#9 これが映画だ!
【ジャスティス・ギルド4】制作会社を買収する…
俺の発言の真意が、ルナたちにはわからないようだった。
「映画を撮影するって、どういうこと?」
「“撮影”という言い方は正確じゃなかったかもな。厳密には“再撮影と編集”だ」
俺の補足を聞いても、ルナはまだ首をかしげている。
俺は、逆に質問した。
「今のジャスティス・ギルドの資金源は、なんだと思う?」
「ヒーロー活動の報酬…じゃないわね。真面目に活動してたのは、カイトぐらいだったんでしょ?」
「そうだ。今のあいつらの資金源は、自分たちの活躍を描いたコミックや映画、グッズの売り上げだ。あいつらは、新作【ジャスティス・ギルド4】の興行収入をあてにしている」
世界最強のヒーローチームにいきなり正面から挑むほど、俺は無謀じゃない。
俺には、“作戦”があった。
「映画が売れなければ、困るのはあいつらだ。だから公開前に大幅に再撮影、編集して…徹底的に“改悪”する」
【ジャスティス・ギルド4】は、今までのシリーズの集大成的な作品だ。
宇宙の独裁者【デスサイズ】との決戦が描かれる予定で、ファンにとっても期待値が高い。
「それを編集で、徹底的に暗い作風にするんだ。ヒーロー同士が延々と殴り合うシーンを追加撮影して、陰湿なストーリーに仕上げる。ヒーローが協力して宇宙の敵に立ち向かう話から、単なる内輪もめの話に変えるんだ」
「お言葉ですがカイト様、会社の役員たちが反対するのでは?」
イブが指摘したが、もっともだ。
役員たちは、大きな利益が見込める【ジャスティス・ギルドシリーズ】制作会社の買収自体には賛成かもしれないが、映画の編集には反対するだろう。そんなものを公開しても、おそらく“大ゴケ”するからだ。
だが…
「問題ない。そこで大きな損失を出しても、他の部門でいくらでも補填できる。それを証明するデータの作成はできるな?頼りにしてるぞ、イブ」
「…かしこまりました。役員たちの説得は私にお任せください」
イブの表情が輝く。頼りにしているという言葉で、やる気に火が付いたようだ。
優秀なアシスタントで助かる。
そんな俺たちの横で、ルナが一人ぼやいた。
「…私は楽しみにしてたんだけどなぁ、新作…」
◇◇◇◇◇
クライ産業が【ジャスティス・ギルド】映画シリーズ制作会社を買収し、作品の“方針転換”を発表してから数日後…
案の定、世間の評判は最悪だ。
「先日公開した編集後の予告編は、動画サイトで低評価が高評価を大幅に上回っています。コメントを抜粋します…『暗い』『画面が暗すぎる』『なんでヒーロー同士が戦ってるの?』『っていうかヒーロー同士が戦ってることすら画面が暗くてよくわからない』『宇宙規模の敵を前に仲間割れするな』…」
冷静に報告するのは、イブだ。
「SNS上では、『#ジャスティス・ギルド4オリジナル版を公開しろ』のハッシュタグが作られ、署名活動も行われています。監督は『制作会社が買収されたあと、突然再撮影と編集の指示を受けた。完全に親会社の意向だ』と主張、公開前からケチがついた形ですね。総じて、“炎上”状態だと言えるでしょう」
「まぁ、私も純粋なファンだったらブチギレるわよ。ずっと楽しみにしてた新作が、買収騒ぎのゴタゴタでこんなことになるなんて…」
スマホをいじりながら、ルナがつぶやく。
オリジナル版を見てみるかと提案したが、『他のファンに対して申し訳ないから』と断った彼女の表情は、悲哀に満ちていた。
「SNSや市場のデータを分析する限り、【ジャスティス・ギルド4】の興行収入は過去最低となりそうです。関連商品の売り上げも低下し、ジャスティス・ギルドが得られる収益は、先月の1/10以下に落ち込むでしょう。なお、クライ産業は保有するジャスティス・ギルド関連商品会社の株をすでに売却したので、実質的な損失は発生しません」
やっぱりな…金の亡者であるあいつらが、頭を抱えている光景が目に浮かぶ。
イブの報告は、俺には全て予想どおりだった。
映画やグッズの売り上げに依存してきたジャスティス・ギルドだが、新作が大ゴケし、収入が減るとなると、真面目にヒーロー活動を再開するしかなくなる。
しかし、ここ最近、俺だけに仕事を押し付けてきたあいつらのことだ。まともに人助けができるとは思えない。
活動していくうちに、どんどんボロが出てくるはずだ。
「…そうすれば、世間はだんだんとあいつらの本性に気付き出す」
「なるほど、そこまで見据えてたのね」ルナがうなずいている。
だが、これを“復讐”と呼ぶにはぬるすぎることは、俺自身が一番よくわかっている。
「もちろん、これで終わりじゃない。今回は、グッズ化や映画化されることで天狗になり、ヒーロー本来の使命を忘れていたジャスティス・ギルドの鼻をへし折ってやっただけだ。あいつらとの直接対決は…避けられない」
「…やっぱり、無理があるんじゃないかな」ルナは不安そうだ。
ヒーローオタクとして、あいつらの活躍や強さをよく知っているからこそだろう。
だが、安直に『カイトなら絶対勝てるよ!』などと言ってこない方が、相棒としてはありがたい。
「スーツはあるけど、こっちは生身の人間2人組でしょ」
「それと、AIのメイド1人です。忘れないでください」
イブがホログラムの顔を不満げに膨らませ、すかさず口をはさむ。
相変わらず感情表現豊かなAIだ。
「…とにかく、スーパーパワーがない3人組でどう戦うの?」
「俺たち3人だけで戦うとは、一言も言ってないだろ」
「…えっ?」
俺の言葉が意外だったようだ、ルナが目を丸くした。
「これは、ジャスティス・ギルドとの“戦争”だ。そのために必要なものがなにか分かるか?」
俺の質問に、ルナもイブも答えることができない。
「…“兵隊”だ」
そう、戦争には兵隊が必要だ。
そろそろ、次の計画に進まなければ…ジャスティス・ギルドに対抗する“兵隊集め”に。
どんな形であれ、公開されたものを観に行くのがファンの宿命…
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次回もお楽しみに!