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3.外交官の訪問

 はじめての外交対応。と言ってもお互いに初対面なので挨拶をしてお茶をして。わからないこともわからないので、雑談を少しして終わった。

 彼は書記官として同じ年くらいの短い黒髪の女性を連れていたけれど、彼女の方は時々何か言いたそうな顔をしては口をつぐんでいた。

 ぎこちない時間だったと思う。


 彼らが出て行ってすぐに、私も部屋を出る。

 異郷の地でなんだか疲れてしまって庭で風にあたろうと階段を降りかけ……


「見学させてほしかった」

「第一回目でそれはないだろ。また指名するからもうちょっと慣れてからにしてくれよ」

「誰が?」

「オレが」


 そんな会話を耳にする。エントランスを歩く二人の声が聞こえていた。


「オレもまだ全然慣れないんだよ。神魔のヒトと間持てって言われてもさ、いきなり放り込まれたわけだろ?」

「強制連行」

「わかってるならちょっと待って。オレの方がいっぱいいっぱいなの。お前の好奇心を満たしてる場合じゃないの」

「建物の中に水路が走ってるのってどうなってるのかな。すごくきれいな水。さすが水の女神さまの館だよね!」

「そうやってお前が足をつぶさに止めるから、出口まで辿りかないんだ」


 さきほどまでのぎこちなさとは違った光景がそこにはあり。

 彼女は私が作り出した館に、興味津々といったようだった。少し通路を離れて水路を覗くさまがなんだか子供みたいでちょっと微笑ましい。


「出口までにあるものだったら見せてもらってもいいでしょう? 初めて来る場所だし気になるんだよ」

「個人的にアパーム様に頼んだら?」

「さっき秋葉が慣れるまで待ってって言わなかった?」

「オレはまだ無理だから一人で」

「でもアパーム様、まだ来日したばっかりですごく緊張してたみたいだよ。それどころではないのでは」

「まぁ。オレも緊張したけど知らない国にいきなり来るとか、ふつうに疲れそうだよな」


 驚いた。よく見ている。

 人の子に、それも異郷で初めて会った人に心配されるなんて思っていなかったから。

 アグニはいるけれど、毎日がなんとなく孤独で、不安の方が大きいのも事実だった。

 それを今、気づかされた気分だった。


「思うに、秋葉が緊張するからアパーム様も緊張するのでは」

「しない方がおかしいの。オレにも猶予くれ」

「でも秋葉の方がホームにいるんだから、そこは譲ってもいいと思う」

「緊張を譲るって何。意味が分からないんだけど」


 そう言いながらふたりは元の通路に戻ってそのまま正面の扉を抜けていった。


「……」


 私は、それをただ見送る。



  *  *  *



 それから数日が過ぎた。荒廃と復興の分かれ目がパズルのように合わさった不自然さが違和感で、敷地の外に出る必要もなくそのまま私は館にとどまった。

 アグニは時々外に出ているようで、外の話をしてくれる。


「この国では都市部のエネルギーラインが壊れているようだ。人間の言う最低限のライフラインとやらは無事だったようだが、電力に依存しすぎていてそこは後退しているのだと」

「私たちの力は自然由来だから……この国は発展しすぎていて、できることもないのね」

「そうでもない」


 その日、アグニはそうはっきりと言い切った。


「エネルギーを生み出すのもまたエネルギーなのだ。発電をするのに彼らは自然のあらゆるものを用いている。私の力は『火力発電』として提供することが出来る」

「……」


 私と違って男神であるアグニは力強い。この国では力を持て余してしまうきらいもあったので「やることをみつけた」彼はどこか瞳に力を灯して見えた。

 それから、アグニは出かける日が増えた。



 そしてまた数日後。

 同じ外交官がやって来た。


「アパーム様、元気ですか」

「え、えぇ。変わりはありません」


 今日は開口一番、そう聞いてきたのは連れの彼女の方だった。


「すみません、今日は特別な用件はないんです。様子を伺いに来ただけで。……忍、自重」

「アパーム様のいた国の人って、アパーム様にはどれくらいの敬語使ってました? ……不遜でしょうか」

「そんなことは……」


 気にかけたこともなかった。礼節に厳しい神もいるけれど、私たちがはるか昔に人と交流を持っていた頃……こどもたちはもっと気さくに話しかけてきたし、敬意なんて言葉の丁寧さより先にわかるものだから、気にする必要もなかった。

 私たちには、それがわかるのだから。


 私からすれば人は大人も子供もみんな等しく「こども」のようなものだった。


「事前の連絡ではアパーム様の方からは特に何もないとのことだったので……時間は2時間近くあるのですが、何かご希望はありますか」

「希望、と言われても」


 特になかった。そもそも私たち、というか「私」は自分からあれこれ求めるタイプではない。与えるのが役割であって、人に何かを叶えてもらうことは求めてはいない。


「ないようなら、外に出ませんか」


 忍、と名乗ったろうか。彼女が提案してきた。

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