#6 堕ちたヒーロー~ジャスティス・ギルドのその後①~パート2
前回に引き続きジャスティス・ギルド視点です。
パーティー会場に現れ、マスコミの注目をさらっていったのは、クライ産業の社長、カイト・クライだった。
(…ちっ、ぼんぼんが。タイミング悪いんだよ)
自分より若くして大金持ち、世間の注目を集めているカイトのことを、スーパーノヴァは嫌っていた。
それでもパーティーに招待したのは、媚びを売っておけば何かの役に立つかもしれない、と考えたからだ。
ジャスティス・ギルドに多額の資金援助でもしてくれれば、万々歳だ。
「カイトさん、なぜ今回はパーティーの招待を受けたのですか?普段あなたはこの手のパーティーには参加せず、代わりに病院や慈善団体に多額の寄付をしていますが」
「寄付ならいつでもしています、失礼」
質問を浴びせるマスコミをかき分けて、カイトがスーパーノヴァたちに近づく。
(チャンスだ・・・!)スーパーノヴァは思った。
世界一のスーパーヒーローと世界一の社長、二人が握手する写真は、絶対にバズる。
彼は、カイトに手を差し出した。
「ようこそ、カイト君!来てくれてよかったよ。君みたいな才能あふれる若者は、我々のパーティーの参加者にふさわしいからね。今日は君のスピーチも楽しみにしているよ、さぞかし素晴らしい内容を…」
だが…
「どうも。すみませんが、握手はできません。あなたのようなヒーローの手を握るのは、恐れ多くて」
それだけ言うと、カイトはさっと通り過ぎてしまった。
「待ってください!」
マスコミも後に続いてしまう。
大変な屈辱だった。
世界最強のスーパーヒーロー…誰もがうらやむはずのスーパーノヴァの握手を、カイトは無視したことになるのだ。
(あのガキ…俺が恥をかいたじゃないか!しかもマスコミ共も、あいつばっかり追いかけやがって。今日の主役は俺なんだぞ!)
ふと、スーパーノヴァは彼らを惹きつけられる、重大発表があることを思い出した。
(そうだ、あのことを話せばいい…)
「みなさん!」声をあげたスーパーノヴァに、さすがにマスコミも振り向く。
(これでいい)
注目を集めてから、彼は会場中央のスピーチ台へと向かった。
「あらためまして、みなさん。本日は私たちジャスティス・ギルド結成3周年の記念パーティーにお越しいただき、ありがとうございます。このような喜ばしい日に、1つ残念なお知らせをしなければいけません。実はメンバーの1人、ナイトクロウが、チームから脱退したのです」
…会場の音楽が、一瞬にして静まった。
マスコミだけでなく、ゲストや見物人の市民にも、驚きの声が広がっていく。
「ナイトクロウはチームで唯一、スーパーパワーを持たない普通の人間でした。そんな彼は、この先激しくなる戦いにきっとついてこられない。そう判断した私が、脱退を進めたのです。彼を思ってのことでしたが、苦しい決断でした」
このように発表すれば、“仲間思い”としてスーパーノヴァの株も上がる。彼はそう考えたのだ。
だが…
「…ふざけるな!」
市民の1人から、怒声が上がった。
「ナイトクロウは、一番真剣に街の犯罪と向き合ってくれた!あんたらが空を飛んで、お偉いさんばっかり助けてる時、路地裏で悪党からわしらを守ってくれたんだ!」
声の主は、老人だった。
「そうよ!」隣の女性も賛同している。
だんだんと、群衆のブーイングが大きくなっていく。
事実、スーパーノヴァたちは要人救出などの“金になる”仕事ばかり引き受けていた。
メテオシティの犯罪と闘い、市民を守ってきたのは、実質ナイトクロウただ一人だったのだ。
(まずい…)スーパーノヴァにとって、この事態は予想外だった。
残りのメンバーは、自分は関係ないというような顔をしてこちらを見ている。
全員(お前がなんとかしろよ…)とでも言いたげだ。
(こいつら…!)
だが、突破口を切り開いたのは、意外な人物だった。
「スーパーノヴァ、ここは任せて。このまま私にスピーチをさせてください」
そう言って壇上に上がってきたのは、カイトだった。
「みなさん、どうか落ち着いて。彼の言うことも一理あります」
カイトが話し出すと、会場は静けさを取り戻したようだ。
(…ふぅ、なんとかなったか。ガキのくせにやるじゃないか)
スーパーノヴァは汗をぬぐった。
「どうも、みなさん。カイト・クライです。私の父はクライ産業の社長として街の発展に尽くし、今では私が会社を受け継ぎました。クライ産業が築いたメテオシティの平和を守るジャスティス・ギルドには、感謝しています」
そう言って、カイトはちらりとスーパーノヴァを見た。
(いいぞいいぞ、もっと崇めるんだ)
スーパーノヴァはドヤ顔を隠すのに必死だ。
カイトは続けた。
「確かに、ナイトクロウは超人ばかりのジャスティス・ギルドで、唯一スーパーパワーを持っていませんでした。そんな彼が犯罪と闘うのは危険だ、無謀だ。そう思う人もいるでしょう。しかし、スーパーパワーがなくても闘っている人々は、実は身近にいるのです。それこそが、今日私が伝えたいこと─日々街の平和を守る、警察官や消防士の方々も、立派なヒーローなのです」
(…ん?)予想外の話の流れに、スーパーノヴァが焦り出す。
(なにを言ってるんだ、今日の主役は俺たちスーパーヒーローだ。俺たちを称えるスピーチをさせるために呼んだんだぞ、話が違う!)
だが、そんな彼の思いとは裏腹に、カイトの話は進む。
「スーパーパワーを持たずに闘う彼らを支援するために、私はクライ産業の社長として、総額1億ドルの【 真のヒーロー基金】を設立することに決めました」
会場に衝撃が走った。「…1億ドルだって!?」
「街を守る“ヒーロー”たちに感謝します。私からは以上です」
「待ってください、カイトさん!」
簡潔に話を終え、壇上から去ろうとするカイトに、マスコミの質問とカメラのフラッシュが容赦なく浴びせられる。
「ジャスティス・ギルドへの資金援助は行わないのですか?」
「ナイトクロウの脱退について、もう少し意見を聞かせてください!」
「次の市長選に出馬するという噂は本当ですか⁉︎」
…いつの間にか、ジャスティス・ギルドはすっかり蚊帳の外に置かれていた。
「ちょっと、なんとかしてよ!」
レディダイナが、スーパーノヴァに向かってヒステリックに叫ぶ。
「…あ、あのー、みなさん…」
だが、スーパーノヴァの声は、誰にも届かない。
今や会場はカイトへのインタビューの場と化してしまい、もはや彼らに注目する人物は1人もいなかった。
「…はぁー、しょーもな」
レッドライトニングはそうつぶやくと、超高速で会場から走り去った。続けて、スターシューターも空へと飛び立つ。
マダムミストは、自身を魔法の霧で包み、その場から消えた。
残ったのは、喚き続けるレディダイナだけだった。
(…クソ!クソ!クソ!どうしてこんなことに…)
目からレーザーを乱射し、全てを焼き払いたくなる衝動を必死に押さえつけるスーパーノヴァ。
しかしこの時、彼はまだ知らなかった。
これは彼らの“転落”の始まりに過ぎないということを。
ちなみに1億ドル=110億円ぐらいらしい
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次回もお楽しみに!