#3 クロウガール参上!
「クロウガール、参上!」
路地裏に突然現れた、つぎはぎだらけの手作りのコスチュームの少女。
俺と同じくカラスをモチーフにしたマスクからは水色の瞳がのぞき、オレンジ色の長い髪がはみ出している。
彼女は、自称【クロウガール】。
ヒーローオタクで、どうやら俺…ナイトクロウの熱狂的な“ファン”らしく、いつからか俺の行く場所に必ず現れるようになった。
毎回、俺のピンチを救いに来たと主張し、自分を“相棒”にしてくれと訴えかけてくる。
ちなみに彼女の本名は、ルナ・メイト。俺と同じ18歳。
なぜ知ってるかって?【クロウガール活躍日誌~ナイトクロウの真の相棒の物語~】というタイトルのブログで、大々的に公表しているからだ。
「また彼女ですね」イブの呆れた声が聞こえる。AIに感情はないはずなんだが…
「この街で悪さをするのは、私たちが許さない!」
クロウガールが高らかに宣言した。ちなみに彼女の言う“私たち”には、俺も含まれているらしい。
突然殴られた大男は、最初こそ呆気にとられ動けなかったようだが…
「なんだお前は!突然出てきやがって、意味わかんねえぞ!」
もっともな怒りを叫ぶと、クロウガールにショットガンを向けた。
まずいな…怒りの矛先が、完全に彼女に向いている。
市民を巻き込み、犠牲を出すことだけは、ヒーローとして避けなければいけない。
俺は素早く、武器であるカラスの羽根型ダーツを投げた。
《KRAK!》
「ぐあっ!」金属製のダーツが眉間に命中した大男は、その場に倒れこんだ。
一瞬の出来事だったが…
「…さすがナイトクロウ!また私たちの連係プレイで、悪を倒したわね!」
“彼女”が来なければ、もっと早く片付けられていたな。
「また邪魔しに来たのか」
「邪魔じゃないでしょ!今回だってピンチを助けたし、いつだって助けてるじゃない!」
「違うな、いつも俺が助けてる」
彼女は頬を膨らませた。
「…で、今回の活躍ぶりはどうだった?私を相棒にしてくれる気になった?」
ただの“ファン”である彼女は、もちろんなんのパワーも持たない一般人だ。
唯一パワーがあるとしたら、何度俺に追い払われてもめげない“鋼の心臓”かもしれない。
「ダメだ」
「なんで即答なのよ!」
「ヒーロー活動は危険だからだ」
倒した犯罪者を近くの電柱に縛りつけながら、俺はクロウガールの相手をする。
「分かってるわ、でも私はあなたを助けたいの。仲間になりたいの!」
“仲間”か…いつもなら聞き流す言葉なんだがな。
「そんなにヒーローごっこがしたいなら、ジャスティス・ギルドの“仲間”にしてもらったらどうだ?さっき一人欠員が出たんだ、俺がチームから追放されてな。もしかしたら仲間にしてくれるかもしれないぞ。多分“ただの人間”は門前払いされて終わりだろうけどな」
…しまった、つい感情的になってしまった。
クロウガールを見ると、さすがに少し驚いたようだった。
沈黙が気まずい。
「…その話って、本当?チームを追放されたの?どうして」
先に口を開いたのは、彼女の方だった。
「俺がスーパーパワーを持っていないことは知ってるだろ。そんな人間は、チームに必要ないらしい」
少し話しすぎたな、反省しなければ。
「いや、関係なかったな。こんなことまで話して悪かった…」
「私は!」俺の言葉を遮り、彼女が話し出した。
「私は、ヒーローごっこがしたいわけじゃない。ナイトクロウ、あなたに憧れてただけなの。確かになんのパワーも持たないかもしれないけど、それでも他のヒーローと同じように戦えているあなたに。ジャスティス・ギルドの中で、一番憧れてた」
思いもよらない言葉だった。
彼女は続けた。
「私ね、幼いころに両親を犯罪で亡くしたの。それ以来、なんとかして悪と戦いたくて。でも普通の人間には、限界があって。それでもヒーローをしているあなたが、かっこよかった。だから仲間になりたかったの」
彼女の姿と、自分の姿が重なる。
今度は、俺が口を開いた。
「…困っている人がいたら」
「…え?」
「困っている人がいたら、なんの見返りがなくても、迷わず手を差し伸べる気持ちはあるか」
俺の突然の問いかけに、彼女は驚いたようだが…
「あるわ」迷わずに、力強くそう答えた。
「そうか…ヒーローになるのに、スーパーパワーは必要ない。必要なのは、その気持ちだけだ」
「…えっと、そのセリフって、つまり…?」
どうしてこんなことを言ってしまったのだろう。
まぁ、考えるより先に口が開いていたから仕方がない。
「はぁー…ついてこい、相棒」
「えっ!認めてくれるの…!?やったぁ!」
クロウガールの小柄な体がぴょんぴょん飛び跳ねる。
「いいんですか、カイト様?」
イブは心配そうだ。
「信じてみようと思っただけだ…。とりあえず、今から俺の秘密基地に帰還する。イブ、クロウモービルを自動操縦でここまでよこしてくれ」
それを聞いたクロウガールが声をあげた。
「クロウモービルって、ナイトクロウが乗るあのスーパービークル!?私も乗せてもらえるの!?」
「当たり前だ、スーパーヒーローが徒歩で基地まで帰るか。クロウモービルは最高時速600kmまで出せる、あっという間に帰れるぞ。ただし…」
「ただし、なに…?」
ヒーローは常にタフでなければいけない。
恐る恐る聞くクロウガールに、俺は現実を突きつけた。
「…ただし、シートベルトはない」
「…基地までの電車かバスがあれば、それで行きたいんだけど」
「あるわけないだろ」
スーツ、相棒、スーパーモービル…あと必要なのは秘密基地だけ
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次回もお楽しみに!