強いのかもしれません。

 なにか悲しいことがあったときなどは、そういったものを食べると気を紛らわすことができるのです。


「じゃあ、コロッケ系は?」

「冬の寒さにちょうど良さそうな、グラタンコロッケのハンバーガーです」

「えっ、そこまで違うんだ」

「はい、普段から売っているものとは大きく異なるグラタンの味わいが印象的なハンバーガーとなってますね。暖かいグラタンの風味がとても強く、食べているだけでほっとするような味わいが特徴的です。ええっと、これは二回ほどいただいてます」

「やっぱり結構通ってるっ」

「……好きなんです、ハンバーガー」


 ハンバーガー屋さんでハンバーガーらしからぬ風味の味わいが食べられる、ということがなかなか印象的で、気が付いたころに二回ほど注文していたのがコロッケ系のバーガーでした。

 個性的な味を口にしていると、自分もそういった存在になれそうな感じがして、勇気が貰えます。


「話を聞いてても、よくわかったかも。やみちゃんのハンバーガー好き」

「そ、そうですか……?」

「話してるとき、目が輝いてるんだもん。筋金入り」

「色々、憧れてまして……」

「憧れ?」


 まっすぐな瞳でひかりちゃんが私を見つめます。

 その眩しさに、目が眩みそうになりながら、なんとか話を続けます。


「ハンバーガー屋さんで食べている方には、友達と一緒にいるという方もいます」

「うん」

「そうした方を見つめながら、食べていると……なんだか、不思議と暖かい気持ちになって、それでいて羨ましいと思ったりして……」

「うんうん」

「……色んな光景を見つめながら食べていると、もう一度行きたいってなって、来ちゃうんです。は、ハンバーガーもいっぱい食べたいって思っていますが……」

「そっか」


 列で並んでいる最中はひとりでいることが多いのもあって、こうした会話をするのは初めてでした。

 そんな私の話を、ひかりさんは真剣に聞いてくれます。


「ねぇ、やみちゃん」

「な、なんでしょうか」

「やみちゃんがよければなんだけどさ、今日、一緒にお昼食べない?」


 その言葉に驚きを感じます。

 私が、クラスでもキラキラしている存在なひかりさんと食事を一緒にする。

 それは、まるで他人事のようにも聞こえてしまうくらい驚きの言葉でした。


「わ、私が一緒でも、楽しいかわかりませんよ……?」

「楽しいよ、やみちゃんと一緒なら」

「そ、そうでしょうか……」

「うん、だってハンバーガーのことを離してる時のやみちゃん、かわいかったもん」

「ふぇっ」


 急にそう言われて、ドキッとしてしまいました。

 かわいい。

 私が、かわいい……?


「ほら、そうやって顔を真っ赤にしてるのもかわいい」

「か、からかわないでくださいっ」

「ごめんごめん、でも、笑顔が見てみたいなって思うんだ」

「ど、どうしてですか……?」

「だって、ほら、笑顔のやみちゃん素敵だから」


 ひかりさんの色んな言葉でどきどきしてしまいます。

 褒められている、その事実も嬉しくって少しだけにやけてしまいそうです。


「い、一緒しても、よろしいのならば、よろしくお願いします……!」

「こっちこそ、一緒に美味しいハンバーガー食べようね」

「はいっ……!」


 知っているクラスメイトと一緒に食事をする。それはきっと新しい一歩になるはずです。

 そわそわしながら、列を進んでいきます。もう、カウンターはすぐそこでした。


「ひ、ひかりさんは何を頼むんですか?」

「んー、ポテト系かな? 未知の挑戦したいし」

「わ、私もポテトの予定でしたっ」

「いいね。やみちゃんも初めてなの?」

「はいっ、その……ポテト系の限定品好きなので、食べる時期を遅らせていたんです」

「なるほどね、それならもっと期待できちゃうかも」

「きっと、美味しいです……!」


 カウンターで会計をそれぞれ済まして、食べるものを購入していきます。

 肉厚ポテトバーガーのセット、ドリンクやポテトは大サイズ、チキンも一緒にいただきます。

 お腹いっぱい食べることは幸せなことです。

 注文が完了した後、私は二人用の席に座りました。

 ……今日は、向かい側にクラスメイトがやってくる。そう思うとなんだかそわそわした気持ちが止められませんでした。


「ふたりでお揃いバーガーってなんだかいいよねっ」


 そう言葉にしながら、ひかりさんが前に座ります。


「は、はい、なんだか特別な感じがします……!」


 うきうきした気持ちのまま、肉厚ポテトバーガーを手に取り、食べていきます。


「いただきます」

「いただきますっ」


 一口、しっかりと味わっていきます。

 ポテトのサクサクとした味わいが、しっかりとした噛み応えのお肉と相まっておいしさを引き出します。

 ポテトと言っても、ほくほくした食感のものではありません。サクサクした味わいのハッシュポテトになっています。

 サクサクのハッシュポテトに、バーガーのパンの味わい。そして肉厚の食感が交わってとても幸せな気持ちになっていきます。


「美味しいです……っ」

「限定っていうのがもったいないくらい、美味しいっ! こういう味のハンバーガーもあるんだ……!」


 ひかりさんも目を輝かせながら味わっています。

 なんだか嬉しい気持ちでいっぱいになってしまいます。


「やみちゃん、すっごくいい笑顔だね」

「ふぇ、そ、そうですか?」

「普段の姿だと見られないくらい、明るい表情してた」

「あ、うぅ……」


 恥ずかしいものの、悪い気持ちではありません。

 私の笑顔。自分では見つめることはできないけれど、そんな素敵なものだったのかな。


「げ、限定ですっ」

「限定?」

「ひかりさん限定の特別笑顔、ですっ」


 そんなことを言葉にしながら、私なりに頑張って笑顔を作ります。

 その言葉を聞いたひかりさんは笑ってくれました。


「この特別な時間でしか見れない笑顔ってことだねっ、なら、あたしも笑顔をプレゼントっ」


 そういって笑顔を見せるひかりさん。

 キラキラした雰囲気の彼女の表情を見ていると、私もほんわかした気持ちになります。


「やみちゃん、期間限定探しとかしてみない?」

「期間限定探し……それは、ハンバーガー以外もですか?」

「うんうん、コスメを探すのもいいし、食べ物屋でもいいよ。イベントとかでも、色々見て回ろうよ」

「で、でも……暗い私と一緒にいると、大変ですよ……?」

「そんなことはないよ」


 ひかりさんが首を横に振って、言葉を繋げます。


「だって、やみちゃんとあたしはもう友達なんだからっ」


 優しくて、暖かい言葉を……


「と、友達? 友達でいいんですか……?」

「そう、友達。一緒に食事だってしてるし、仲良しになれるよっ」

「あ、ありがとうございます……! よろしくお願いします……!」

「硬くならなくていいって、ほら、握手」


 手を差し伸べてくれるひかりさんにそっと私も手を掴みます。

 ハンバーガー屋さんで新しい友達が増える。それはとっても嬉しいです。

 好きなものがいっぱいなのですから。


「わ、私、ひかりさんと一緒に美味しいハンバーガーが食べたいですっ!」

「やみちゃん、本当にハンバーガー好きだね?」

「う、うぅ……と、とにかく、一緒に色んなところに行くの、楽しみですっ」

「あたしも同じ。……あっ、やみちゃん。私のことは呼び捨てでも大丈夫だよ?」

「わかりました」


 そっと緊張しながら、言葉にします。


「よ、よろしくね、ひかり……っ」


 ちょっぴりだけ私らしくない言葉。

 それを言葉にしたとき少し緊張して、でも前向きになれた気がしました。


「よろしくね、やみちゃんっ」

「う、うぅ……ちゃんは恥ずかしいかもです」

「可愛いんだもん、やみちゃんって」

「わ、私もひかりのことをひかりちゃんって言いますよっ」

「いいね、試してみて?」

「うぅぅ……」


 ハンバーガー屋さんで談笑する時間。

 期間限定のハンバーガーを求めていた私に新しいきっかけができたことは幸せだと思いました。

 これからも、いっぱい幸せな時間が訪れますように。

 明るい時間を作ってくれた期間限定のハンバーガーに、そして私に話しかけてくれたひかりにいっぱい感謝しながら、私たちは食事をしていきました。

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