#5 堕ちたヒーロー~ジャスティス・ギルドのその後①~パート1
今回はジャスティス・ギルド視点です。
なんてすがすがしい気分なんだ…
ジャスティス・ギルドのメンバーの1人、スーパーノヴァの心は晴れやかだった。
ここは、メテオシティの中央広場。ジャスティス・ギルド結成3周年記念パーティーの会場だ。
夜空には花火が上がり、会場は多くのゲストやマスコミで埋め尽くされている。
一般市民も見物人として集まり、マーチングバンドに拍手を送っていた。
ちょうど今、【ジャスティス・ギルドのテーマ】の演奏が終わったところだ。
今日は、多くの“なんの力も持たない無力な人間たち”が、スーパーパワーを持つ自分たちに感謝し、崇める一日になるのだ。
そのような記念すべき日の前に、“無能代表”ともいえるナイトクロウをチームから追い出せたのも、スーパーノヴァにとって喜ばしいことだった。
(ナイトクロウのやつめ、なんのパワーもないくせにでしゃばりやがって…)
彼にとって、人間とは、自分たちスーパーヒーローに守られる非力な存在でなければいけなかった。
ナイトクロウをチームから追放したのは、ただの人間である彼が、努力してヒーロー活動をしているのが気に食わなかったからだ。
(それに、あいつが活躍しすぎると、いずれ街から犯罪が一掃されてしまう。そうしたら、俺たちヒーローは一体なにと戦えばいいんだ?)
スーパーノヴァは、人々のためではなく、自分のためにヒーローをしている、典型的な救世主妄想者だった。
「あれだけの数のカメラに撮られるっていうのにメイクが決まらなかったわ、最悪」
彼の隣にいたレディダイナが、愚痴をこぼす。
「まったく、パシャパシャとうるさいのぉ。カメラの光も、わざわざ映りたがろうとする目立ちたがり屋も、同じくらい苦手じゃ」
その横で、マダムミストがわざと大声でぼやいた。
「なに!?私にケンカ売ってるわけ!?」
レディダイナが、武器である聖剣に手をかける。
純白のコスチュームを身にまとい、女神から人類を守る使命を受けた“聖女”ヒーローの彼女だが、その内心はどす黒い。
人類を愚かな生き物として見下しながらも、承認欲求を満たすためだけにヒーローを演じているのだ。
彼女はスーパーノヴァの恋人でもあるが、ただ単に“世界最強のヒーローの恋人”というステータスが欲しいために付き合っているのだった。
「はぁ、“若者”は血気盛んで結構じゃな。いや、最近小皺が目立ってきたかのぉ?」
一方、彼女を挑発するマダムミストは、外見こそ幼いが、何万年も生きている“魔女”。聖女と相性が悪いのは、当然のことだった。
今まで何度も文明を滅ぼしてきた彼女は、単なる暇つぶし、お遊びでヒーロー活動をしているだけだ。
飽きたら、また全てを滅ぼせばいい。
長い年月を生きてきた彼女にとって、人類とは昆虫のようなものだった。
「お、喧嘩か?いいじゃん、俺もかったりぃパーティーなんて、走り回ってめちゃくちゃにしようと思ってたんだよ!」
レッドライトニングが叫ぶ。
“地上最速のスーパーヒーロー”である彼は、暴走衝動が抑えられず、なんでも自分が一番にならないと気が済まない。
合法的に何もかも破壊できるから、という理由だけでヒーロー活動をしている男だ。
そんな彼に、スターシューターが尋ねた。
「ねぇねぇ、カメラに映るのに、この肌の色は青すぎるかな?僕もメイク失敗しちゃって」
「なに言ってんだよ、元からその色だろうが。っていうか、今日は太陽系のパトロールとやらには行かないのかよ。いつもは宇宙を飛び回って、ほとんど基地にいないくせに」
「そんなことより、パーティーの方が大事だからね」
宇宙警備隊の隊員とは思えないほど、スターシューターは堂々と答えた。
普段は、腕から発射する必殺光線で、多くの犯罪者を裁判抜きで独自に“処刑”しているスターシューター。
もちろん、地球の法律に照らし合わせれば違法だが、宇宙警備隊員である彼は、それを一切無視して活動している。
「レディダイナとマダムミスト、もうやめろ。不仲が世間にばれたら、イメージダウンにつながるぞ。カメラの前では、聖女と魔女でも仲良くできるような、チームの多様性を見せつけるんだ。レッドライトニングとスターシューターも、不用意な発言はするんじゃない。マスコミに拾われたらどうする。我々はあくまで、“正義と真実のために戦う”ヒーローなんだからな」
スーパーノヴァが全員を一喝した。
正義と真実のために戦う…大嘘だ。
実際は、金や、自分の欲求のために戦っている。
だが、そんな彼らの本性に気付く者はいない。
チームメイトだったナイトクロウでさえも、騙されていたのだから。
「そろそろ我々も、会場を適当に歩いてマスコミに写真を撮ってもらわなきゃな。あとはインタビューだ、映画【ジャスティス・ギルド4】の宣伝を何としてでもねじ込まなければ。“信者”共は、新作が出たというだけで、思考停止して金を払う。今回も大儲けだぞ」
今やキャラクタービジネスこそが、ジャスティス・ギルドのメインの活動だった。
唯一真面目にヒーロー活動を続けていたナイトクロウは、もういない。
スーパーノヴァは精一杯の笑顔を貼り付け、マスコミに向かっていく。
「やぁ、みなさん!」
「あっ、スーパーノヴァだ!」「ご覧ください!本日の主役、ジャスティス・ギルドがやってきました!」
カメラのフラッシュが、一斉にたかれる。
(いい気分だ、もっと俺を見ろ…)
スーパーノヴァはほくそ笑んだが、ちょうどその時、会場に一人の青年が姿を現した。
「…おい、あれって」「あの大富豪か?」「こんなパーティーなんて滅多に参加しないのに、チャンスだぞ!」
途端に、マスコミは一気にスーパーノヴァから離れ、そちらに殺到していく。
(お、おい、今日の主役は俺だろ!俺よりも凄いやつが来たっていうのかよ?)
スーパーノヴァが、彼らの行き先に視線を向けた。
そこにいたのは、クライ産業の社長。
高校生にして世界一の億万長者─カイト・クライだった。
遂にカイトとスーパーノヴァが対面…?
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次回もお楽しみに!