エピローグ
2年後。
街は文明の姿をすっかり取り戻している。
大きく変わったのは街を歩く異形の存在が「当たり前」になったことだった。
私たちは川縁の広場で、見よう見まねのビーチバレーというものをしている。
「あら、秋葉ちゃん。今日はオフなの?」
私は「彼」の姿をみかけて思わず声をかけた。
外交官、近江秋葉。私たちがこの国に定住するきっかけをくれた人の一人。
「一緒に遊んでく?」
「楽しそうだけど、今日は遠慮しておきます」
断られてしまった。
その時、気合とともにアタックを仕掛けたアグニのボールが、炎に包まれものすごい勢いで緑地にクレーターを作ってしまった。
……そうね、これは無理ね。
なんとなく振り返ってみると、また誘ってください、と彼はいつもの通りのやんわりとした感じで応えて去っていった。
どっごーん。
見送っているとまた破壊音がした。
平和で穏やかな日々。
人と神魔が、それもそれぞれの圏外でこんなふうに暮らす日が来るなんて思いもしなかった。
この国の「外」ではまだ交戦が続いている。
けれど、この国が平和であることが、その戦線を維持するために必要不可欠だということは、もうこの国に訪れる誰もが知っていた。
神魔はこの国を守る。
この国の民は神魔の存続を、我知らずに守り続ける。
それは確かに懐かしい共存のかたち。
穏やかに続く日常が、幸いであることを願って。