第二話 妹襲来
緑埜家の雷太の部屋には、窓から日の光が差し込んでいた。
ちゃぶ台を囲んで、周りには雷太本人と、あぐらをかいてくつろぐシンセラティ。そしてなぜかクーラが正座して雷太を睨んでいる。
ケーキをがつがつ食べながら、雷太はシンセラティの肩をつんつん突く。
「お前、本当に誠なのかよ?」
突かれても特に気にせず、照れくさそうに苦笑いしながら頬を掻いた。
「まあ、一応は……」
ついにクーラはちゃぶ台に身を乗り出して、半泣きで辺りを揺らす。
「ちょっと、無視しないでよ!」
容赦なく胸を鷲づかみする雷太。クーラは気にせず、そのままの姿勢でいる。
「うるさい黙れ。んなことよりよ、何があったのか教えて欲しい」
「話せない。そう、えーっと、プログラム? をアイツにされてるみたい」
「アイツ?」
「わたしが生きてる内に復習するべき人間、なのかも」
やっと掴んでた胸から手を離し、考え込むように腕を組む。
「分かった。詳しくは聞かないことにする。だがよ、これだけは聞かせてくれ。何でこあはお前だと分かったんだ?」
シンセラティは明後日の方向に視線を向けながら、ケーキを頬張る。
「さあ、来た時には赤毛のお姉さんと一緒にいたよ?」
ケーキを食べ終えたクーラは真剣な表情でフォークを皿に置く。
「赤毛って最上級の魔女の証よ?」
再び胸を掴もうとしたが、シンセラティに睨まれて、腕をわなわなさせながら身を引いた。
「この辺だと有名なのは『猩々緋』の一族。警察の人間を多く出してる家系だわ」
やっぱりこらえきれなくてクーラの胸を掴む。
「それぐらい知っている。この俺が浮かべてないとでも思っていたのか」
クーラは得意そうに腰に手を当てて、決めたような顔つきで鼻をならす。
雷太はそのままの姿勢で胸の持ち主を見た。
「噂はここから。わたしの故郷の噂ではお嬢さんが『謎解かない魔法』の力を手に入れたんじゃないかって」
シンセラティが雷太の手をフォークで刺し、小声でやめなさいと突っ込みをいれつつ、クーラに問う。
雷太は手を押さえながら床を転げまわる。
「謎解かない魔法、とは?」
「何でも謎が解ける魔法で、謎が謎にならないから謎解かない魔法。ただし、持ち主が強いメンタルを持ってないと、何でも頭の中に情報が入ってきて酔っちゃうね」
「ぎゃああああああお前相変わらず痛いことするなああああああ。とりあえず包帯巻いてくるうおおおお!」
一瞬にして自分の部屋から退散。雷太の部屋にクーラとシンセラティが残される。
静けさだけが残され、半分残ったケーキをクーラに分ける。嬉しそうに食べ、あっという間にケーキは無くなった。
やっと暴れん坊の雷太が戻ってきた。その表情には明らかに焦りの模様が浮かぶ。
「お前ら、逃げるぞ」
「逃げるって何からよ」
「もたもたするな! 誠、俺達を連れてどっか飛んでくれ。できるだけ遠い所へ!」
「えっとえっと、いきなり言われても……準備するね」
そう言って魔力を溜めだした。
ゆっくりと雷太の部屋の扉が開く。そこには、片手に愛用の銃を持ったこあの姿があった。
「依頼人により葬りに来ました。お兄さんと、シンセラティと、クーラ ミタマ」
「早くしろ! 誠!」
「もうちょっと!」
「では皆様、サヨナラ」
雷太が包帯巻いた左手でストップのポーズを取る。
「……どういうつもり、ですか?」
「俺には秘策がある。しかも、こあの背後にあるぞ」
「その手には引っかかりません。お兄さんなら分かるはずです」
「じゃあ、本当に秘策があるとしたら?」
こあの視線が一瞬背後の方に向く。その一瞬を使って、雷太はちゃぶ台をこあへひっくり返し、視界を防いだ。丁度シンセラティの魔力も溜まり、雷太とクーラを連れて物凄いスピードで窓から飛び去った。
その頃には空は曇天を化していた。
こあはため息をついて。
「逃げれないと分かってるのに」
それだけ言ってゆっくりと緑埜家の一軒家を出た。