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「きょーつけーれー」
今日の最後の授業が終わった。
授業が終わる1分前ぐらいからコソコソと荷物を纏めていた1部の運動部の男子どもは、鞄片手に部室の方に走り去っていく。運動部の男子以外にも荷物を纏めていたやつは、バイトに遅れると言いながら正門の方へ。
他にも他クラスの友達の元に行くやつや、リア充は相手を迎えに他クラスへ。各教室の出入り口の扉の近くには、生徒が人を待つ状態が出来上がる。このクラスも他クラスとさして変わりなし。
「さて、刈谷さんや」
「どうした、集さんや」
「クラスのアイドル花宮の姉御だが」
「届いてたんだろ」
「そうだな。で、どうする」
クラスのアイドルこと、花宮玲奈は俺たちの幼馴染みだ。家が近くって訳ではなく、小学校から何故だか一緒にいる感じのだが。その花宮からの欠席の連絡は今日一日なかった。
集が姉御って言うのも、昔はやんちゃだったし、中学卒業ぐらいまですごい姉御肌だった。高校に入ってからの花宮は別人だ。中学の同級生や、同じ中学のやつなんかは双子の妹かって疑っていた。
「どうするって言われても。というか、知ってて朝も呼ばれた時も黙ってたんかよ」
「花宮から自体を大きくするなって言われてるんでね」
こいつはこういってるが、担任は察してるだろな。
おそらく朝、知ってる奴いるかって聞いた時点で予想はついたと考えていいだろう。
『沈黙は肯定だ』なんて言葉があるが、休むなら連絡を入れるような花宮が連絡無しに休むことと、こいつが黙ってたってことは、何かあったと考えれる。で、こいつなら知ってるだろうから、呼び出したが何も言わないってことは隠しておきたいことか、花宮が大事にしたくないかのどっちかだ。だから担任はなんとなく察してるんじゃないかっていう予想だ。
「で、行方不明の被害者は全員帰ってきてんだろ、なら大丈夫だろ」
「いや、今回の怪事件に関しては相性最悪だ。なぜな」
「待て、怪事件なのかよ」
「そうだろ、相変わらずの巻き込まれ体質だよ。まぁ、今回は別の要因もあるだろうけど」
「てことは」
「そ。多分だが、花宮からだろな、お前のは」
「で、朝、放課後までは大丈夫って言った理由はなんだよ」
「勘だが?」
「殺すか」
「待て待て、これまで、一件足りたも、人に見られてる時には起こってねぇんだよ」
「わぁったよ。で、相性が最悪って言った理由はなんだよ」
「花宮は優しいから」
「......は?」
「そうだな、怪事件の説明からしよう。今回の怪事件はかくれんぼに近い」
「かくれんぼって、あの、鬼に見つからないように隠れるあのかくれんぼ?」
「そうそれ。地域によっちゃあ、見つかっても鬼に触れられなかったらセーフ、なんてルールもあるかくれんぼ」
「そのルール説明はいらないだろ」
「いや、このルールが元になって、行われてるかくれんぼだから覚えとけ」
「そ、そうかよ。で、そっから優しいからって理由に繋がんだよ」
「その理由になる説明するから、まず帰還者から聞いた話をメモったこれを読め」
『1人になると出現せし。返事しようもんなら、へんちくりんなとこに連れてかれるさ。鬼は俺たちで逃げるのも私たち。体のないないとこ、持ってる人捕まえんよ。みつかっちゃダメなの。バックからタッチしてぴゅーんっと、スタコラサッサよ』
「おい、なんだこれ、ふざけてんのか」
「録音してそのままメモったから、正真正銘の原文だ」
「それがほんとなら、頻繁に入れ替わる多重人格だな」
「交換部位10箇所、滞在期間2週間の留学1ヶ月の外国人にインタビューした結果がそれ」
「それって、まさか」
「そ、長い間向こうにいて、何回も取って取られてすれば色んな人との人格のシェアハウスって訳」
「じゃあ、花宮、まずいじゃねぇか。帰ってくる方法は」
「その帰ってくる方法が最悪なんだよ。失った体の部位を手に入れることが帰ってくる方法らしい」
「らしいって、待て、帰還者の言葉なら、最初にどっか取られるんだろ、花宮が人から体を取れるなんて思えねぇぞ」
「それだよ、最悪って言ってる理由。絶対に無理だろ、だからどうするって聞いたんだよ」
「見捨てるか飛び込むかの2択って訳かよ。で、1人になって返事すりやいいのかよ」
なんとなくだが、選択肢の予想はついてた。
集が仮に脱出方法を知ってて、巻き込まれる条件も知ってたら、花宮は巻き込まれていないだろう。
その上で、俺に条件とかを諸々伝えてきたら何をどうするの何は必然とみえてくる。
「そうすりゃ、1番いらないとこを聞かれて、答えたらそこを持ってかれる。答えなかったら、適当に取られる」
「おーけー、わかった。で、どうすんだよ。花宮のことだ、俺から取らねぇだろ。というか、人から体を取らないから帰れねぇって話だろ」
「花宮には、『集が解決する方法を見つけた。こっちと向こうで互いにやる事があるから、花宮は集からやる事を聞いてくれ』って伝えてくれ。で、お前の部位を渡す」
「え、そんな方法があるのか?」
「今は知らないし、おそらく無い。さらには脱出の方法も昨日知ったぐらいだ」
「とりあえず帰らせろって事か」
「3箇所以内で3日以内で帰ってこれば影響はない」
「プレミは1度までで、タイムリミットは3日ね。それじゃ、帰って準備するか」
殆どの人がいなくなった教室から出ると、扉の横に立っていた担任と目が合う。
「せんせー、ということで、刈谷君は明日から3日間お休みします」
「今日が月曜だから、火水木と休んで、1人だけ3連休とはいい度胸してんな」
「えっ、いや、話聞いてましたよね。すっごい盗み聞きしてましたよね」
「盗み聞きとは人聞きが悪いな。教室内の会話は誰が聞いてもおかしくないだろ」
「いや、教室入ってきたならわかるけど、扉の横で聞き耳立ててただろ」
「そこの情報屋が放課後、扉の横に立ってるとおもろい話が聞けるって言ってたから立ってただけだが」
「おいこら、集」
「で、せんせー、刈谷君の3日間のサボ.....欠席どうします」
「今、サボりって言いかけただろ」
「真面目な話、明日1日だけ適当な理由付けて公欠にしてやるが、2日目以降は普通に欠席にする」
「わぉ、タイムリミットが3日から1日に減った」
「4日目以降は停学な」
「わぉ、急に3日目が超えれなくなった」
「じゃ、きーつけて帰れよー」
「えぇぇ、最悪教え子との今生の別れかも知れないのに、軽くない」
「そんな最悪な事になったら、力尽くでも学校に連れてきてやる」
「せ、せんせ」
「そうした方が給料上がるかもしれん」
「せ、せんせ」
同じ言葉でも、こんなテンションが違うことあんだな。凄い一瞬だけ尊敬したのに。ほんと、この先生はブレないことで。
適当に話を切り上げ、帰路に着く。家まで電車で10分ほどだから、交通費を浮かす為に徒歩帰宅。
道中細い通路を見つける。空き缶が落ちていたり、やらよく分からん苔みたいな植物が壁についていたりして、綺麗とは言い難い。また、街灯の光も家の影になっていてあまり届いておらず薄暗い。
「集、ここにするか。囚われのお姫様を取り戻す場所」
「人は来ないだろうし、普段なら絶対見ないな。お姫様が帰ってくるにはちょっと汚いが」
「そこはまぁ、帰ってきたバフで脳内補正してもらうとしよう」
「そうだな。で、近くにコンビニあるけど」
「色々と買ってくるけど、集は」
「唐揚げと飲みもん」
「なら、一緒に行くか。で、自分で買ってこい」
小さめのコンビニに入ると空調が効いていて涼しい。外が暑かったから余計に涼しく感じたのだろう。店員が1人で客が2人。制服が同じだから同じ高校のやつだろう。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
集がコンビニに入るとすぐさまトイレへと行った。
安心していた。小さいコンビニで客もいるし、店員だっているから大丈夫だと。コンビニの奥、ドリンクコーナーに行った時だった。
『ドコイラナイ』
体が動かなくなり、涼しさを感じていた肌は暑さ寒さを感じない。聞こえていた音は、繰り返される甲高い悲鳴のような早口の言葉以外聞こえない。
『ドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイドコイラナイ』
「左手小指、く、ぇぇ、、ぅ」
呼吸が出来ていなかったのか、言葉の最後が掠れる。
体が透けていく。足元から徐々に周りの風景に溶け込むかように、透明になっていく。横腹辺りまで消えた時腕が動く事に気がつく。声は出ないし、呼吸もあまり出来てないようで少し息苦しい。
動く腕で近くにある棚の商品を落とし、首元に取り付けられている校章のバッジを無理矢理引きちぎって落とす。
口から鼻へと徐々に上がってくる。目が半分程消えた時、一瞬トイレから出てきた集が商品で荒れた床に目がいく姿を捉える。多分バッジには気づくだろう。
そして視界が真っ暗になる。