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体取りかくれんぼ  作者: 名無しシャン
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1部

 

「へんじしないで」


 乱暴な文字で書かれ、握りしめられたのかぐしゃぐしゃになったメモが教室の俺の机の中に入っていた。


 朝、一番乗りで教室に入った俺は教室に違和感を覚える。見回して見るが、特に変わったところはない。窓が割れている訳でも、黒板に落書きがされている訳でもない。机が少し乱雑になっているが、違和感の正体ではないと思う。

 自分の席で違和感について考えていると続々と教室に人が入ってくる。チラチラと出入り口を見ているが皆、変わった様子はない。

 気のせいだと思い席を立とうと椅子を下げた時机の中に何かがあることに気づく。

 メモに書かれた字は汚いというより、乱暴で筆跡では誰が書いたか分からない。

 内容も意味が分からない。イタズラだとしても何に対しての返事をしてはいけないのかが分からない。ほぼ怪文書のようなものだ。


「よぉ、朝から平凡な顔してどうした」

「平凡な顔は生まれつきだし、平凡でいいんだよ。エロゲの友人ポジさんよ」

「俺が友人ポジだとしても、お前は絶対主人公じゃないから安心しろ。で、そんな(ラブレター)握ってどうしたよ」

「お前が思ってるような(ラブレター)じゃねぇよ」

(ラブレター)じゃないなら、なんでにらめっこしてんだよ」


 こいつ、怪友 集(あやとも しゅう)と俺は親同士の付き合いがあり家も近い。所謂、幼馴染みだ。

 昔はそうではなかったが、高校に入ってから友人ポジションの名に相応しいほどの情報を持つようになった。

 付き合っていることを名言していないリア充も把握してるらしいし、恋バナ特有の誰々の好きな人、なんてのも聞けば2日以内に教えてくれるらしいし、先生から生徒の素行調査を頼まれてるなんて噂もある。

 恋愛関係でこいつを活用したことはないから人から聞いた話でしかないし、先生から呼ばれてるところを見たこともない。


 こいつは中学まではコミュ力の高い一般人だったのだが、高校生になってから情報を集めるようになったのは理由がある。

 集には中学生になった妹がいる。その集の妹は不可思議な事件に巻き込まれて、最近まで総合病院に入院していた。

 今はもう退院して近所の中学に通ってるが、不可思議な事件については一部以外一切話そうとせず、自分だけで抱えようとしている。こいつは妹が隠してる不可思議な事件を情報から調べようとしてる。

 高校に入って2年目だが、こいつに連れられ様々なところや様々な事象の調査をさせられたら。大半がネット上の嘘や、噂が1人歩きしたようなものだった。

 だが極稀に本当のものがあった。言ったところで信じてもらえないような事も体験した。鏡の中を渡り歩く怪物や、鋭角から現れる獣、事故物件の幽霊とかだ。

表と裏、二つの世界があり、否定され続けられた存在は本当は存在している。それを理解するには十分すぎた。


「怪文書なんだよ」


 こいつにこの紙の中身のことを言うか迷った。確かに、こいつに紙を見せれば直ぐにとはいかないだろうが、書いた人物までわかるだろう。訳分からんイタズラならだが。

 だが、この2年でオカルトな出来事を体験してきた俺からすると、これもまた、と考えてしまう。


「...ほぅ、見せてみろよ」


 何か良いことでもあったのかと思うような、楽しそうというよりも、アホっぽい男子高校生の笑顔が一瞬にして貼り付けられた笑顔のように変わる。

 表情に変わりはないが、目の奥に鋭さが宿る。


「...俺を巻き込むなよ」

「まだ決まったわけじゃないだろ。ただのイタズラかもしれないじゃん」

「集、お前のその顔は、何か思い当たる節がある時の顔だ」

「さっすが、俺とあーんなことや、こーんなことを体験した恋人(れんと)。わかってるなぁ」

「名前で呼ぶな、はっずかしい」

「別に良いじゃん、音だけならレントって名前いるんだし」

「音だけならな。テストの度に毎回、恋人って書かなきゃいけない奴の気持ちがわかんのかよ」

「わかんないかなぁ」


 読み方の分からん無理矢理当てたようなキラキラネームの方がまだマシだ。

 年がら年中見てるこっちが恥ずかしくなりそうな程、イチャつく親が、かなり真面目に考えてたらしいが、中々決まらす、2人の名前から1文字づつ取ってつけたらしい。

 真面目に考えても決まらんからって酒飲んで酔いが回った頃に決めたってことは絶対許さんが。


「で、だ。刈谷(かりや)の言う通り、先月から行方不明者が多数出てる。ただ、殆どが1週間から2週間程で帰ってきてる」

「家出とかの捜索願いなら、日本全国探せば月に数十件は出てるだろ、多分」

「この前で150を超えたらしい。あまりにも数が多すぎて共通点は見つかってないって言われてる」

「共通点の1つぐらいあるだろ」

「まぁ、行方不明になった人同士の数人なら友人であったり、交際中だったりと関係はあるが、別の行方不明者で北の方に住んでる婆さんがいるが、共通点も関係もない」


 確かに都会の学生と遠い親戚でもない田舎の老人に関係はないし、共通点も無さそうだ。


「だが、隠してるのか、なんなの知らんが、世に公開されてない共通の情報がある」

「ほんと、よく見つけてくるよなそういうの」

「行方不明者の親族とか友人達がやりとりする掲示板みたいなのがあんだよ。作られても何故か消されるらしいが」

「怪しいな。で、その共通点は?」

「メモが置かれてるんだと」

「...俺、終わったわ」

「待て待て、お前のだけは例外だ」

「あ、俺が例外?」

「全員の持つメモには、折れ目も皺もない綺麗なメモ用紙で、丁寧な字で『返事をしろ』って書かれてんだと。お前のとは逆なんだよ、全部が」


 こいつの話がこれからだ、というタイミングでチャイムが鳴る。


「とりあえず、続きは放課後だな。昼は後輩から相談があるって呼び出されてるから」

「そうか、幼馴染みがピンチかもって時に、後輩の方に行くのか」

「そりゃそうだろが、最低でも放課後までは大丈夫だろうし、それ以上に妹の先輩らしいからな」

「シスコン」

「シスコンですが、何か」

「情報屋と仲介役の2人、うるせぇしはよ席に着け、1年間欠席扱いにして留年さすぞ」


 ブチ切れティーチャー(担任の先生)の声がする。


「仲介役って他に言い方あるでしょうが。それと横暴すぎるだろが」

「んなもん知るか、とりあえず席付け」

「集もなんとか言え...いねぇし」


 あいつ、ちゃっかり自分の席に退散してやがる。


「出席とるぞ。空いてる席は...花宮のとこか。珍しいな、あいつが連絡なしって。誰か聞いてる奴いるか」


 誰からも声が上がらず、殆ど奴が周りの奴に聞いてる。

 花宮は所謂クラスのアイドルだ。なんでも器用にこなすし、容姿も端麗で片思いの男子が多い。性格は人当たりもよく、交友関係も広い。男女問わず好かれてる。

 俺はチラッと集の方を見ると、目が合い、集が頷く。

 どうやら花宮にメモが届いていたらしい。


「誰も聞いてないか、おかしなこともあるな。とりあえず、後で家に電話するか。で、シスコンの情報屋、面倒くさいから事務連絡後ろの黒板に書いといて」

「ちょ、先生、なんで俺が」

「再来週の期末テストのスケジュール押さえたんだろ。先生内でも把握してないやついるのに」

「いや、それとこれとは」

「あ、あと、1時間目終わったらわたしんとこにこい」

「マジで話し聞かねえなぁ」

「じゃ、ほーむるーむしゅーりょー。お前ら騒ぎ起こすなよ。じゃ、1時間目の用意しろ」


 彼氏に求める条件が、自分より強くて気がきくやつとかいう、もはや男みたいな担任は扉を足で開けながら出て行った。見た目は良いのに、ガサツ過ぎて最近も振られたらしいし。

急に扉が開き、出てった筈の担任が顔を出す。


「仲介役のお前、シスコン情報屋と一緒にこい」


顔は笑ってなかったけど。


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