#7 学校へ行こう
今回からカイト視点に戻ります。
「すごいじゃない、カイト!」
ジャスティス・ギルド結成3周年記念パーティーの翌朝、朝食の席でルナが叫んだ。
「…口に食べ物を入れたまま喋らないでくださいね。掃除するのは私なんですから」
イブの冷たい視線も気にせず、銀のトレーに盛られたフルーツをほおばり、手には今朝の朝刊を持っている。
俺の家に来てからまだ2日しか経っていないが、もうすっかりなじんでいるようだな。
イブとも仲が良さそうで結構だ。
ルナは、記事の見出しを読み上げた。
「『クライ産業社長のカイト・クライ、新基金の設立を発表。市民からは感謝の声が…』あなたが昨日のパーティーの主役だったんじゃないかって思うくらいの記事よ。ジャスティス・ギルドについては、端の方に小っっっちゃく載ってるわ」
「ジャスティス・ギルドにとっては、面目丸つぶれですね。今回の発表で、クライ産業の株価も上がりましたし」イブも横から口をはさむ。
自分が一番注目されないと気が済まないあいつらにとって、昨日の出来事は屈辱的だったにちがいない。
「これでカイトの復讐は終わったの?」ルナが聞いてきた。
「まさか。まだまだ、これからだ。あいつらにヒーロー活動を続けさせていても、きっと真の平和は訪れない。あいつらが俺を“追放”したように、俺もあいつらを“追放”し返す。そして、平和を手に入れる。俺の目的は、そこにあるんだ」
「“追放”って…メテオシティから?それとも…この世から?」
「恐ろしい聞き方をしてくるな。俺は、殺しは絶対にしない」
“不殺の誓い”は、俺のヒーローとしての信念でもある。
どんなに凶悪な犯罪者でも、正当な方法で裁かれるべきだと考えているからだ。
それを忘れれば、俺のやっていることはヒーロー活動ではなく、単なる“自己満足”になってしまう。
だが、ジャスティス・ギルドの連中にどんな末路が待ち受けているかは…
「…怖い顔してるんだけど、気付いてる?」
いけないいけない。表情に出ていたのか、ルナに突っ込まれた。
気を取り直して、俺は“食事”を続ける。
と言っても、目の前のトレーに置かれたプロテインバーを口に放り込むだけだが。
【スーパーノヴァのプロテインバー~君もこれ一本でムキムキに~】か。
【ジャスティス・ギルド4】公開記念キャンペーンのシールも貼ってある。
俺は勢いよく、パッケージのスーパーノヴァの顔を引き裂いた。
「億万長者の朝食って、もっと豪華なものだと思ってたわ」
「夢が壊れたか?毎食ファーストフードの大富豪だっているぞ。それに俺には、食事にかけている時間がない。社長にヒーロー、高校生でもあるんだからな」
そんなことを言っている間に、そろそろ登校時間だ。
今日からルナも、俺と一緒の学校に通い始める。
プロテインバーをかじり終えると、俺はパッケージをぐしゃっと握りつぶした。
◇◇◇◇◇
俺が通う高校【メテオシティ・ハイスクール】までは、イブが自動運転するリムジンで通学している。
「わざわざホログラム姿のイブを投影する必要あるの?」
「運転席に誰もいない車が走っていると、市民が驚くのです」
そんなルナとイブのやりとりを聞いているうちに、到着だ。
今日は、車の中から俺だけではなく、見慣れない少女…ルナが一緒に降りてきた光景を見て、クラスメイトたちは驚いたようだった。
「おい、あの子何者だよ」
「あのカイト・クライと一緒に登校してきたってことか?」
「あんなに近寄りにくいカイトの横に、ぴったりくっついてるわよ」
ひそひそ話す声が聞こえる。
「もしかしてカイトって、学校だとぼっちなの?…いじめられっ子が実はスーパーヒーローって、王道の展開じゃない!超クール!」
はぁー…ルナの問いかけに、俺はため息をついた。
お前は何を喜んでるんだ。
自分で言うのは変な気分だが、俺は決して社交性がないわけではない。
むしろ社長という立場上、十分に持ち合わせているくらいだ。
クラスメイトが近寄らないのは、“世界一の大企業の社長”として、必要以上に俺に気を遣っているからだ。
…本当は、もっと気軽に話しかけてほしいんだが。
有名人や金持ちしかいない名門校に通う、という選択肢もあった。
だが、そのような学校は名門ゆえに、当然規律も厳しい。
ヒーロー活動もしなければいけない俺は、事件が起こると授業中でも抜け出す必要がある。
だからこそ、厳しい名門校ではなく、一般的なこの学校に通っているのだった。
事実、テストで高得点さえ取れば、授業中にいくら抜け出しても文句を言われたことはない。
「なーんだ。じゃあ、いじめっ子に絡まれるけど、自分しか知らないヒーローの秘密を匂わせて見返すってことはできないのね」
俺の話を聞いてなぜか残念がっているルナを連れて、教室に入る。
ホームルームが始まった。
「みなさん、おはようございます。今日からこのクラスに、新しい仲間が加わりました。ルナさん、どうぞ」
「はい!」
担任に促され、ルナが元気よく答えた。
「はじめまして、ルナ・メイトです!趣味はヒーロー活動…じゃなくって、ヒーローの活動を調べることが好きです!ヒーローオタクで、最推しはナイトクロウ!よろしくお願いします!」
…まばらな拍手が起こる。
「みなさん、仲良くしてあげてくださいね。では早速、一限目ですが…」
◇◇◇◇◇
いつの時代、どこの国でも、やはり転校生というのは一大イベントらしい。
昼休みの食堂、ルナの席には人だかりができていた。
「ルナちゃんよろしく!」
「俺もヒーロー好きなんだ、レッドライトニングかっこいいよね!」
「…あ、ありがとう。私の方こそよろしく!」
大勢に囲まれ慣れていないのか、ルナは少し緊張気味だ。
俺は少し離れた席で、その様子を見ていた。
俺が一緒にいると、クラスメイトもルナに話しかけにくいだろうからな。
だがそこに…
「あら!あなたが転校生?」
突然声をかけられて、ルナはビクッと震える。
…あいつらか。
モデルのような高身長に、金髪縦ロールの“お嬢様”。
後ろには、取り巻き2人を連れている。
学校では誰も俺に近寄らないと言ったが、例外がある。
彼女のような、スクールカースト上位の学園女王。
俺の財産目当てに擦り寄ってくる彼女の名前は…覚える気もない。
「あなた、今朝カイト様と一緒に登校してきたんですって?あまり調子に乗らない方がいいわよ。大体、カイト様とどういう関係なのかしら?」
“女の戦い”か、レディダイナとマダムミストを思い出すな。
意地の悪い笑みを浮かべるクイーンビーに、その場の空気が張り詰める。
…嫌な予感がする。
ルナの瞳が(ヒーローがいじめっ子に…待ってました!)とでも言うように輝いていたからだ。
彼女は口を開いた。
「…カイトとの関係?私にとってずっと憧れの人で、ある日突然一緒になることができたって感じかな?で、今は同じ家に住んでて、一緒に同じ学校にも登校してるってわけ。私しか知らない“秘密”もあるんだから」
…少しの沈黙があった後。
「お、同じ家…一緒に…」
《CRASH!!》
クイーンビーが盛大に倒れた。
「しっかりしてください!」
「大丈夫ですか!?」
慌てる取り巻きたちをよそに、ルナが俺に向かって親指をグッと立てる。
…突き刺さるクラスメイトたちの視線。
これなら、スーパーノヴァのレーザーに体を貫かれた方がマシかもしれない…
クラスメイトに社長がいたら仲良くできる?
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次回もお楽しみに!