#8 ターゲットは“世界最強”
「…手に持ってるそれはなんだ」
ここは、クロウ・ネストの作戦会議室。
目の前のルナに、俺は質問せずにはいられなかった。
「あぁ、これ?私のコレクション、ナイトクロウとスーパーノヴァのアクションフィギュアよ」
ルナはそう言うと、2体のフィギュアをガシガシとぶつけ合わせる。
「今日は、対ジャスティス・ギルドの“作戦”を考える日でしょ?こうやってシミュレーションするには最適だと思って」
…まぁいい。
ルナの言うとおり、今日はジャスティス・ギルドへの“復讐”作戦を計画する日だ。
気を取り直して、俺はギルドの情報が映るモニターを指差した。
「では、あらためて整理しておく。俺たちが挑むジャスティス・ギルドは“世界最強のヒーローチーム”。しかし実態は、『犯罪が根絶されるとヒーローの存在意義がなくなる』『人間はスーパーヒーローに守ってもらうしかない』と考えている、“外道”共だ。最近はキャラクタービジネスに夢中で、まともにヒーロー活動なんてしていない。俺が脱退してから、メンバーは5人になった」
モニターには、どす黒い本性とは真逆の白い歯を見せて、爽やかに笑うスーパーノヴァたちが映っている。
俺は、円卓に座るルナに投げかけた。
「1人目は、スーパーノヴァ。惑星オリハルコン出身。ヒーローオタクなら、よく知ってるな?」
「当然よ!」待ってました…って感じだな。
「超新星爆発と同じ力を持つ男。宿敵は悪の天才科学者、ドクター・ジーク。核ミサイルでも傷つかない鋼鉄の皮膚を持ち、マッハで飛行、目からはビームを放つ。本気になれば惑星を丸ごと破壊できる、“世界最強のスーパーヒーロー”でしょ?でも、私にとっての最強は、ナイトクロウだったけどね」
…そんなことまでは聞いていないんだが、まぁいい。
「その通りだ。そんなスーパーノヴァの恋人が、レディダイナ」
「女神の加護を受けた、高い腕力と耐久力、スタミナを併せ持つ“聖女”ね。彼女の“聖剣”には、今までに倒してきた邪神の魂が封印されてるって聞いたわ」
モニターの情報が、次々と切り替わる。
「3人目は、レッドライトニング。“地上最速のスーパーヒーロー”。やつの超スピードは、いずれ次元の壁さえも突破できるのではないかと言われている」
「特殊な薬品を飲んでパワーを身に付けた、ティーンの人気ナンバーワンヒーロー。自分のスピードに絶対の自信を持ってるけど、実際に速さだけならスーパーノヴァを上回ってるのが恐ろしいわ」
「単に早く動けるだけじゃない。やつのパワーは、回復能力にも適用される。つまり、どんなダメージを受けても、瞬時に回復してしまうんだ」
続けて、モニターに4人目のメンバー…青色の肌をしたエイリアンが映し出される。
「そんなレッドライトニングとよくつるんでいたのが、こいつだ」
「スターシューターね…宇宙警備隊の隊員。ずっと疑問だったんだけど、彼はどうして地球に来たの?警備隊ってことは、誰かが電話でもして呼んだわけ?」
…ヒーローオタクのルナが知らないのか?意外だな。
「やつは、凶悪な宇宙の犯罪者【オメガ】を追って、地球にたどりついた。そのまま地球に居座って、活動を続けている」
「そいつはどうなったの?」
「さぁな、誰も知らない。やつが“処刑”したんだろう」
スターシューターは、宇宙警備隊員である自分に地球の法律は適用されないと主張し、腕から放つ必殺光線で、犯罪者を次々と処刑していった。
俺はずっと反対していたが、世間は彼の行為を黙認してきたのだった。
“正義のため”という大義名分はあるし、何より“宇宙の警察”の言うことだ。
「…とにかく、やつの“必殺技”に当たると、跡形もなく消し飛ぶ。だが、もっと厄介な技を持っているのが、マダムミストだ」
「謎の多い“魔女”ね。外見は幼いけど、実はもう何万年も生きてる…こういうのってなんて言うんだっけ、ロリババア?」
…ルナの問いかけを無視して、俺は続けた。
「彼女は黒魔術を使って、触れたものを闇の世界に引きずりこむ霧を発生させる」
俺の武器はハイテクスーツとガジェット類だが、どんなに発達した科学技術でも、魔術にはかなわない。
魔法に対抗できるのは同じく魔法か、神話の世界なのだ。
「…さて、こんな“世界最強のヒーローチーム”に、ヒーローオタクならどう挑む」
俺の質問に、ルナは頭を悩ませている。
手元のフィギュアをガチャガチャといじっていたが…
「…思いつかない。オタクなら誰でも一度は妄想するわ、『自分がヴィランになったら、スーパーヒーローをどうやって倒そうか』って…でも、ジャスティス・ギルドには弱点がないんだもん」
そう言うと、テーブルにフィギュアを放り出す。
なるほど、弱点がない、か。
「確かに、そうかもな。だが、あいつらは他にも持っていないものがある」
それを聞いて、ルナが首をかしげる。
「ジャスティス・ギルドが持ってないもの?」
「あいつらにはない、俺だけの“パワー”のことだ」
「…ナイトクロウは、スーパーパワーを持たない常人ヒーローでしょ?」
案の定、きょとんとしてるな。
「確かにそうだ。だが、カイト・クライは…“金”を持ってる」
俺はポケットから、ぐしゃぐしゃの【スーパーノヴァのプロテインバー】の包み紙を取り出す。
【ジャスティス・ギルド4公開記念キャンペーン中!】か…
「イブ、仕事だ」
俺の声に反応して、すぐにイブのホログラムが出現した。
「なんなりとお申し付けください、カイト様」
「【ジャスティス・ギルド4】の制作会社を、すぐに買収しろ。クライ産業の傘下にするんだ」
「…失礼ですが、映画会社をですか?」
「ちょっと待ってよ」
イブが聞き返すだけでなく、ルナも割って入ってきた。
「ジャスティス・ギルドに復讐するんでしょ?それなのに、映画会社を買収するってどういうこと?映画でも撮影するわけ?」
2人とも、俺の発言の真意がわからないようだな。
だが…
「その通りだ、ルナ。最高のスーパーヒーロー映画を撮影してやるんだよ」
自信満々な俺の発言に、ルナだけでなく、感情のないAIであるはずのイブまでもが、ただただ目を丸くさせるだけだった。
世界最強のヒーローチーム、あなたならどう倒す?
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次回もお楽しみに!