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2.邂逅

 「避難」「養生」「大使」。


 いくつかの選択肢はあったけれど、そんな選択を迫られるとは思っていなかった。

 何をしに来たのか、以前にこの国がどういう国なのかもわからないのだから、まずはそれを知ってからでなければ何も選べない。


 他の神域のヒトたちははじめから目的があってこの国に来たのだろうか?


 戸惑うばかりだけれど、いずれ疲れているだろうと橋渡しらしい清明と名乗った彼はまず、休むための場をくれた。


そこには会ったこともない異教の神魔たちがいた。


「ん? あんたはアパーム・ナパート……インド神か?」


 びくり。

 「信仰なき国」でかけられた見知らぬその声に思わず肩が強張る。あとで思えば相当に私は気を張っていたらしい。

 清明とは話していて大分落ち着いた気もしたけれど、その部屋を一歩出ればまた異郷でしかない。


 振り返るとそこには黒髪の……


「あなたは……魔界の方?」

「わかるのか」


 金色の瞳に、人間より少し鋭角を描く耳。瞳孔の中に猫の目のような細い月がある。

 どうしてか、と言われると困るのだけれど神域に住まう気配には感じられず思わずそう応えるとそのヒトは一瞬間を置いて口元に笑みを浮かべた。

 晴明の優しい笑みとは違う薄い笑み。


「我々は天使の冠する神とは違う。邪悪だとは言えないが、雰囲気が我々神とも違うのはわかる」


 アグニが私の少し前に出るようにして言った。アグニにとっても知らないヒトなので、少し警戒している。


「そう。オレはダンタリオン。人間と神魔の協定を結ぶ橋渡しになった……まぁ悪魔側の大使だな」

「大使……」

「あんたはアグニ神だろう? 本国が大変なことになっているのに戦神がこんなところに来てていいのか?」


 あちらはこちらのことを知っているのか、痛いところを突いてくる。

 けれどそのヒトはそれ以上追及はしてこずに、ひらひらと手を振った。


「まぁいいか。この国に来る輩は元々バカンス目的も多かったしな」

「バカンス!?」


 私と真面目なアグニは声をそろえて思わず返してしまう。

 各地からこの国に「保養」に来る神魔が多かったことは聞いていたが私たちの圏内からは誰も来ていない。だからこの国のことは誰もわからない。

 バカンスという言葉を使われると今現在の窮状がウソのような軽さに聞こえるのも無理はなかった。


「今はちょっとなー。でも復旧も急ピッチで進んでるし、天使の締め出しももうすぐ出来るから、そういう時がまた来るとは思う」

「……まさか」

「もともと最後の楽園をみんなで守りましょう的な集まりだったし」

「最後の楽園」


 それが不思議でならない。

 信仰をもたない人々が、心穏やかにいられるなんて言うことがあるのだろうか。

 けれど実際来てしまうと「来るもの拒まず去るもの追わず」であることはもうわかったので、複雑で理解の進まないまま私はここにいる。


「ダンタリオン様」


 何もわかっていない私。だから、わかるためにはそれを知っているヒトから聞くのが一番だ。

 意を決した私は、我知らずに胸の前で両手を強く、組んでいた。


「大使、とは何をなさるのですか? この国は今、どうなっているのか……教えてください」


 そう言うと、彼もまた笑った。

 相変わらずうっすらと、優しくはない、けれどどこか面白そうな表情かおだった。



 *  *  *



 結果。

 私たちは「大使」になることを選んだ。

 ブラフマー様は力を送ってほしいと言っていたし、私たちもただここに避難に来たつもりはない。その折り合う場所が「この国に住まう」という判断で「この国とあちらを繋ぐ」ことでもあった。


 でも。



「相変わらず、この国の人のことはわからないわ」

「まだ数日なのだから、それは仕方がない。ここでは我らの方が異邦神なのだからな」


 街は悪魔のヒトたちが復旧させている。彼らは科学だとか技術と相性がいいようだった。

 いくつかの大きな建物があった場所を、自分たちの住みやすいようにしていいというので私たちは「都心」と呼ばれる中央から少し離れた湾岸に居を構えた。


「お二人の元へは神魔と人間を結ぶための外交官が訪問します。何か必要なことがあったらその者を通じてなんなりと言ってください」


 清明にはそう伝えられて、それからさらに数日……


 文明の進んだ街に出る気にはならずに、私が外へ出るより先にその外交官がやって来た。


「アパーム・ナパート様とアグニ様ですね? はじめまして。外交官の近江秋葉おうみあきばです」


 まだ若い、人間の男性。白とブルーを基調とした制服にまだ慣れないような彼は、やはりどこか不慣れな笑顔で私の前に現れた。

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